法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第9回会議 議事録 第1 日 時  令和5年4月24日(月)   自 午前10時00分                        至 午前11時55分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第9回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日は、御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。   本日、池田委員、安田委員は、オンライン形式により出席されております。なお、本日、くのぎ幹事は所用のため御欠席、井上関係官は遅れての御出席となります。   審議に入る前に、前回の会議以降、幹事の異動がありましたので、御紹介させていただきます。   仲戸川武人氏が幹事を退任され、新たに中井優介氏が幹事となられました。初めて御出席いただいた中井幹事に、自己紹介をお願いしたいと思います。 ○中井幹事 この4月から仲戸川の後任で法務省刑事局企画調査室長になりました、中井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。   続いて、事務当局から、配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、新たな配布資料はありません。参考資料として、配布資料12「検討のためのたたき台(諮問事項「二」関係)」を配布しています。 ○酒巻部会長 それでは、次に、事務当局から期日外で行われたヒアリングについてお知らせがありますので、お願いします。 ○鷦鷯幹事 委員・幹事の皆様にお伝えしていたとおり、4月21日に、期日外で事務当局において障害をお持ちの方々等からヒアリングを実施しました。御参加いただいた委員・幹事もおられましたが、全員が参考とできるよう、ヒアリングの結果につきましては、議事録を作成して、関係資料とともにホームページに掲載する予定です。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入りたいと思いますが、それに先立ちまして、委員・幹事の皆様に御留意願いたいことがあります。   委員・幹事の皆様におかれては、これまで、多岐にわたる検討項目について、様々な観点から活発かつ濃密な御議論をいただき、充実した調査審議が行われてきたものと認識しています。   他方で、考えられる仕組みや制度の枠組みについての検討は、既に二巡目の詳細な議論の段階に入っており、諮問事項に関する法整備が喫緊の課題であることからすれば、具体的な規律の在り方についての取りまとめを視野に入れつつ、効率的で迅速な審議を行っていくことが求められる現状にあると思います。   そうした観点からは、限られた会議時間の中で委員・幹事の皆様それぞれから広く御意見を頂くためにも、一度の御発言をできるだけコンパクトにし、従前との重複を避け、要点に絞ったものとしていただくよう、一層の御留意をお願いします。もちろん、徹底的に議論すべきことは、しないといけませんので、それは当然の前提として、心構えとしてはこのようなことを意識していただけますと幸いです。   それでは、審議に入ります。   前回の会議においては、配布資料12の「検討のためのたたき台(諮問事項「二」関係)」のうち、5ページから9ページまでの「第2-3 裁判所の手続への出席・出頭」の検討課題の「(1)映像・音声の送受信による公判前整理手続期日等への出席・出頭」まで議論を行いました。   そこで、本日は、引き続き、検討課題の「(2)」以降について、順次議論を行いたいと思います。   配布資料12の5ページから9ページまでの「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」については、前回事務当局から説明してもらっていますので、早速、検討課題の「(2)映像・音声の送受信による公判期日への出席・出頭」について御意見を伺います。   この項目については、「①」と「②」、「③」と「④」は、それぞれ相互に関連すると思われますので、そのように分けて御意見を伺いたいと思います。   まず、「①」と「②」について御意見を伺います。   いずれについてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 「①」の被告人・弁護人の映像・音声の送受信による公判期日への出頭について意見を述べます。   被告人は、公判期日に実際に出頭することが原則で、ビデオリンク方式による出頭は、やむを得ない場合に限定されるということは共通認識になっていると思います。その上で、検討課題の「(2)」「①」には、映像・音声の送受信による被告人の出頭の要件として、「(ア)」「①」において、疾病その他の事情により、公判期日における手続が行われる場所に出頭すると本人の病状が悪化するか、他者を感染させるおそれがあることが、「②」において、被告人への加害又は奪取などのおそれがあることが挙げられ、「(イ)」において、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれのないことが相当性の要件として掲げられ、その判断要素として、事案の軽重や当該公判期日における手続の内容、選任されている弁護人の数が挙げられています。これらは、被告人をビデオリンク方式により出頭させる要件としてかなり限定的であり、適切なものとなっていると考えます。   ビデオリンク方式により出頭させる際の被告人の在席場所ですけれども、これを裁判所が指定する際には、勾留中の被告人については、通常は勾留中の刑事施設が指定されることになるのだろうと思います。在宅の被告人については、被告人の意見を聴いて、その申出に係る場所が適切かどうかの資料を提供してもらって、これを踏まえて、審理を適切に行うことができる場所であるかどうかを判断することになるのだろうと思います。その場合における弁護人の所在場所については、被告人側の判断に委ねられるべき事柄であると思います。その意味でも、ビデオリンク方式により出頭させるかどうかを判断する段階で、選任されている弁護人の数や当該期日の手続の内容が相当性の考慮要素となっているのは適切であると思います。 ○久保委員 「①」について申し上げます。   「①」につき、被告人自身の同意を要件として加えるべきであるということ、それから必要性の要件として、たたき台の案は不適切であるということについて申し上げたいと思います。   まず、1点目の被告人の同意を要件として加えることについてですが、被告人が、自らの有罪、無罪や量刑を決める場に、その意思に反して出頭できないということは許容できません。ビデオリンク方式により出頭できるといっても、公開の法廷で裁判を受ける権利自体への制約であることは明らかです。有罪、無罪や量刑は、単にその事件の結論を出すというものではなく、被告人の人生を決め、その結果は、家族などの周りの人の人生にも影響するものです。被告人は訴訟の主体として、裁判所、検察官とともに公判手続を進行させる重要な関与者です。例えば、被告人には自身で証拠意見を述べる権利もありますし、被告人本人の意見を聴かなければならない規定もあります。法廷に出廷する権利は、証人と対面する権利を含む憲法第37条第2項の証人審問権や第34条などに由来するものだと考えています。   配布資料4の諸外国における法制・運用を見ましても、事件や手続などを限定せずに被告人の意思に反してオンラインでの出廷を強制される規律はないように見受けられました。現実の出頭には、被告人の権利であるということを超えた意義があるということは、検討会において永渕委員や𠮷澤委員も指摘されていたと思います。   なお、被告人の同意を要件とした上で、同意は権利を放棄するということにもなりますので、即決裁判と同様に、被告人自身が権利を放棄することによりどのような不利益が生じるのかということを理解した上で同意ができるようにすることも必要だと考えます。   2点目に、必要性の要件については不適切であるということについて申し上げます。仮にビデオリンク方式による出頭を被告人に認めるとしても、たたき台の要件はいずれも抽象的であり、濫用されるおそれがあると言わざるを得ません。特に、「(ア)」「②」の「被告人の経歴、犯罪性のある者又は団体」とある部分については、およそ全ての暴力団関係者のほか、あらゆる組織的犯罪に関与した者にビデオリンク方式による出頭を強制することにもなりかねません。弁護人としてこれまで活動してきた中の実感としても、広くこのような規定を適用するべきだという主張がなされかねないことを危惧しております。   たたき台には、奪取や解放という表現もありますが、具体的に支障が生じたケースとしてこれまでにどのようなものがあるのか、実際に移送中に襲撃されたケースがあるのかということも判然といたしません。また、このような要件が設けられることにより、公判前整理手続や公判の場が検察官による被告人の悪性格立証の場となりかねないということも懸念しています。こうした類型を要件に含めること自体が不適切だと考えます。   また、「(ア)」「①」についてもその表現には疑問があります。そもそも被告人本人が既に疾病に罹患しているのであれば、裁判の延期はやむを得ないと思います。仮に規定を設けるのであれば、重大な感染症の流行などにより出頭に伴って被告人自身が感染するおそれがあるときなどの表現とするべきだと考えます。被告人自身が感染している場合には、適切に弁護人の援助を受けられない可能性も高く、その点でも問題があると考えます。   この「①」に関する結論としては、裁判所は、被告人・弁護人及び検察官のいずれも異議がない場合に限り、事案の軽重、当該公判期日において行われる手続の内容、選任されている弁護人の数その他の事情を考慮し、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがなく相当と認めるときは、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によってその手続を行うことができるものとする、といった規定を設ければ足りるものと考えます。   「②」についても簡単に申し上げます。ほかの規律ということですが、仮に被告人の意思に反してビデオリンク方式による出頭が強制されることがあるのであれば、その実施場所や弁護人とのコミュニケーション方法については厳格に規律されなければならないと考えます。   1点目に、場所の問題ですが、捜査機関を含め第三者が被告人に働きかけて真意に反する供述をさせるなどの不当な関与をすることは、適正な公判手続の遂行に支障を生じさせます。この点は、これまで検討会で永渕委員や成瀬委員が発言されていたと思います。   2点目に、弁護人とのコミュニケーションを確保することが重要ですが、その視点もたたき台には適切に反映されていないように思います。考慮要素として弁護人の数が含まれていますが、一考慮要素とすればよいというものではありません。援助が直ちに受けられる状態にあることが確保されることも法の要請するところだということは、第5回の部会において成瀬幹事も指摘されていたかと思います。   弁護人は取り分け刑事裁判において、自由かつ秘密を守った形で依頼者とコミュニケーションがとれることを重視してまいりました。現在は法廷において被告人が弁護人のすぐ隣に座ることが当然だという認識が広く共有されるようになりました。そうした観点からすれば、意思に反して即座のコミュニケーションをとることができなくなるということは、弁護人依頼権の侵害にもなりかねません。