法制審議会 第193回会議 議事録 第1 日 時  令和4年1月17日(月)   自 午後1時59分                        至 午後2時26分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  マネー・ローンダリング罪の法定刑に関する諮問第119号について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○加藤司法法制課長 ただいまから法制審議会第193回会議を開催いたします。   本日は、委員20名のうち、会議場における出席委員11名、ウェブ会議システムによる出席委員5名、計16名に御出席いただいておりますので、法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   本日は、古川法務大臣が国会本会議出席のため本審議会に出席できませんので、大臣から託されております挨拶を、津島法務副大臣が代読いたします。よろしくお願いします。 ○津島法務副大臣 法務副大臣の津島でございます。   ただいま御案内がございましたように、法務大臣は、国会本会議に出席されております。したがいまして、法務大臣の挨拶を代読させていただきます。   会議の開催に当たり、一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては、御多用中のところ本会議に御出席いただき、誠にありがとうございます。 また、法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し、厚く御礼申し上げます。   さて、本日御審議をお願いする議題は、「マネー・ローンダリング罪の法定刑に関する諮問第119号」についてでございます。   昨年8月、マネー・ローンダリング対策等を推進する国際的な枠組みであるFATF(金融活動作業部会)から、我が国に対する審査結果として第4次審査報告書が公表されました。この報告書では、我が国における対策が不十分であり、強化すべき旨の勧告がなされ、その一つとして、マネー・ローンダリングを処罰する罪の法定刑を引き上げるべきとの指摘がなされました。   国際的協調の下で、不正な資金移動を一層効果的に防止・抑止することは政府の重要課題であります。このように国際的動向を踏まえ、早急に、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要があると思われることから、御審議をお願いするものでございます。   この諮問については、速やかに審議に着手していただきたいことから、本日は臨時の会議を開催することとしたものです。御審議、御議論をよろしくお願い申し上げます。   以上、代読でございます。 どうぞよろしくお願いいたします。 ○加藤司法法制課長 法務副大臣は、公務のためここで退席させていただきます。           (法務副大臣退室) ○加藤司法法制課長 ここで、報道関係者が退出しますので、しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○加藤司法法制課長 まず、事務局から会議に当たっての留意事項を御案内いたします。   ウェブ会議システムにより御出席の委員におかれましては、御出席されていることを確認させていただくため、会議中は常にカメラをオンにしていただきますようお願いいたします。   また、本日の会議は、ペーパーレス化によりタブレット端末による資料配布となっております。操作方法等について御不明な点がある場合には、事務局に適宜お知らせください。   それでは、井田会長、お願いいたします。 ○井田会長 井田でございます。本日はよろしくお願いいたします。   まず、前回の会議以降、本日までの間における委員等の異動につきまして御紹介いたします。詳細はお手元にお配りしております異動表のとおりですが、新たに就任された芳野委員は本日欠席されております。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。   先ほどの法務大臣挨拶にもございましたように、本日の議題であります、「マネー・ローンダリング罪の法定刑に関する諮問第119号」について、御審議をお願いしたいと存じます。   はじめに、事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○浅沼企画官 刑事局企画官の浅沼でございます。諮問事項を朗読させていただきます。   諮問第119号   近年におけるマネー・ローンダリング対策に関する国際的動向等に鑑み、早急にマネー・ローンダリング行為に係る罰則の法定刑を改正する必要があると思われるので、別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙、要綱(骨子)   一、不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為の罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第9条第1項から第3項まで)の法定刑を10年以下の懲役若しくは1、000万円以下の罰金又はその併科とすること。   二、犯罪収益等隠匿の罪(同法第10条第1項)の法定刑を10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科とすること。   