即座にコミュニケーションがとれなければ、裁判が遅延し、迅速な裁判自体が害される危険性もあると考えます。そうすると、拘置所や留置施設と裁判所をつなぐ外部交通システムが備え付けられること、期日の最中に柔軟にそれを利用できるようになることも不可欠だと考えます。 ○保坂幹事 久保委員がおっしゃった要件立てについて質問ですけれども、前半の方では被告人の同意を要件とすべきであるということをおっしゃって、その後、必要性の要件がおかしいのだということをおっしゃりつつ、訴訟関係人の皆に異議がなくて実質的不利益が生ずるおそれもないという要件を設けるべきとおっしゃったのですが、それは被告人の同意がないという要件とは別に、異議もなく不利益もないことが必要だということですか。 ○久保委員 私としましては、やはり被告人を含む当事者の誰かがオンラインでの出頭に問題があると考えているケースにおいて、ビデオリンク方式による出頭を強制することは適切ではないと考えています。一番重視されるべきは被告人、それから弁護人の意見だと考えていますが、それぞれ当事者の意見が尊重されるべきだと考えます。 ○保坂幹事 重ねて質問ですけれども、現行法ですと、被告人が出廷していないと開廷できないということになっていて、被告人が行きたくない、行かなくていいと言っていたって、さらに訴訟関係人の皆が異議がないと言っていたって、被告人がいないと開廷できないわけですが、そういう意味で言うと、ビデオリンク方式により出頭するということについてはそこまでは考えないということですか。つまり、被告人がいいと言っていて、訴訟関係人が皆、異議がなければ、被告人がリアルの法廷にはいなくても、ビデオリンク方式による出頭を認めてもいいと、こういうことでしょうか。 ○久保委員 先ほど要件として考える点で申し上げたとおり、やはり事案の軽重などといった要件も実際には規定されるべきだと考えております。この点については、これまでも発言したところですので、その理由については繰り返しませんが、重大な事件においては、例えば裁判員裁判などにおいて、被告人本人が法廷にいないといったことは、やはり現実的ではございませんので、当事者の意思を超えて、更に事案の軽重や、争点がどのようなものであるかといったことも含めて、最終的には判断されるべきものだと考えております。 ○酒巻部会長 ほかに、「①」と「②」について御意見はありますか。   よろしいですか。それでは、次に、検討課題の「(2)」の「③」と「④」について、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○𠮷澤委員 「③」について意見を申し上げます。   これまで述べていますように、被害者参加は被害者参加人がバーの中に入ることが大原則ですが、被害者側の事情でそれが困難であるとき、被害者参加人からの申出を条件として、オンラインによることが認められるべきであり、そのように明確に規定することが必須であると思いますので、この点線の枠の中にあるように規定することに賛成です。   また、場所につきましても、裁判所の訴訟指揮権・法廷警察権に配慮しながらケース・バイ・ケースで柔軟に対応できるよう定めておくべきですし、特に、将来のIT技術の発展に対応できるよう定めておくべきであることから、規律としては、限定的に定めるのではなく、広く定めておくことが適切であると思いますので、同じく、点線の枠の中にあるようなものとすることに賛成です。 ○池田委員 考えられる制度の枠組みの「(2)」「イ」に関して、検討課題の「③」、「④」につき、意見を申し上げます。   検討課題「(2)」「③」「ア」の点線枠内の規律は、被害者参加制度が対面での参加によることが原則であることを踏まえつつも、事案によっては例外的に、参加人の方々に具体的なニーズが一定程度あると認められることを考慮して、被害者参加人をビデオリンク方式により公判期日に出席させて手続を行うことができる場合の要件等について、これまでの議論を踏まえて記載したものであって、十分な合理性を認め得ると思います。   その上で、まず被害者参加人に許される訴訟活動の内容に照らすと、ビデオリンク方式により出席したとしても、それによって被告人の権利利益や当事者の訴訟活動等に重大な支障が及ぶことは基本的に想定されず、裁判官等が被害者参加人の表情や挙動等をつぶさに観察する必要もないと考えられます。他方で、この場合も、被害者参加人と検察官との意思疎通が十分に確保され、また、必要に応じて裁判所が被害者参加人に対して適切に訴訟指揮権等を行使することができる状況にあることが必要です。   以上を踏まえて、ビデオリンク方式とすることの相当性が問題となる場面を具体的に考えてみると、例えば、冒頭手続と書証の取調べのみが行われることを予定された期日であれば、多数いる被害者参加人を同時にビデオリンク方式により出席させることとしたとしても、審理の進行に特に支障は生じないと思われる一方で、被告人質問が行われる期日において多くの被害者参加人が複数の質問を要望していることが明らかとなっているときは、そうした状況は相当性を否定する方向に作用し得ると考えられます。そのため、「③」「ア」の点線枠内の規律で挙げられている「審理の状況」や「被害者参加人の数」、「行おうとする訴訟行為の内容」は、ビデオリンク方式による出席の相当性を判断するに当たり考慮すべき事情の典型例であるといえ、これらを裁判所の判断における考慮要素として例示することは、その内容において妥当であり、判断の安定を図る観点からも適切なものであると考えます。   また、こちらに挙げられている規律では、裁判所が、被害者参加人を裁判所が指定する場所に在席させることとされています。この指定は、実際上は、裁判所において被害者参加人から提供される資料等を参照の上、審理の状況等、先ほど触れた相当性判断の考慮要素にも照らし、適切な場所を選択して行われることになると思います。   この点について、第5回会議において、久保委員から、被害者参加人が在席する場所において公判の状況の録音・録画が行われることなどがないようにするため、被害者参加人が在席する場所は裁判所の構内に限定すべきとの御指摘がありました。懸念自体には理由があることと思いますけれども、恐らく裁判所はそうしたおそれの有無や、それを防止するために取り得る措置の内容等も考慮して、事案ごとに適切な場所を指定することになるものと思われますので、その指定し得る場所が裁判所の構内に限定されなければならないと考える必然性はないのではないかと思います。以上を踏まえると、「③」「ア」の点線枠内に示された規律は十分な合理性を認め得るのではないかと思います。   あわせて、「③」「イ」の点線枠内の規律について、被害者参加人をビデオリンク方式により公判期日に出席させる場合に、被害者参加弁護士が法廷と被害者参加人が在席する場所のいずれに在席するかは、被害者参加弁護士が当該期日において行われる審理の内容や行おうとする訴訟行為の有無、内容等を踏まえて自ら決すべき事柄であって、裁判所において強制すべき事柄ではないと考えられます。そのため、ここに示されている弁護士の判断に委ねる旨の内容の規律とすることには十分な合理性を認め得るのではないかと思います。 ○向井委員 被害者参加人等の映像・音声の送受信による出席の要件、所在場所について、意見を申し上げたいと思います。   まず、第5回会議において、被害者参加人等が映像・音声の送受信により参加する場合の課題について、手続を執り行い、訴訟運営に責任を持つ裁判所の立場からお話しさせていただいたところです。具体的には、被害者参加人に対する様々な配慮を含む訴訟指揮権や法廷警察権の行使が十分に確保されている必要があること、訴訟関係者のプライバシー確保の観点から無断録画等の事態を防止する必要があること、審理が連日朝から夕方まで行われることを踏まえると、公判審理全体を通じて長時間にわたって裁判所職員が別室に立ち会うことは困難であること、被害者参加人と検察官との間の緊密な意思疎通を図る必要があり、その打合せのために頻繁に休廷等を挟むとなると円滑な審理運営を妨げる可能性があることなどを指摘しました。   本規律案においては、被害者参加人等が映像・音声の送受信により参加することの相当性を判断する際の考慮要素として、「審理の状況」、「被害者参加人の数」、「行おうとする訴訟行為の内容」、「その他の事情」が挙げられておりまして、先ほど申し上げた第5回会議で指摘した事情について、相当性判断の際に考慮することができるものと理解しています。   他方で、被害者参加人等が映像・音声の送受信により手続に参加することを認める趣旨の中には、被害者参加人の精神的負担を軽減するという観点が含まれることを考えますと、同趣旨の規定である付添人に関する刑事訴訟法第316条の39第1項、遮蔽の措置に関する同条第4項が考慮要素として挙げている「犯罪の性質」、「被害者参加人の年齢」、「心身の状態」、「被告人との関係」等の事情については本規律においても列挙することが、他の同趣旨の規定との平仄の観点からも自然ではないかと思われます。そこで、「審理の状況」や「被害者参加人の数」、「行おうとする訴訟行為の内容」、「その他の事情」と併せて、「犯罪の性質」、「被害者参加人の年齢」、「心身の状態」、「被告人との関係」等の事情についても、相当性の判断のための考慮要素として列挙すべきと考えます。   次に、被害者参加人等の所在場所について、本規律案では「裁判所が指定するもの」とされていますが、第5回会議でも述べたとおり、裁判所以外の場所については、他の部屋に音声等が漏れる可能性も含め、何らかの形で録音・録画されている可能性がないかどうかを完全に確認することは、仮に裁判所職員を当該場所に派遣したとしても困難と言わざるを得ません。したがって、基本的には受訴裁判所の同一構内又は他の裁判所の構内である必要があり、その旨が規定上明らかにされることが望ましいと考えております。 ○𠮷澤委員 今、向井委員がおっしゃった場所の点について、これまでにも述べているとおり、情報通信技術が発展し、それに伴って、それこそオンラインによる会議とか、そのための通信に特化した部屋というものが、各機関、特に公的施設などにおいて、今後、設備が整っていく可能性も十分あると思いますので、特に基本的には裁判所の構内という定め方をせずとも、それも含めて裁判所の判断によるという形で、この点線枠の中にあるような規律にすることで十分足りるのではないかと思っています。 ○久保委員 所在場所について申し上げます。   仮にこのような規定を置くことを認める場合には、やはり法廷と同程度に裁判所の訴訟指揮権・法廷警察権の十分な行使が確保され、審理のプライバシーを確保できる場所であることが必要であり、そのことが規定上明確になるべきということについて、先ほど向井委員が発言されたことに賛同します。先ほど向井委員も指摘されていましたが、仮にこのような規定を置き、かつ職員を配置することが前提になるとしても、被害者参加人を所在させる場所について事前にチェックをすることは、裁判所職員を派遣したとしても難しいと言わざるを得ません。その点において、裁判所とそれ以外の場所を同視することはできず、この点はやはり重要な問題だと考えています。   また、仮にこのような規定を置く場合には、相当性判断の考慮事情について、ただいま向井委員が指摘された「犯罪の性質」などについても列挙をする形とすることが望ましいという御意見についても賛同します。さらに、以前向井委員が指摘されていたとおり、このような制度が導入された結果、モニターを通じて被害者参加人を観察しながら訴訟指揮権・法廷警察権を行使することは困難となり得るということについても改めて指摘しておきたいと思います。 ○酒巻部会長 検討課題の「(2)」の「③」と「④」について、ほかに御意見はありますか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、検討課題の「(3)映像・音声の送受信による裁判員等選任手続期日への出席・出頭」について、御意見を伺います。   この項目については、「①」から「③」までの三つ、「④」と「⑤」の二つは、それぞれ相互に関連すると思われますので、そのように分けて御意見を伺いたいと思います。   まず、「①」から「③」までについて御意見を伺います。   いずれについてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 検討課題「(3)」の「①」と「③」について意見を申し上げます。   検討課題「(3)」「①」の点線枠内の規律は、裁判員候補者をビデオリンク方式により裁判員等選任手続期日に出頭させて手続を行う場合の要件等を記載しています。これは、選任手続期日への出頭に伴う裁判員候補者の長距離移動の負担を軽減する観点、あるいは、大規模災害等による一時的な交通途絶が発生した際に、裁判員候補者の安全を確保しつつ手続を滞りなく進行させる観点からニーズがあると認められる場合に、裁判員候補者を一つの裁判所に集めずに選任手続を行うことができるようにするものです。   第5回会議において申し上げたとおり、裁判員等選任手続においては、裁判員候補者の表情や態度を対面でつぶさに観察するまでの必要はないと考えられるところ、検討課題「(3)」「①」の規律は、この点を踏まえ、先に申し上げた二つのニーズに応じて柔軟に、裁判員候補者を裁判員等選任手続が行われる裁判所の構内以外の場所に出頭させて手続を行うことができるものとするものであり、合理性を認め得ると考えます。   検討課題「(3)」「①」の規律は、裁判所が裁判員候補者を「裁判所が指定する」場所に在席させることのみを記載していますが、第5回会議において申し上げたとおり、裁判員等選任手続が非公開とされている趣旨を害することがないようにする観点から、裁判員候補者を在席させる場所は、手続の状況が第三者に漏えいするおそれがない場所であることが必要です。よって、裁判所は、そうした点も含め、裁判員等選任手続が適正に行われることを確保することが可能かといった観点から、適切な場所を指定することになると思われます。   次に、検討課題「(3)」「③」の「裁判官等が在席する場所とそれ以外の場所のいずれに出頭するかを裁判員候補者が選択できるものとするか」という論点については、裁判員候補者を裁判員等選任手続が行われる裁判所以外の場所に出頭させることとする理由に応じて、異なる考慮が必要になると考えられますので、場合分けをして検討したいと思います。   まず、裁判員等選任手続が行われる裁判所まで裁判員候補者が長距離移動をする負担を軽減しようとする場合には、元々、裁判員候補者は当該裁判所に出頭させるのが原則であることにも鑑みると、それ以外の場所が出頭場所として指定されたとしても、裁判員候補者が長距離移動をいとわず、あえて当該裁判所に出頭する意向であるならば、その意向に反して別の場所に出頭させる必要性は見いだし難く、国民の理解と協力の上に成り立つ裁判員制度の趣旨にもそぐわないと考えられます。よって、この場合には、いずれに出頭するかを裁判員候補者が選択できるものとすることにも合理性があると思います。   他方で、大規模災害等により交通が一時的に途絶した状況において、安全確保の観点から、裁判員等選任手続が行われる裁判所とは別の出頭可能な場所を指定し、そこに出頭させることとする場合には、安全に出頭できる場所に出頭させるべきであって、裁判員候補者の意向を酌むべきではありません。よって、この場合には、出頭場所の選択はできないものとすることが合理的であると思います。   このように、検討課題「(3)」「③」については、裁判員候補者が選択できるものとすることが相当な場合とそうでない場合とがいずれもあり得ることを前提に、裁判所がどちらの場合にも適切に対応できるような制度としておくことが望ましいと考えます。 ○向井委員 まず私からは、この検討課題「(3)」の「①」と「②」について意見を申し上げます。   第5回会議において述べたとおり、裁判員等選任手続では個別に候補者の健康状態や御家族の介護等に関する事情など機微にわたるやり取りをしたり、選任手続で裁判所が明らかにする当該事案の概要等に関して候補者が不安に感じていることについてやり取りをすることもあり、それらの際には候補者の様子を観察しながら丁寧に行っているところです。このように、候補者の方に実際に手続を行う裁判所にお越しいただいて対面で手続を行うことには重要な意義があります。基本的には現実にお越しいただくのが原則であると考えています。   選任手続を映像・音声の送受信の方法により実施することの課題やあい路のほか、裁判員等選任手続に関する実務の運用や実情などについては、第5回会議で詳細に述べたので、ここでは繰り返しません。その上で、裁判員候補者が映像・音声の送受信の方法により選任手続へ出席することを認めるか否かについては、事件の内容、性質等も踏まえて裁判所が適切に判断できるような規律である必要があると考えています。この点について、本規律は以上のような趣旨にあるものと理解しますので、異論はありません。   他方で、出頭場所については、候補者や被害者等のプライバシー保護や手続の適正な進行を確保する必要があります。例えば、裁判員等選任手続においては、候補者と事件との関連性を判断するため、その場で初めて被害者や証人予定者の氏名を伝えて、心当たりの有無を尋ねるということもありますが、その氏名についてメモを取って持ち帰らないようにして手続を進める必要があります。候補者の方には、これらの観点からふさわしいと思われる場所、すなわち裁判所にお越しいただく必要があると思われるところ、規律としても、「裁判所が指定するもの」とするのではなく、指定された他の裁判所の構内を出頭場所とするのが適切と考えます。   また、出頭場所を他の裁判所とする場合、庁によっては連日のように行われることもある選任手続の全ての日について、各裁判所が映像・音声の送受信による出頭の場所として人的・物的体制を整えておくというのは現実的ではなく、逆に、体制の整う日程等を調整するためには一定の時間を要することになり、その結果として迅速さにもとるといった問題があることからすると、映像・音声の送受信の方法によって選任手続を実施する場合の出頭裁判所につきましては、裁判員候補者となる市民の方の負担が大きく、選任手続に映像・音声の送受信の方法により出席するニーズが高いと考えられる地域について、裁判所の人的・物的体制も踏まえまして、現実的・合理的な規律を設けることが望ましいと考えております。 ○酒巻部会長 原則は対面だというお話がありましたが、遠隔地である場合と、大規模災害等により交通が一時的に途絶した場合以外に、例外的にこういうことをしなければいけない場合として具体的に想定されるものはありますか。 ○成瀬幹事 新型コロナウイルス感染症の流行当初は人の移動を制限することが社会全体で強く要請されましたので、類似の感染症が新たに出現した場合には、裁判員候補者の移動を必要最小限度に留める観点から、ビデオリンク方式により選任手続期日に出頭していただく必要性が認められる場合があるかもしれません。 ○酒巻部会長 伝染病とか大規模災害だと、そもそも裁判員裁判ができないこともあるのではないでしょうか。 ○成瀬幹事 御指摘のとおり、感染症の流行や大規模災害により、裁判員裁判自体が実施できなくなる場合には、裁判員等選任手続期日を行う必要性もなくなりますので、この規律案を活用することはできません。私が想定しているのは、そこまで深刻な事態には至っていない場合です。   例えば、感染症については、十分な感染防止対策を取れば裁判員裁判自体は実施可能であるものの、社会全体で移動を抑制するよう要請されているので、裁判員候補者全員を一つの裁判所に集めることは適切でないと考えられるような場合です。また、大規模災害については、先ほど一時的な交通途絶と申し上げたところがポイントでして、選任手続期日の当日は交通途絶により選任手続が行われる裁判所に出頭していただくことはできないものの、交通手段が3日程度で復旧する予定なので、裁判員裁判は予定どおり、または、1日遅れくらいで開始できる見込みがあるような場合を念頭において発言させていただきました。 ○久保委員 仮にこのような規定を置くとしても、事件の内容などプライバシーに関わる情報も扱いますので、場所は裁判所に限られるべきという点について向井委員の発言に賛同します。そして、場所は裁判所とした上で、実際の流れを考えてみると、裁判の期日のある程度前に裁判員候補者に呼出しの通知が届き、それから実施場所の意向を確認し、選択できるような制度とした場合、常に裁判員候補者が所在することとなる場所を複数確保することが必要になると考えます。その確保のために裁判が実施できないということはあってはならないと思いますし、迅速性の問題が生じ得ることを踏まえ、現実的な規律とするべきということについても、向井委員の発言に賛同します。   大規模災害のとき、そもそも裁判ができないことがあるのではないかという部会長の発言にも賛同しますが、そのような事態が生じた場合にも所在する場所を裁判員候補者が選択できることとした場合、裁判員候補者に連絡が取れないことによって手続が実施できないということになりかねず、やはり迅速性の問題が生じますので、裁判員候補者の意向を聞くこととすることによって裁判が遅れるということとならないよう、現実的な規律とするべきと考えます。 ○近藤幹事 「③」について補足して発言します。  仮に裁判員候補者の方がお越しになる場所を選択できるものとした場合の方法を具体的に考えてみますと、以下のようになると思われます。すなわち、呼出状を送達する段階では、これまでと同様に、原則として選任手続を実施する裁判所へお越しいただくようにお願いをした上で、事後的に候補者の方から個別に申出を頂き、必要性が認められる場合にはお越しいただく場所を変更して、映像・音声の送受信の方法による選任手続を認めるといった仕組みが考えられます。この方法による場合、候補者の方の意向を尊重しつつ、裁判官等が在席する場所への出頭を原則とするという考え方にも沿うように思われます。   もっとも、候補者の方から選任手続の場所変更の申出がいつなされるか分からないという状況ですと、実際に申出がなされる時点によっては、裁判所としては、その候補者の方にお越しいただく場所となる庁の受入れ体制の確認などを行い、申出に対する判断をした上で、その結果を候補者の方に確実に告知するという多くの手続を、ごく短期間の間に行う必要が生じます。候補者の方の選択権行使に期限を設けるとしても、現状よりも公判期日が先延ばしになるといった問題が生じかねないところではあります。仮に映像・音声の送受信の方法による選任手続を導入するのであれば、このようなあい路の具体的な解決策を含めて合理的な制度の在り方を検討する必要があると考えています。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(3)」の「①」から「③」までについて、御意見等はありますか。   よろしいですか。それでは、次に、検討課題の「(3)」の「④」と「⑤」について、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。   特に御意見がないようですので、これで「第2-3 裁判所の手続への出席・出頭」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、検討課題として明記されていない点に関するものも含め、ほかに御意見等がありますか。   よろしいですか。それでは、次に、「第2-4 証人・鑑定人の尋問及び通訳」について議論を行いたいと思います。  