三、犯罪収益等収受の罪(同法第11条)の法定刑を7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科とすること。 ○井田会長 続きまして、この諮問の内容、諮問に至る経緯及びその理由につきまして、事務当局から説明をお願いいたします。 ○川原幹事 刑事局長の川原でございます。諮問第119号につきまして、諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   組織的犯罪処罰法に設けられているマネー・ローンダリング罪の法定刑の上限は、不法収益等による事業支配罪及び犯罪収益等隠匿罪が懲役5年、犯罪収益等収受罪が懲役3年であり、同法が制定された平成11年以降改正されていません。   マネー・ローンダリング対策等について国際基準の策定及び履行審査を行う国際的枠組みであるFATF(金融活動作業部会)は、昨年(令和3年)8月、我が国に対する第4次審査報告書を公表し、我が国は、制度面及び運用面にわたって様々な指摘や勧告を受けました。 その中で、我が国が優先して取り組むべき事項の一つとして、マネー・ローンダリング罪の法定刑の上限を、少なくとも、犯罪収益を最も頻繁に生み出す前提犯罪である詐欺罪や窃盗罪等と同水準に引き上げるべきである旨が勧告されました。   我が国の詐欺罪及び窃盗罪の法定刑の上限は、いずれも懲役10年であり、また、我が国以外のG7諸国において、いずれも、マネー・ローンダリングの処罰規定の法定刑の上限は、10年あるいはそれ以上とされています。   マネー・ローンダリング罪の趣旨は、犯罪によって得られた収益が犯罪組織の維持・拡大に用いられたり、将来の犯罪活動に再投資されるほか、事業活動に投資されて合法的な経済活動に悪影響を及ぼすことを防止するためです。 このようなマネー・ローンダリングの処罰は、組織的な犯罪に経済的な側面から対処する措置として必要不可欠なものと位置付けられますが、近年、グローバル化、デジタル化の進展に伴い、電子マネーや暗号資産など、国内外を問わず資金移転や決済の手段・方法が多様化し、それらがマネー・ローンダリングの誘因となり、また、発覚の困難性が高まっています。 我が国の組織犯罪の実態を見ても、いわゆる特殊詐欺事案を典型として、犯罪の発覚を免れながら収益を獲得し続けるため、取引名義を偽装したり、移転の容易な財産に転換するなど、多くの事案で、マネー・ローンダリングが行われています。   こうした近年の動向を踏まえると、マネー・ローンダリングに対しては、国際社会と協調しながら、より強力に抑制を図るべき重要性がますます高まっており、FATFからの勧告を契機として、より一層、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示して強力に抑止・防止することが必要であると考えられます。 そこで、早急に、我が国のマネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要があると思われることから、今回の諮問に至ったものです。   次に、諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   配布資料刑1を御覧ください。   今回の諮問に際しましては、事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししてありますので、この案を基に、具体的な御審議をお願いいたします。   要綱(骨子)について御説明申し上げます。   FATFの指摘などの国際的動向等を踏まえ、国際社会と協調してマネー・ローンダリングをより強力に抑止・防止するため、組織的犯罪処罰法に定められているマネー・ローンダリング罪について、第9条の不法収益等による法人等の事業経営の支配の罪の法定刑を、10年以下の懲役刑若しくは1、000万円以下の罰金又はその併科に、第10条の犯罪収益等隠匿の罪の法定刑を、10年以下の懲役若しくは500万以下の罰金又はその併科に、第11条の犯罪収益等収受の罪の法定刑を、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科に、それぞれ引き上げることとするものです。   要綱(骨子)の概要は、以上のとおりです。 十分御審議の上、できる限り速やかに御意見を賜りますよう、お願いいたします。 ○井田会長 ありがとうございました。   続きまして、配布資料につきまして、事務当局から説明をお願いいたします。 ○浅沼企画官 配布資料の説明をさせていただきます。   まず、番号刑1は、先ほど朗読いたしました諮問第119号です。   番号刑2は、諮問第119号に関連する組織的犯罪処罰法の条文の抜粋です。   番号刑3は、昨年(令和3年)8月に公表されたFATF(金融活動作業部会)対日相互審査報告書の概要をまとめたもので、報告書の該当部分の英文を仮訳したものを添付し、マネー・ローンダリング罪の法定刑に関して言及がなされている部分を赤枠で囲って示しております。   配布資料の説明は、以上です。 ○井田会長 ありがとうございました。   それでは、ただいま説明のありました諮問第119号につきまして、まずは御質問がございましたら承りたいと思います。どうぞ。 ○白田委員 御説明ありがとうございます。   抑止効果という法の持つ役割を十分に発揮するという意味では、大変重要な審議かと理解しております。   