議論に先立ち、配布資料12の「第2-4」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、事務当局から説明してもらいます。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の10ページから12ページまでを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)」には、証人尋問について、「ア」として、映像と音声の送受信により実施することができる場合として「①」及び「②」の場合を追加して規定することを、「イ」として、「証人を裁判所の構内以外の場所に在席させて実施することができるものとする」ことを記載しています。   次に、「(2)」には鑑定人尋問について、「ア」として、鑑定を命ずる際に鑑定人を尋問し、及び鑑定人に宣誓をさせる手続は、証人尋問よりも広い要件の下で映像と音声の送受信により実施することができるものとすることを、「イ」として、その手続は「裁判所の構内以外の場所に在席させて実施することができるものとする」ことを記載しています。   次に、「(3)」には、通訳について、「ア」として、証人尋問よりも広い要件の下で映像・音声の送受信により実施することができるものとすることを、「イ」として、その通訳は「裁判所の構内以外の場所に在席させて実施することができるものとする」ことを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)証人尋問」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(1)」の「ア」について、「①」の点線枠内のような規律を設けるか、「①」の点線枠内「ア」の規律に関し、尋問の際に所在国においてとられる措置をその適否の判断において考慮し、又はこれを条件とするものとするか、ストーカー事件等の被害者に関し、映像と音声の送受信により証人尋問を実施することができる場合について新たな規律を設けるか、「考えられる制度の枠組み」の「(1)」の「イ」について、「④」の点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   次に、「(2)鑑定人尋問」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(2)」の「ア」について、「①」の点線枠内のような規律を設けるか、「考えられる制度の枠組み」の「(2)」の「イ」について、「(1)」・「④」の点線枠内のものと同様の規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   次に、「(3)通訳」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(3)」の「ア」について、「①」の点線枠内のような規律を設けるか、映像と音声の送受信による方法によることにつき困難な事情があるときは、音声の送受信による方法によって通訳をさせることができるものとするか、「考えられる制度の枠組み」の「(3)」の「イ」について、「(1)」・「④」の点線枠内のものと同様の規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して、御質問等はありますか。   それでは、議論を行いたいと思います。   まず、検討課題の「(1)証人尋問」について御意見を伺います。配布資料の内容と先ほどの事務当局からの説明を踏まえますと、この項目については、まず「①」の「ア」と「②」、そして、「①」の「イ」から「エ」までに分けて議論を行い、その後、「①」の「オ」、「③」、「④」について議論を行うのが効率的と思われますので、順に御意見を伺いたいと思います。   まず、「①」の「ア」と「②」について御意見を伺います。   いずれについてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○池田委員 「①」「ア」と「②」について意見を申し上げます。   この「①」「ア」は、これまで外国に所在する証人として議論されてきた類型についてのもので、これまでにも指摘があったとおり、外国に所在する証人に対し、ビデオリンク方式を用いて我が国の裁判所において尋問を実施するという場合には、証人の所在国の政府機関等との間で実施に向けた調整が必要となりまして、その間、公判手続が進まないという事態も生じることになります。そのため、当該証人を尋問することが審理に不可欠である場合など、実施の必要性が特に高い場合に限るべきであるとの考えから、「(1)」「①」「ア」の要件が示されたもので、まずは今後の検討の足掛かりとなり得るものと考えられます。   その一方で、これまでの議論においても、外国に所在する証人に関しては我が国の偽証罪による処罰の威嚇力が十分に及ばない場合があり得るなど、国内所在証人と比較して供述の信用性の担保やその判断について類型的な相違点があるとの御指摘があり、そのことを踏まえた検討も必要となると考えられます。   この点について、検討課題の「(1)」「②」において、尋問の際に所在国においてとられる措置(国際共助等)をビデオリンク方式によることの適否の判断において考慮事情としたり、又は条件としたりすることが挙げられているのも、そのような観点によるものと考えられます。そうした措置としては、諸外国の中には、その裁判所の関与の下にビデオリンク方式により尋問を行い、当該証人が偽証した場合には、その国の偽証罪等により処罰され得るという制度を設けているところもあるとのことですので、そうした制度を利用することが想定されます。   他方で、もちろん外国の捜査・訴追機関が他国である我が国の裁判について犯された偽証罪等に果たしてどれほどの当罰性を見いだすか、捜査・訴追に向けて実際に動き出すかといった点については、国によって様々であると考えられるなど、確たることが申し上げにくいところもあります。その点で、信用性の担保の在り方については国内での証人尋問とは違いがあるとも考えられますので、この類型の実施要件について、そのような差異があり得ることを踏まえた検討が引き続き必要になると思います。 ○佐久間委員 「①」「ア」、そして「②」、外国所在証人について検察実務の立場から意見を述べたいと思います。   これまで指摘してきましたとおり、外国に所在する証人の尋問をビデオリンク方式により実施することについては、偽証した場合に、その者が我が国に入国するか、条約等に基づいて我が国に引き渡されるなどしない限り、我が国において偽証罪によって処罰することはできないため、そのことを認識している証人にとっては偽証罪で処罰されるという威嚇力が劣ること、また、当該証人が外国に所在し続けていることなどを理由に、信用性判断に資する資料の収集や事実関係の解明を行うことができていない場合も考えられることなどの点において、国内所在証人のビデオリンク方式による証人尋問とは供述の信用性の担保やその判断との関係で類型的な相違点があります。  検討課題「(1)」「②」が、「①」の点線枠内の必要性を示す要件とは別に、尋問の際に所在国においてとられる措置を実施の適否に関わる論点とするのも、そうした相違点があることを念頭に置いているからだと考えられます。   先ほど池田委員から御指摘があったとおり、国内における偽証罪で我が国の捜査・訴追機関が捜査・訴追をし、我が国の裁判所により判決が言い渡されて処罰が行われることが現実的にあるのとは違い、当該外国において偽証罪の捜査・訴追・処罰が行われるという状況がないのであれば、偽証罪で実際に処罰されるという威嚇力も絵に描いた餅とならざるを得ません。しかも、その証言の信用性を吟味するために必要な証拠が収集されておらず、国外でそうした証拠を収集することもできないということとなれば、その証言の信用性を積極的に評価することはできないということには十分に留意しなければならないと思います。そのような場合には、外国所在証人の尋問を実施することは真相の解明からかえって遠ざかることとなりかねず、適当ではないと思われます。 ○久保委員 質問をさせていただきたいのですが、たたき台についてですので、事務当局への御質問ということになるのかもしれません。まず、「(1)」「①」につき、「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」という表現の趣旨を確認させていただきたいと思います。同趣旨の表現としては、伝聞例外に関する刑事訴訟法第321条第1項第3号の表現にもありますが、それと同じような趣旨を想定しているのかということについて、このたたき台の趣旨を確認させていただきたいと思います。もう1点、「(1)」「②」につきまして、先ほど来、国際共助によるというような御発言もありましたが、「②」は外国所在証人へのオンライン尋問が採用をされた後に国際共助の手続を取ることを前提に、採否に当たって、国際共助の手続が実行可能か、また実際のオンライン尋問の実施の具体的な方法が相当かを考慮すべきかどうかを判断することとすべきかどうかという趣旨なのか、この「②」の趣旨を確認させていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 配布資料に記載した規律案について説明いたします。   検討課題「(1)」「①」の点線枠内「ア」に、「その者の供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないと認めるとき」と記載していることの趣旨のお尋ねですけれども、これまでの部会での御議論において、外国に所在する証人をビデオリンク方式により尋問することについては、特に必要性の高い場合に限定すべきではないかといった御発言、御意見がありましたことから、そのような必要性を示す要件の候補として挙げたものです。おっしゃるとおり、要件の意味するところは、現行法の規定の中で同様の文言が用いられているものがあるとすれば、その意義が参照されるべきところかとは思いますけれども、文脈によってその内容が変わり得るところでもございます。いずれにしても、このような要件がふさわしいかどうかも含めて御議論いただければと思います。   また、「②」の点について、ただいま、久保委員から考慮すべきと考え得る事情について幾つか挙げていただきましたが、正しくそういったことを考慮すべきかどうか、その上で要件として設けるべきかどうか、要件を設けるとすればどのようなものとすべきかといったことについて御議論いただければと思います。 ○久保委員 では、引き続きこの外国所在証人について意見を申し上げたいと思います。   まず、外国所在証人のビデオリンクによる尋問を行いたい場合があるということ自体はそのとおりですので、その道を残すということについては必要性があるものと考えております。しかし、実際には多くの場合に弁護人の反対尋問権が制限される方向に働くことが多いのではないかということは懸念しております。   原則として、外国所在証人であっても、まずは来日して対面により尋問を行うべきであり、本来であれば対面で反対尋問できるものがビデオリンクになってしまうという問題はございます。外国所在証人についても憲法が保障する証人審問権を実質的に保障するという観点で検討がなされるべきだと考えております。   このたたき台は、「ア」の要件の立て方に問題があるのではないかと考えております。来日できないことにやむを得ない事由がある場合に限定をするという、そのこと自体は必要だと考えますが、やむを得ない事由があるような場合には広くオンライン尋問の道を残すべきであり、犯罪事実の存否の証明に欠くことができないときに限定するのはおかしいのではないかと考えております。   憲法第37条第2項は、犯罪事実の存否の証明に欠くことができないかどうかによって証人審問権を区別しているものではございません。犯罪事実の存否の証明に欠くことができないとまではいえないような場合でも、重要な証人はいるのではないかと考えております。もちろん、この要件をどのように解釈するべきかという実際の運用上の解釈の問題になるというところもあると思いますし、先ほど申し上げた3号のこの解釈についても、広く解するべきというような説があるということは承知しておりますので、運用の面もあるのかもしれませんが、やはり法制度の段階で絞りすぎるということについては反対いたします。   また、先ほどほかの委員から制裁の実効性という点についても言及がございましたが、現状、日本の偽証罪について統計を拝見しますと、どのぐらい実際に運用されているのかということが確たる数字として見付けることができませんでした。その点で申し上げますと、日本において偽証罪がどの程度実効性を持っているのかという点については疑問を持っておりますし、むしろ外国において偽証罪、あるいは捜査段階であれば虚偽告訴罪が実質的に機能しているのであれば、かえって実効性を持つ場面もあるのかもしれないと考えているところです。 ○池田委員 外国所在証人の供述について申し上げます。   前回の部会で久保委員から、国外にいる者の供述を録取した検察官面前調書、刑事訴訟法第321条第1項第2号該当性と、外国所在証人をビデオリンクにより尋問する要件との関係について御発言がありました点について、私の考えを述べたいと思います。   刑事訴訟法第321条第1項第2号は、録取された供述をした原供述者が国外にいるため、公判期日において供述することができないときに、供述を録取した書面に証拠能力を認める要件を定めるものです。そのため、逆に言いますと、国外に所在していても公判期日において供述することを認めるのであれば、この要件には該当しないということになります。したがって、外国所在証人がビデオリンク方式により証言することが制度化され、現に証言することができる場合には、その証人の供述録取書が存在したとしても、この要件は満たされないことになりますので、その意味で、この場合、同号で書面に証拠能力が認められる範囲はその分狭くなると考えられます。   他方で、ビデオリンクによる取調べですけれども、現状でも検察官による参考人の取調べの方式は制限されておらず、取調官の判断でビデオリンク方式によって実施することができると考えられます。そして、聴取する参考人が国外に所在していたとしても、その供述の信用性を類型的に担保するものと位置付けられている、検察官の面前で行われたという事情には変わりありませんので、国外にいるという事情があるだけで参考人の取調べを制限的に規律しなければならないとか、供述録取書面の証拠能力の要件の適用に決定的な差異をもたらすとはいえないように思われます。   これに対して、証人尋問については、現時点での規律として、証人が公判廷に出頭して、そこで供述することを前提に、例外的にビデオリンク方式にすることを許容する制度が創設的に設けられています。そして、外国所在証人のビデオリンク方式による尋問については、それと同様に、公判廷に出頭しないで供述することを例外的に許容できる要件をどのように設定するかが問題となります。その際の特有の問題として、これまでの議論にも出てきておりますように、証言の信用性を法的に担保する偽証罪の制裁の実効性が国内と国外とで異なることといったことがありまして、そうした考慮を踏まえて、この類型に適した要件の検討が求められているものと理解しております。   以上に鑑みますと、取調べと証人尋問とでは、その実施の方式あるいは手続上の位置付けに差異があり、どのような場合にビデオリンク方式で実施するかを検討する際に考慮すべき事情も異なりますので、それぞれの制度の趣旨に従って検討することが適切ではないかと考えております。 ○久保委員 ただいまの池田委員の御指摘について、発言をしたいと思います。   池田委員の先ほどの御発言の中で、国外に所在していても公判廷に出廷して証言することができるのであれば、この要件には該当せず、結果としてこの刑事訴訟法第321条第1項第2号の適用範囲が狭くなると考えられるというような御趣旨の発言だと理解いたしまして、この点は非常に重要な御指摘だと感じたところです。その点自体がこれまでは曖昧でしたが、この同号の適用範囲が今後絞られるべきであるということが前提となるということは、重要な御指摘だと理解をしました。   また、外国所在証人も原則として日本で対面の尋問がなされなければならないことを大前提とした上で、例外的にビデオリンク方式を許容するという位置付けであり、かつ、2号書面の場面とビデオリンク尋問の場面が法制度の場面として異なるということ自体も私としては異論ございません。   ただ、実態としては一つの事件の刑事裁判手続の問題になるわけですし、かつ、それが被告人のえん罪の危険につながるということがございます。そうである以上、全体として刑事裁判制度の公正さが担保されなければならないものと考えます。   そもそも、深入りをするつもりはございませんが、この刑事訴訟法第321条第1項第2号については違憲だ、あるいは制限的に合憲とすべきという説も強くあるものと承知しております。その理由とするところは、被告人や弁護人の立会権、審問権も認められない状況にあるということであったかと認識しております。制限的合憲説に立つ高裁判例もあったと思いますので、2号書面の問題と、審問権がどのように実質的に保障されているのかという問題は、制度全体として考えてみると、切り離すべきではございません。取り分け、供述調書の作成段階でビデオリンクによる尋問が実施できないことがあらかじめ想定されるケースにおいて、2号書面を請求するということは、尋問実施の可能性を認識しながら国外退去強制をさせて2号書面を請求するというケースと何ら違いはありません。その状況を利用して2号書面を請求することは手続的な正義に反するという主張を弁護人からなされるということが起こるのではないかと思います。   また、先ほど、聴取する参考人が国内ではなく国外に所在をしていたとしても、国内の場合と大きな変わりはないというような御趣旨の御発言もございました。ただ、そもそもビデオリンクであれオンライン取調べであれ、共通する問題として、対面との違いということが前提にございます。人は対面の方がうそをつきにくいという性質がありますし、また質問する側にとってみても、うそをついていないか表情や挙動を常に観察する必要がございます。このような点で、日本国内外を問わず、またビデオリンク尋問であれオンライン取調べであれ、対面と比べて劣るということは前提としなければならないと考えます。   私としては、やはり2号書面は請求できるけれどもビデオリンク尋問は実施できないという領域が当初から想定されるような制度となることは問題があると考えているところです。先ほど申し上げたとおり、最終的には犯罪の成否の証明に欠くことができないという要件を相当広く解すれば、情状証人を除き、結論に大きな差異は生じない可能性もございますが、前提としての法制度は、公正さができる限り担保されるものでなければならないと考えます。   この点、国外で作成された証拠について、この合憲性自体に大きな対立のない3号書面の該当性に関する裁判例などを拝見すると、その絶対的特信状況の判断に際し、様々な理由を検討の上で特信性を肯定している最高裁平成12年10月31日決定などでは、様々な状況が考慮された上で特信性が肯定されていたものと承知しております。検察官がオンライン上で取調べをしたという場面で、特信性を容易に肯定し、尋問できる範囲よりも、2号書面あるいは3号書面の採用の範囲が大きなものとなるということには問題があると考えております。   いろいろと申し上げましたが、このビデオリンクの尋問に関する外国所在証人に関する結論としましては、外国所在証人についても原則対面であり、そのための努力がなされなければならないということ、それができない場合には、犯罪の成否の証明に欠くことができない場合に限ることなく、また検察官側証人に限ることなく、ビデオリンク尋問の機会を設けるように尽力されなければならないこと、また、池田委員が御指摘になったとおり、今後は2号書面の適用範囲が狭まるということを確認しておくことが重要だと考えております。繰り返しになりますが、刑事裁判の制度の全体として、被告人の防御権の実質的な保障も含めた全体としての公正さが担保されるべきだと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに御意見等はありますか。   よろしいですか。それでは、次に、検討課題の「(1)」の「①」の「イ」から「エ」までについて、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 それでは、「①」の「イ」と「ウ」と「エ」について申し上げたいと思います。   「イ」は、専門家証人として議論されてきた類型です。専門家証人は多くの場合、鑑定の経過及び結果についての供述を求められるわけですが、この際の供述をビデオリンク方式でする際の要件が記されております。例えば、裁判員裁判の集中審理期日と医師など多忙な専門家証人の日程調整がつかず、法廷に出頭して適時の証人尋問を実施することが困難だけれども、ビデオリンクであれば対応できるという場合は想定できると思いますので、その必要性も高く、そこに記されたような要件でビデオリンクによる証人尋問を可能にしておくということは合理的であると思います。   「ウ」は、入院中の重症患者等裁判所への出頭が困難な証人として議論されてきた類型ですが、入院というのは出頭が困難な状況にあることを象徴的にいったもので、入院していない場合でも、証言はできるけれども法廷への移動で症状が悪化するといったおそれのある場合に、ビデオリンクを用いることには正当な理由があると思います。   「エ」は、刑事施設等に収容中の証人として議論されてきた類型についての要件が記載されております。部会第5回会議では佐久間委員から、このような類型を設けておく必要性が具体的に指摘されておりまして、それをここで繰り返すことはいたしませんが、このような類型を設けておくことも適切であると思います。 ○久保委員 この「イ」、「ウ」、「エ」につきましては、規定を設けること自体に反対をいたします。   対面での尋問の重要性については、検討会において河津委員が繰り返し強調していたところですので、申し上げませんが、この「イ」から「エ」までにつきましては、平成28年の刑事訴訟法改正の際に、証人等の保護と証人尋問権の保障をいかに調整するかについて相当な議論を経た上で、一定の要件を満たす場合に限定して拡充されたばかりです。これを更に拡大して、対面で反対尋問をする権利を奪うということは、証人の負担を軽減するという利点があるとしても、反対いたします。   その上で、まず「イ」につきましては、鑑定に属するような供述を求める場合についても、やはり対面が原則でなければなりませんし、そうであれば、後に出てきます「オ」の類型さえ設けておけば、実際にビデオリンクによる尋問を実施する必要性がある場合もカバーできるのではないかと考えております。また、仮にこのような規定を設ける場合には、場所を近隣の裁判所に限定するということを条文上明記するべきだと考えます。専門家であったとしても、対面で表情などを観察しながら尋問する必要性は、それ以外の証人と何ら変わりはございません。多くの専門家が中立公正なお立場で証言をするよう努められていることは承知しておりますが、残念ながら、専門家であったとしても中立的とはいえず、他方当事者に敵対的に接するという方は少なからずいらっしゃいます。