そこで、ちょっと質問させていただきたいと思います。   事前に配布いただきました資料のうちの、配布資料刑3「金融活動作業部会対日相互審査報告書の概要について」という資料の中を拝見いたしまして、ちょっと教えていただきたいと思う点がありました。   一つは、19ページと20ページに、19ページは都道府県警察間での共同捜査により終結したマネロン事件の件数というのが出ております。次の20ページのところは、法執行機関から検察官に送致されたマネロンの事案という件数が記載されております。これらいずれを拝見しましても、年ごとに事案数、件数が増加しているということが確認することができます。特に、2017年、18年は2014年を比べますと、かなり件数が増加しているということを把握することができます。   これに対しまして、同じ資料のちょっと先の方になりますが、30ページ、これは今回の審議と非常に重要、関係してくる内容であろうと思う内容が掲載されています。ここにはマネロンの有罪人員という、没収・追徴があった場合の有罪判決、あとは、そこの没収・追徴命令があった場合の科刑状況という表が、表3.13と14に出ております。これを見ますと、2018年がそれ以前と比較してかなり件数が少ないようです。発生件数はかなり増加しているのに対して、特に有罪判決の件数が極端に少なく見えます。   これは、組織的な犯罪とかに対する件数を示していないので、全体的に基礎となる数字としては依拠されないのかもしれないのですが、同じガイドラインで件数を計算していきながら、2014年から見ましても、2018年の有罪判決数がかなり極端に少ないと。先ほどほかの窃盗罪とか詐欺罪とかの刑10年に比べて、5年は短いから、これも抑止効果的に10年にするということは大賛成ですが、3.14にあります表を見ましても、実は、5年という刑量の件数が少ないですね。要するに、長期の有罪判決数、懲役刑が5年が他の年数よりも多いというのでしたら、もっと刑期を延ばすことによってさらに抑止効果になるというのは何となく分かるんですが、実際には懲役刑が2年から3年、3年、4年が多く、5年が非常に少ないですね。特に2018年は5年刑期の件数がかなり少ないので、その辺の背景、この統計上の数字で、どうしてこういうようなことに実態がなっているのか。実際には長期刑になるようなケースが少ないとも見えてしまいます。この点御説明いただければ有り難いと思います。よろしくお願いします。 ○井田会長 白田委員、御質問ありがとうございます。 ○保坂関係官 刑事局担当の審議官をしております保坂でございます。   幾つか御質問を頂きましたが、まず、警察の方で検察に送致した後、その事件を起訴するかどうかというのは、それぞれの個別事件における検察官の判断ということでございまして、その判断の集積がこのような統計数字に出ているということですので、私の方から一概にその背景といったものを御説明することは、難しいところでございます。   それから、あと、実際に起訴された事件の裁判所における、どれだけの刑が言い渡されているかという点についても、御質問がございました。これもまた、裁判所の個別事件における判断ということですので、その背景といったことを、私の方から申し上げるのは難しいところでございます。   他方で、先ほど事務当局から今回の諮問の趣旨、改正の趣旨について御説明いたしましたように、今までよりもマネー・ローンダリングというのは非常に厳正に対処すべき重大な罪なんだという、法的評価を示すということのために改正をするということでございますし、また、FATFからは、その法制度、法定刑の引上げのみならず、捜査や訴追の強化、この運用面についても、より強力に対応するよう指摘をされております。したがいまして、現状の統計数字について、一概の評価は難しいわけでございますけれども、このようなFATFからの勧告を受けて行う法整備であることや、それから、運用面についても強化をするという勧告がされていることを踏まえて、この改正が実現したならば、その趣旨に沿った捜査訴追、あるいは裁判での量刑というのが行われるんだろうと、現時点では考えておるところでございます。 ○井田会長 白田委員、いかがですか。更に御質問はございますか。 ○白田委員 はい、分かりました。   そうですね。最初に言いましたように今後抑止効果という意味で、捜査等の部分、法的な刑罰部分だけではなくて、捜査においてもより厳しく対応できるインセンティブの一つになればよろしいなと、そういう点を強く期待いたしておるところです。   以上です、ありがとうございます。 ○井田会長 ありがとうございました。   御意見は後でお伺いすることにしまして、まずは御質問は、ほかにございますか。ございませんか。   それでしたら、続いて御意見がございましたら、是非承りたいと思います。よろしくお願いいたします。いかがでしょうか。 ○大迫委員 諮問に関して、意見を少し述べさせていただきたいと思います。   配布資料刑3のFATFの対日相互審査報告書の概要部分では、御説明いただいたとおり、勧告事項としてマネロン罪の法定刑の上限を、少なくとも日本で犯罪収益を最も頻繁に生み出す、重大な前提犯罪と同水準に引き上げられることが挙げられております。現在の犯罪のグローバル化や、テロ等に関連したマネロン罪が、多国間をまたいで行われることが予想される中、世界全体の安全保障や世界経済の健全化のために、日本が穴にならないようにするという考えや、これに基づくFATFのこの勧告は重要な考慮要素だと考えます。   他方で、先ほどの白田委員の御質問にもありましたけれども、同じ資料の30ページのマネロン罪の有罪判決の内容を見ると、2015年から2018年の5年間の平均で、表3.14では3年以下の懲役刑が合計65%、5年の懲役は4%にすぎず、同じく表3.13では執行猶予付き懲役刑の利率が有罪判決の66%であり、懲役刑なしの罰金が70%とされています。これらの統計からすれば、現状における日本での処罰状況からは、マネロン罪の重罰化の立法事実は認められないということになります。   また、同じ資料の31ページに、ケーススタディとして取り上げられている事案がありますが、これは、日本での検察や裁判所の運用として、前提犯罪とマネロン罪を併せて処罰することで、犯罪内容に即した適正な刑罰が下されるような柔軟な運用がなされていることを示していて、この点につきましては、FATFも抑止力のある量刑を確保する上で有用であると評価をしているところです。   このような運用は、日本のマネロンのリスクはセルフ・ローンダリングが多く、サードパーティー・ローンダリングが少ないという、日本の現状でのリスク評価に合致した適正な運用がなされているということを示すものだと思います。今回の重罰化の議論においても、このように検察や裁判所において、運用に工夫がされている点も含めて、十分な議論をお願いしたいと思っております。   以上です。 ○井田会長 大迫委員、ありがとうございました。これは、御意見として承りたいと思います。   ほかに御意見はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、ほかにないようでございますので、ここで諮問第119号の審議の進め方について、御意見があれば承りたいと思います。   何かございますでしょうか。 ○佐伯委員 諮問第119号につきましては、先ほども御指摘がございましたけれども、専門的、技術的な事項が相当含まれていますので、通例に倣い、新たに部会を設置して調査審議し、その結果の報告を受けて、更に総会で審議することにしてはいかがかと思います。 ○井田会長 ありがとうございます。   ただいま佐伯委員から部会設置との御提案がございましたけれども、これにつきまして御意見はございますでしょうか。ございませんか。   特に御異議もないようですので、それでは、諮問第119号につきましては、新たに部会を設置して調査審議することとしたいと思います。   次に、新たに設置する部会に属すべき総会委員、それから臨時委員及び幹事に関してですが、これにつきましては、会長に御一任いただきたいと思いますが、御異議はございますでしょうか。   ありがとうございます。それでは、この点は会長に御一任願うことといたします。   次に、部会の名称でございますけれども、諮問事項との関連から、この諮問第119号につきましては、「刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会」という名称にいたしたいと思いますが、いかがでございましょうか。   ありがとうございます。特に御異議もないようでございますので、そのように取り計らわせていただきたいと思います。   ほかに、部会における審議の進め方を含め、御意見はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、諮問第119号につきましては、「刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会」で御審議いただくこととし、部会の御審議に基づいて、総会において更に御審議願うということにいたしたいと存じます。   これで本日の予定は終了となりますが、ほかにこの機会に御発言いただけること、もしございましたら、お願いいたします。何かございますか。よろしいでしょうか。   では、ほかに御発言もないようでございますので、本日はこれで終了といたします。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては、審議の内容等に鑑みて、私としましては、発言者名を全て明らかにして公開することとしたいと思いますが、いかがでございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、議事録につきましては、発言者名全て明らかにして公開することといたします。   本日の会議の内容につきましては、後日、御発言いただいた委員等の皆様に議事録案をメール等にて送付させていただき、御発言の内容を確認していただいた上で、法務省のウェブサイトに公開いたしたいと思います。   最後に、事務当局から何か事務連絡がございましたら、お願いいたします。 ○加藤司法法制課長 事務局から、次回の会議の開催予定について御案内申し上げます。   法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっております。次回の開催につきましては、本年2月14日の14時から御審議をお願いする予定でございます。委員、幹事の皆様方におかれましては、御多忙とは存じますが、今後の御予定につき、御配意いただきますようお願い申し上げます。 ○井田会長 ありがとうございました。   それでは、これで本日の会議を終了いたします。   本日はお忙しいところお集まりいただき、熱心な御議論を頂きまして、誠にありがとうございました。 −了−