また、勤務地や勤務の状況というものは、およそ専門家であれば共通する多忙さに関わるものであり、絞りを掛けるような機能は果たさないものと考えます。そして、実施場所につきましても、先ほども申し上げましたが、専門家であるからといって、やはり訴訟指揮権や法廷警察権が及ばない場所で実施するということは適切ではないと考えます。   次に、「ウ」の類型ですが、先ほど小木曽委員からも御指摘があったとおり、入院に限らない規定ぶりになっており、広く適用されるのではないかという懸念がございます。この点についても、規定を置く必要性というのは「オ」の類型に集約されるはずですし、この要件の立て方というのはかなり広いものであり、そもそも入院ですとか入院に準じるような重大な疾病がある場合には、それを証人として出廷させるということは、オンラインであったとしても難しい場合が多く、そういった点も含めて、「オ」の類型に集約されるべきではないかと考えます。   最後に、「エ」について申し上げますが、やはりこの「エ」の刑事施設や少年院などに収容中の証人についても、特別な規定を置くことは反対であり、「オ」の類型に集約されるべきだと考えます。例えば、死刑確定者であったとしても、対面による尋問が原則であるべきということ自体御異論はないのではないかと思います。しかし、形としてこのような類型を設けると、恐らく全ての死刑確定者につきビデオリンク尋問の必要性というものが検察官から主張され、かつ多くのケースでそのような実施方法になりかねないと考えております。取り分け死刑確定者や受刑者に尋問する場面ということを想定しますと、おおむね共犯者という立場に置かれている方が多いと思われます。類型的に引っ張り込みの供述をしやすいとされているということは言うまでもないことであり、その結果、反対尋問において、その表情を含めた様子を観察する必要性が取り分け重要な局面となっております。そのため、このような類型を置くということについても反対いたします。 ○小木曽委員 今の久保委員の御発言に質問ですけれども、「オ」を置いておけば「イ」、「ウ」、「エ」を特出しする必要はないという御趣旨でしょうか。 ○久保委員 はい、「ア」も含めてだと思ってはいるのですけれども、基本的には「オ」の類型を設けておけば、実際上、この「イ」、「ウ」、「エ」に属するようなものでオンライン尋問でも問題ないケースは集約できるものと考えておりますので、このような規定を置くことで、形式的に「適用できる」という主張を招くことは不適切であり、実質的なところを当事者で議論をし、「オ」の類型で判断するべきものだと考えております。 ○酒巻部会長 「オ」だけだと、弁護人が異議を述べた場合は全部潰せるという、そういう趣旨ですか。「イ」、「ウ」、「エ」が書いてあるのは、そうではなく、御意見を聴いた上で裁判所の判断で決めるということだから、全然形が違うということで、「ア」から「エ」まではない方がいいというのが御趣旨ですか。 ○久保委員 弁護側証人については、逆に検察官が異議を述べるということもあるのではないかと思います。「オ」の規定ぶりにつきましては、現状、たたき台がこの表現になっておりますので、おっしゃるように弁護人が異議を唱えれば、あるいは検察官が異議を唱えれば潰せるというような形になるということが適切でないとすると、そもそも「オ」の規定ぶりをもう少し修正するべきということになるものと考えております。やはり、この「イ」から「エ」については、元々議論がなされた上で、平成28年の改正の際にその導入をされないということになっておりますし、このような「イ」、「ウ」、「エ」の類型は、正に現状、弁護人として活動している中で、検察官から尋問ができないという主張がなされる傾向にある類型ですので、このような規定が特出しで置かれることによって濫用されることを特に懸念しています。 ○保坂幹事 途中でおっしゃった「オ」の類型に関して、たたき台では、検察官及び被告人又は弁護人に異議がない場合という要件にしているが、誰かに異議があればビデオリンク方式でできないというのが「オ」のみそ、つまり訴訟当事者がリアルで尋問する利益を放棄していて、かつ裁判所も相当だと認めているということだから、「ア」から「エ」の要件を満たさなくても、これらとは別に「オ」が成り立っているわけですが、これの異議がないという要件を変えてしまったら元も子もないと思うのですが、どういうことですか。 ○久保委員 そういうことを前提としますと、当事者の異議があるか否かを要件とするということは、対面での尋問の重要性を前提とした規定であることが前提という意味でもありますので、そもそも「イ」、「ウ」、「エ」のように当事者の異議を考慮することなく強制することは適切ではないというところにつながるのかなと考えております。 ○保坂幹事 重ねてですけれども、では、「ア」はどうですか。そうすると、「ア」も要らないということにならないですか。 ○久保委員 要らないといいますのは、「ア」の規定がということでしょうか。 ○保坂幹事 「ア」もあってはならないということにならないですか。 ○久保委員 先ほど申し上げたのは、「ア」も含めてということになり、外国所在証人についても「オ」の類型に集約されるものと思います。その観点で申し上げますと、検察官が反対することによって弁護側の請求証人の外国所在証人のビデオリンク尋問が実施できないということは適切ではないと考えておりますので、当事者全てにおいて適切に、対面の尋問を原則とし、かつ適切に意見が反映されるような制度を考えるべきであり、「オ」の規定ぶり、これ自体が私として賛同しているものではありませんし、より対面の尋問を原則としつつ当事者の意思が反映される規定を一つ置くことで、全ての類型がカバーされるような規定になるということが望ましいものと考えております。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(1)」の「①」の「イ」から「エ」までについて、御意見がありますか。   よろしいですか。それでは、次に、検討課題の「(1)」の「①」の「オ」について、御意見等のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 「オ」の規律について意見を申し上げます。   この「オ」の規律は、「考えられる制度の枠組み」の「証人尋問」のうち「ア」「②」の類型について、異議の主体を明示するとともに、これまでの議論を踏まえて、相当性判断に当たっての考慮要素を記載しています。   このうち、異議の主体は、ビデオリンク方式による証人尋問について規定する刑事訴訟法第157条の6と同様に、「検察官及び被告人又は弁護人」とされています。もっとも、同条における当事者の意見は、裁判所がビデオリンク方式によるか否かを判断する際の参考資料となるにすぎないのに対し、検討課題「(1)」「①」「オ」の規律においては、当事者の異議がないことがビデオリンク方式の証人尋問を認めるための一つの要件とされており、位置付けが異なります。そして、この要件は、先ほどから議論されているとおり、当事者が対面で証人尋問を行う利益を放棄することを意味する点で、同法第326条における伝聞証拠に対する当事者の同意に類する性格を持つという評価も可能であるように思われます。仮にこのような理解に立つとすれば、「オ」の規律における異議の主体を、同条と同様に「検察官及び被告人」に限定することも考えられると思います。   次に、検討課題「(1)」「①」「オ」の規律で挙げられた相当性判断に当たっての考慮要素について申し上げます。   まず、ビデオリンク方式により実施する必要性の程度が掲げられていますが、これは、久保委員が強調しておられますように、証人尋問は飽くまで証人が法廷に出廷して対面で実施することが原則であることを前提に、たとえ両当事者に異議がない場合においても、その証人の尋問をビデオリンク方式により実施する必要性があるかどうかを裁判所が考慮して、その相当性を判断することになるという考え方によるものと思われ、合理性を認め得ると考えます。   また、例えば、尋問しようとする証人が罪体の認定に係る重要な証人である場合においては、的確な心証形成を確保すべき要請は強くなり、そのことがビデオリンク方式によることの相当性を否定する方向に作用し得ると思われますので、二つ目の要素である証人の重要性も、ビデオリンク方式によることの相当性判断に当たって考慮すべきであると考えられます。   さらに、三つ目の考慮要素として審理の状況が掲げられていますが、例えば、審理の状況に照らして、当該証人の尋問期日を多少延期すればビデオリンク方式によらずに対面で尋問を実施することが可能であり、かつ、それが適切であるときは、そうした状況は相当性を否定する方向に作用し得ると考えられます。   以上のとおり、これら三つの考慮要素はいずれも適切な内容であり、裁判所による相当性判断の安定に資するものと考えます。 ○久保委員 質問ですけれども、先ほどの「②」では、「①」「ア」の規律に関して、国際共助などが判断要素とされるかが検討課題とされておりますが、「オ」についてこの点の記載がないのは、「オ」では外国所在証人の類型をそもそも想定していないという趣旨なのか、前提として質問したいので、お願いします。 ○鷦鷯幹事 規律案の「オ」の類型は、検討会も含め、これまで「当事者に異議がなく、かつ相当」という類型として議論していただいてきたものを想定したものですが、証人の性質に着目した類型ではないという前提と理解しましたので、外国所在証人を特段排除するわけではないし、特にそれを念頭に置いたものでもないというところで、御理解いただければと思います。 ○久保委員 排除する趣旨でないということが確認できましたので、その点は結構です。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(1)」の「①」の「オ」について、御意見等はありますか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、検討課題の「(1)」「③」について、御意見等のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○𠮷澤委員 「③」についてですが、これまで述べていますように、DV・ストーカー・身体的虐待を受けた児童についても、加害者に対する恐怖であったり、同一の法廷に所在し精神の平穏を害されるという程度は性犯罪の場合と同等と考えます。また、実務の感覚からしますと、実際はビデオリンク方式によることが必要だと思われるケースでも実施できていないというケースがあるのが実情というのも、これまで述べたとおりです。   なお、これらにつきましては、構外ビデオリンク方式について検討された際に議論され、罪名で限定することが困難であるという指摘がなされたところではありますが、DVでありましたらDV防止法違反及びDV事案に起因する刑法犯、他の特別法犯、ストーカー事案につきましても同様に、ストーカー規制法違反及びストーカー事案に関連する刑法犯、他の特別法犯、児童虐待については児童に対する身体的虐待などといった形で特定することは可能であると考えますし、児童虐待についてはアメリカでも合衆国法典第18編第3509条で、性的虐待・搾取以外の身体的虐待を受けた児童についても、被告人のいる公開の法廷において証言することができないと認めた場合には、法廷以外の場所に証人が所在し、テレビ会議システムで証人尋問を行うことができるという明文が実際にあるところです。ですので、罪名で限定できないというものでもないと考えています。こういったケースについて、類型的にビデオリンク方式によるものと定めることが、以上の状況から必要であり、可能であると考えております。 ○保坂幹事 構外ビデオリンクの立案過程において、罪名で限定できないということの趣旨について補足しておりますが、例えばDVとか児童虐待に起因する刑法犯とおっしゃいましたが、例えば傷害罪とか暴行罪というのを考えたときに、傷害罪である、その被害者であるというだけでビデオリンク方式にはなりませんよね、したがって、傷害罪の被害者であるだけでなく、かつ、現行法のバスケットに当たる、著しく平穏を害するおそれといった実質要件を付け加えないと、ビデオリンクに適したものという要件にならないのではないかということです。他方で性犯罪は、その性犯罪に当たって、その被害者であるというだけで、言わば一発合格といいましょうか、ビデオリンクの要件を満たすとなっているので、それとは違いますよねという議論だったと理解をしています。 ○𠮷澤委員 その点は今おっしゃったとおりだと思います。罪名で特定するという、私の先ほどの説明ですけれども、罪名プラス、先ほどお話ししたような、何々に起因する、といった表現はどうしても残ってしまうものではあるのですけれども、そういった形であっても特定することが可能であると考えているということです。 ○久保委員 この類型につきましても、平成28年の刑事訴訟法改正の際にも議論されて改正されたところでカバーされているものと承知しておりますので、改めてこの類型で更に拡大をする必要はないものと考えております。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(1)」の「③」について、御意見等はございますか。   よろしいでしょうか。それでは、次に、検討課題の「(1)」の「④」について、御意見等のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 ビデオリンク方式による証人尋問をやるのであれば、その際には証人を裁判所の構内以外の場所に在席させて実施するという点に異論は示されていないと思われますので、具体的な規律の在り方について更に検討するべきであろうと思います。   検討課題の「(1)」「④」の点線枠内は、ビデオリンク方式により証人尋問を実施する場合に、証人が在席する場所について、裁判所が訴訟指揮に必要となる措置の内容等を踏まえ、それを行うに適当な場所であるかどうかも判断する枠組みとなっておりますので、定めそれ自体としては合理性があると思いますけれども、これまでの議論で、証人が不当な影響を受けずに証言できるか、訴訟指揮権や法廷警察権が適正に行使できるか、証言内容のプライバシー保持が可能かといった重要な御指摘がありましたことから、具体的・現実的な観点から、それらの関心が満たされる場所というのはいかなる場所で、遠隔の場合にどのように訴訟指揮等が行われるのかということをイメージしながら検討をしておく必要があるのではないかと思います。 ○向井委員 ただいま小木曽委員から御指摘もありましたとおり、証人の所在場所の考慮要素としましては、部会第5回会議でも申し上げておりますが、一つ目としては、証人が何らの影響も受けず自己の記憶のみに基づいて証言を行える状況であること、二つ目としまして、訴訟指揮権・法廷警察権の十全な行使が確保されること、そして三つ目として、証言内容に関するプライバシーが確保されることが挙げられるものと考えております。本規律案につきましては、想定される訴訟指揮の内容や程度等の事情を考慮した上で、裁判所が適当と認める場所を証人の所在場所とするものですから、今述べた考慮要素に配慮された規律案と理解いたしますが、先ほど述べました、証人が何ら影響を受けないといった点を始めとしまして、証人の所在場所を考えるに当たって、今、小木曽委員から具体的なイメージということもございましたけれども、考慮すべき事情について更に具体化されることを期待したいと思います。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(1)」の「④」について、御意見等はありますか。それでは、次に、検討課題の「(2)鑑定人尋問」について、御意見を伺います。検討課題の「(2)」の「①」と「②」は相互に関連すると思われますので、併せて御意見を伺います。いずれについてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 「(2)」の「①」と「②」の両方について意見を申し上げます。   考えられる制度の枠組み「(2)」「ア」は、鑑定人尋問の一連の手続のうち、鑑定を命ずる際に鑑定人を尋問し鑑定人に宣誓をさせる手続について、ビデオリンク方式のより柔軟な活用を図ろうとするものであり、検討課題「(2)」「①」は、その具体的な規律案を記載したものであると理解しています。   これまでの部会の議論においても、鑑定人尋問の一連の手続のうち、人定尋問、宣誓、鑑定能力に関する尋問、鑑定事項を告げて鑑定を命じるまでの手続については、鑑定人を法廷に呼び出して、その表情や動作を直接観察しながら尋問すべき必要性はほとんどなく、迅速な訴訟進行や多忙な鑑定人の負担軽減の観点からも、証人尋問より広い要件でビデオリンク方式により実施することができるものとするのが適切であるという御意見が示されてきました。   検討課題「(2)」「①」の規律は、このような従前の議論を踏まえ、これらの手続について、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴きつつ、裁判所が相当と認めるときに、ビデオリンク方式により実施できるものとするものであり、合理性を認め得ると考えます。   他方、鑑定の経過及び結果の報告に係る供述を求める場合において、鑑定人尋問をビデオリンク方式により実施する場合の要件については、先ほど検討課題「(1)」「①」「イ」で議論された専門家証人の証人尋問についての規律との関係を踏まえて、引き続き検討すべきでしょう。   次に、検討課題「(2)」「②」について申し上げます。   鑑定人尋問をビデオリンク方式により実施する場合に、鑑定人が在席する場所について、訴訟指揮権等の行使が確保され、鑑定人の供述に不当な影響が及ばず、尋問内容に関するプライバシーが確保されることなどが求められることについては、基本的に、先ほど議論された証人尋問の場合と同様であると思われます。そうであるとすれば、鑑定人が在席する場所についても、検討課題「(1)」「④」と同様の規律を設けることが考えられると思います。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(2)」について、御意見等はありますか。   よろしいですか。それでは、次に、検討課題の「(3)通訳」について、御意見を伺います。   検討課題の「(3)」の「①」から「③」までは相互に関連すると思われますので、併せて御意見を伺います。   いずれについてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○池田委員 通訳について意見を申し上げます。   この点に関連する検討課題「(3)」「①」は、通訳についてビデオリンク方式の柔軟な活用を図る観点から、裁判所が通訳人に通訳をさせるについて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いて、ビデオリンク方式による通訳をさせることができるものとするものです。   これまでの議論でも指摘されているとおり、通訳の本質が国語による陳述と国語以外による陳述ないし表現を相互に転換する点にあると考えれば、必ずしも国語に通じない者と通訳人との間で相互にその表情や仕草などをつぶさに観察できるようにすることが不可欠とまではいえないと考えられ、「(3)」「①」のような規律をすることにまずは合理性を認め得るのではないかと思われます。   ただ、当部会の第6回会議において久保委員から、通訳をビデオリンク方式で行う場合のデメリットとして、口の動きが読み取りにくいなどの点の御指摘がありました。これは確かに御指摘のとおりであり、通訳の正確性が訴訟関係人にとって極めて重要であるということに鑑みれば、実際上はこのような考慮のほか、予定される通訳人の個別の事情も踏まえて、対面によらないことで通訳の正確性など通訳の十全な実施に影響し得る場合などにおいては、そのことがビデオリンク方式によることを相当と認めるか否かの判断において勘案されることになると思われます。   次に、「(3)」「②」には、通訳をビデオリンク方式により行うことにつき困難な事情があるときは、映像を伴わない音声だけの送受信により通訳をさせることができるものとするかを記載しておりますが、これは昨年成立した民事訴訟法等一部改正法の規定と同様の規定を設けるかを検討課題とするものと思います。この点については、その趣旨を事務当局にお尋ねできればと思います。 ○鷦鷯幹事 御指摘のとおり、この「②」に記載している検討課題は、昨年成立した民事訴訟法等一部改正法の規定を視野に入れたものです。現時点で未施行の条文ですけれども、民事訴訟法第154条第2項になる内容のもので、通訳については、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によることについて困難な事情があるときは、音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によってすることができるものとされております。   その趣旨については、通訳人の確保をよりしやすくするという観点から、可能な限り柔軟な通訳方法を認めることが望ましいと考えられる一方で、通訳人が通訳を行う際には、発話者の口の動きから発話内容を読み取ったり、表情等を見て通訳を理解しているかどうかを確認したりすることもあると考えられ、通訳の正確性の観点からは、音声通話の方法よりもビデオ通話の方がより優れているということが考えられることから、音声通話の方法を認めつつも、それは、ビデオ通話の方法によることにつき困難な事情があるときに限るとされたものであると理解しております。 ○池田委員 それを踏まえて、更に意見を申し述べたいと思います。   今頂いた御説明の中にもありましたように、音声による場合は、口の動きや表情が見えなくなるという意味で、ビデオリンク方式以上に通訳の正確性に与える影響が大きくなると考えられます。この点は、対面によらないこと自体の相当性の判断において考慮され得るものと思われます。逆に、その上で音声の送受信によることも相当だと認められる場合があるのであれば、その場合に通訳人の確保をよりしやすくするという趣旨は刑事手続にも同様に当てはまると思われますので、同様の規律を刑事手続について設けることも合理的と思われます。いずれにしても、音声のみによることでも通訳の質に大きな影響がない場面を念頭に置くものと理解すべきではないかと思います。   最後に、「(3)」「③」について申し上げます。通訳をビデオリンク方式又は音声の送受信により実施する場合に通訳人が在席する場所についてですが、こちらは訴訟指揮権等の行使が確保され、尋問内容に関するプライバシーが確保されることなどが求められることは、これまでもありました証人尋問や鑑定人尋問と基本的に同様であると考えられます。そうであるとしますと、通訳人が在席する場所についても検討課題「(1)」「④」と同様の規律を設けることが考えられます。 ○久保委員 通訳の問題点につきましては、先ほど池田委員に御指摘いただいたとおりですが、やはり通訳をビデオリンクで行う場合につきましては、飽くまでも少数言語の通訳人の確保が困難な場合において、被告人の防御を実質的に保障する観点で利用するということを想定するべきだと考えております。また、このたたき台では、被告人又は弁護人の意見を聴くということになっておりますが、場合によっては被告人自身の意見を必ず聴くべきケースというのもあるのではないかと懸念をしております。例えば、障害がある被告人にとっては、弁護人においてもその通訳の適切な在り方を正確に把握できない可能性もあるのではないかと思います。被告人の権利保障という点で、選択肢を増やすということは適切だと考えておりますが、被告人自身の意思というものが適切に反映されるべきだと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(3)」について、御意見等はありますか。   よろしいですか。それでは、これで「第2-4 証人・鑑定人の尋問及び通訳」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、検討課題に明記されていない点に関するものも含め、ほかに御意見はありますか。   それでは、次に、「第2-5 公判審理の傍聴」について議論を行いたいと思います。  議論に先立ち、配布資料12の「第2-5」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、事務当局から説明してもらいます。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の13ページを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」には、公判審理の傍聴について、映像・音声の送受信により行うことができるものとするA案と、法制上の措置を講じないとするB案を記載しています。   続いて、「検討課題」については、映像・音声の送受信により傍聴を認めることによる弊害等について、「①」から「④」までに記載している点などが、検討課題となります。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容について、御質問等はございますか。   それでは、議論を行いたいと思います。   検討課題「(1)映像・音声の送受信による傍聴を認めることによる弊害等」について御意見を伺います。検討課題の「(1)」の「①」から「④」までは相互に関連すると思いますので、併せて御意見を伺いたいと思います。いずれの点についてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 私は、検討課題「(1)」「①」について、これまでの部会における議論を踏まえつつ、意見を申し上げます。   第6回会議において、佐久間委員から、インターネット等を通じて公判審理を広くオンラインで傍聴できるようにすることに伴い生じる弊害が述べられました。具体的には、証人の協力を得ることや証人が真実を証言することが困難となるおそれ、被害者の精神の平穏が害されるおそれ、被告人の社会復帰に悪影響を生じさせるおそれ、裁判員や証人等に対して接触行為、困惑・威迫させる行為等が行われるおそれなどが指摘されたところです。これらの弊害は、インターネット等を通じて誰でも公判審理を視聴できるようにすることそれ自体により生じるものですから、およそ防止する術はないように思われます。   他方、久保委員からは、諸外国の中には、公判審理の一部をインターネットで視聴することができる国もあるという御指摘もございました。もっとも、インターネット等を通じた傍聴の弊害をどのように捉え、他方で、どのような理由から国民に公判審理の状況を広く知らしめる利益を重視するのかといった点については、各国様々な考え方があるものと推察されますので、外国がやっているから我が国でも直ちに導入すべきということにはならないと思います。   我が国においてインターネット等を通じた傍聴を認めるかどうかは、さきに申し上げた種々の弊害を考慮してもなお、このような傍聴を認める必要性があるかという観点から、我が国の状況に即して具体的に検討していくことが求められると考えます。   以上がこの問題に対する私の基本的な考え方ですが、最後に一言だけ付け加えさせていただきますと、社会におけるデジタル化、オンライン化は今後も大きく進展することが予想されますので、それでもなお、インターネット等を通じた傍聴を一切認めないとするのであれば、その理由を十分に説明することができる必要があると考えています。 ○𠮷澤委員 「②」から「④」までについて意見を申し上げます。オンライン傍聴のニーズについては、第6回会議で詳しく述べたところですので、ここで長くは申しませんが、一つ目に、元々起訴された事案が被害者参加対象事件ではない場合、二つ目に、被告人と同じ空間にいること自体に苦痛・恐怖を感じ、公判廷で傍聴できない場合、三つ目に、被害者多数の事案で傍聴席に入り切れない場合において、傍聴を断念するという方は多いです。特に、三つ目については被害者等の傍聴のニーズが裁判所の設備の問題によって阻害されてしまうものですから、何とかして裁判所には被害者・御遺族の、傍聴したいという思いに応えていただきたいと思っています。   「③」についてなのですけれども、第6回会議でも述べましたが、オンラインによる傍聴によっても、被害者等が在席する場所に裁判所職員を立ち会わせるといったことで、訴訟指揮等の実施に問題がなくなり、大きな法廷で裁判官席から遠い傍聴席に座る傍聴人の動静を確認することと比較しても遜色はないのではないかと考えます。一方、裁判官が確認しなければならないモニターが多くなれば訴訟指揮に困難を来すことは理解できますので、そのオンラインでつなぐ場所の数を裁判所の判断によって限定することは当然必要だと考えています。   「②」と「④」についてですが、刑事事件における被害者というのは、他の裁判手続とは異なり、既に被害者参加制度が認められており、更に優先傍聴の配慮が法律によって定められているという点で、既に特別な配慮がなされる必要性が認められているものです。第6回会議で近藤幹事から、特定の方に対して、同一の傍聴方法の中での配慮という枠を超えて他の者と異なる傍聴方法までを認める根拠は何か、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第2条の存在では説明困難ではないかという御指摘がありました。しかし、同法においても優先傍聴というのが同一法廷内のものに限るとは規定されておりません。同法が制定された当時は、現在のようにIT化が進み、非対面での情報通信が日常的に対面でのものに代わるといったことは想定されていませんでした。ですから、当時は優先傍聴の配慮の方法として、物理的に同一法廷内に存在する傍聴席を優先的に確保するという方法を採用し、これまでそのように運用してきたということにすぎません。   この法制審議会の会議は、目覚ましい進展を遂げた情報通信技術の進展やその普及の状況に伴い、現行の手続において情報通信技術を活用することを検討するものであり、取りまとめ報告書の「第4 終わりに」のまとめの部分においても、刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続の機能をより一層強化し、国民の負託に応えるものとする上で極めて重要な意義を有するものであるとされています。   こういったことからしますと、御指摘の中の同一の傍聴方法の中での配慮という枠を超えて他の者と異なる傍聴方法まで認める根拠は何かという点につきましては、それは、この法制審議会でも今正に検討している情報通信技術の発展や普及である、そして、それを今も認められている優先傍聴に活用するということになるのだと思います。同法の制定当時は同一法廷内での傍聴しか考えられていなかったものが、オンラインで接続し、リアルタイムで映像と音声を送受信し、映像を用いて意思疎通を行うことを可能とする技術が進展したことにより、オンラインでの傍聴も考えられるようになった、そして、既に現在そのための社会基盤が汎用化し、実際日常的にオンラインによる通信や、この会議も含め、会議等、社会生活、日常生活の様々な場面でオンラインが活用されるに至っており、今後も進展を続けることが明らかという状況にあります。   そういうことからしますと、現在、日常的によく活用されているオンラインという方法で裁判所内の別室とつなぎ、傍聴を認めるという手段を排除しないというだけで被害者・御遺族の思いが遂げられるというのに、それを全て遮断する、一切認めないとすることが果たして国民の感覚に合うのか、信頼を得られるのか、国民の負託に応えるものだといえるのか、そういった点では否定的なことになってしまうのではないかと考えます。ですから、被害者・御遺族に対し一定の場合、オンラインによる傍聴を認めることは必要ですし、それが正に同法で認められている優先傍聴について情報通信技術の活用を行うということになるものであって、他の裁判手続との関係でも問題がないものと考えています。 ○近藤幹事 私は、「②」、「③」、「④」に関して意見を申し上げます。   公判審理の傍聴について新たな法制上の措置を講じることは、今回、たたき台に検討課題として列挙されたような問題点を始めとする懸念点が多く残っている状況にあります。その詳細については部会第6回会議において申し上げましたが、簡単にその要点のみ申し上げます。   傍聴は、裁判の公開の原則を踏まえ、万人に対して裁判の公開を実現するための方法でありまして、裁判の公開は裁判の公正を担保するための制度的保障であると解されます。そうすると、特定の方に対して、同一の実施方法の中での配慮を超えて、他の方とは異なる傍聴方法を認める根拠は何かというのは、やはり難しい問題として残っておりますし、必要性だけではなく相当性の議論も慎重に考えなければいけないということにはなると思います。   裁判手続の内容を裁判所が直接その状態を把握できない場所に中継した場合に関しては、前にも申し上げましたが、法廷内に加えて中継先の状況にも留意しながら手続を進めなければならず、モニターが複数になる場合も想定される中、円滑な訴訟進行、心証の形成等は極めて困難となります。   傍聴の在り方につきましては、このような弊害、あい路を踏まえつつ検討する必要がある上、どのような形で傍聴を認めるかは、刑事手続にとどまらず民事訴訟などを含めた裁判制度全体に関わる問題です。他の裁判制度の公開の在り方との整合性を含めて慎重に検討する必要があります。刑事手続における情報通信技術の活用の在り方について議論を行う当部会において、他の裁判手続にも大きく波及し得る傍聴の在り方について、更なる議論を行うことには限界もあると思われます。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(1)」について、御意見はありますか。   よろしいですか。それでは、これで「第2-5 公判審理の傍聴」についての議論はひとまず終えることとしたいと思いますが、検討課題として明記されていない点に関するものも含め、ほかに御意見はありますか。   よろしいですか。それでは、本日の審議はここまでとしたいと思います。   以上で、配布資料12の「第2-1」から「第2-5」まで、一通りの議論を行うことができました。本日は、迅速で、効率的かつ充実した議論に皆さんの御協力を頂きまして、本当にありがとうございます。今後も冒頭に述べたような形でやっていければと思いますので、御協力をよろしくお願いいたします。   次回は、諮問事項「三」について、資料を事務当局に準備してもらい、その資料に沿って議論を進めていくということにしたいと思います。   今後の日程につきまして、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回、第10回会議は令和5年5月26日午後1時30分からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細については別途御案内を差し上げます。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会いたします。どうもありがとうございました。  -了-