法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 期日外ヒアリング 第1 日 時  令和5年4月21日(金)   自 午後2時57分                        至 午後3時55分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  参考人からのヒアリング 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 幹事の鷦鷯です。ただいまから、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の期日外ヒアリングを開催いたします。   委員・幹事の皆様におかれては、御多用のところお集まりいただき、ありがとうございます。   本日のヒアリングでは、部会第7回会議でお諮りしましたように、障害者に配慮した制度設計等に関して、障害をお持ちの方々等から御意見を伺いたいと思います。   参考人としてお越しの皆様方、お時間を頂き、ありがとうございます。   本日は、部会における議論とは別の、期日外のヒアリングですので、御都合がつかず欠席されている委員・幹事もいらっしゃいますが、本日お伺いしたヒアリング結果については、今後の部会の会議において、事務当局から御報告するとともに、部会にお諮りした上で、適宜の方法で法務省ホームページにおいて公表したいと考えております。   本日御意見を伺う方々は、お手元の「ヒアリング出席者名簿」のとおりです。   人選等をしていただいた辻川圭乃先生からの御要望により、本日は合計11名の方々に一堂にお集まりいただいて御意見を伺うこととなりましたが、時間の関係上、御発言及び質疑応答を含めて合計1時間以内ということでお願いしておりますので、進行に御協力を賜りたく存じます。   それでは、早速ヒアリングを始めたいと思いますが、御発言の順序や時間配分等も含めて、田中伸明先生に進行をお任せいただきたいとの御要望を承っておりますので、よろしくお願いします。 ○田中氏 本日は貴重な機会を頂きまして、誠にありがとうございます。また、委員・幹事の皆様におかれましては、御多用のところ御出席を頂きまして、誠にありがとうございます。心より感謝を申し上げます。   本日は、刑事手続において情報通信技術を導入することに際し、障害者に対して必要な配慮につきまして、日本弁護士連合会、それからJDFの各所属の参考人から御説明をさせていただきたいと思います。   では早速、日本視覚障害者団体連合の会長でありJDF、Japan Disability Forumの副代表でもある竹下さん、御発言をよろしくお願いします。 ○竹下氏 ありがとうございます。私自身、全盲の弁護士で、日本視覚障害者団体連合の会長、日本障害フォーラムの副代表をしている竹下義樹です。本日は、聴覚・視覚を中心として、情報コミュニケーションに大きな不利益を抱える障害者に対する刑事手続における配慮について、今後の制度設計に役立てていただくためのヒアリングの機会を持っていただいたことを心から感謝申し上げます。   私自身、これまで40年の弁護士生活の中で、全盲の被告人であったり、あるいは聴覚障害者の弁護を担当したこともありますけれども、大きく時代が変わる中で、障害者に対する理解、あるいは障害者に対する合理的配慮が制度化されるという進展の中で今日のヒアリングを迎えたことを非常に大きな進歩として捉えております。   視覚障害一つとってみても、見えないというだけで皆さんに一定の理解はあるかもしれませんが、その本人が抱えている困難は単純ではございません。例えば、先天盲、あるいはごく小さいときに失明した全盲の方ですと、色というものに対する理解は一般的な形では困難、あるいはできません。あるいは、弱視と申しましても、大げさに言えば、10人の弱視がいれば10人の見え方があると言っても過言ではありません。   聴覚障害をとってもしかりであります。手話を十分に身に付けている方と、そうでない方、あるいは中途で聴覚障害になる方とそうでない方など、同じ聴覚障害、視覚障害であっても、その一人一人の特性の大きな違いというものを念頭に置いていただくことが非常に重要な段階に来ているのかなという思いも持っております。   ともあれ、本日は、それぞれの経験から、今後の情報通信技術がどういう形で刑事手続において有意義なものになっていくかの参考にしていただく機会となることをお願いし、また、今後もこうした機会を持っていただくこともお願いをして、私の発言を終わりたいと思います。   なお、日本視覚障害者団体連合としての意見書を提出しておりますので、参考にしていただければと思います。どうもありがとうございました。 ○田中氏 続きまして私、田中から御説明いたします。   私は、視覚障害の当事者で弁護士であります。25歳の頃に中心視力を失いまして、現在は、点字と、パソコンに音声ソフトを搭載して業務を行っております。   私からは、提出させていただいた「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関する意見書」の「第1 はじめに」に関連いたしまして、障害者が司法手続を利用する場合の国際的な枠組み、そして国内法制度について説明させていただきたいと思います。   まず、「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関するヒアリング提出資料」資料1を御覧ください。これは障害者の権利に関する条約第13条、司法手続の利用の機会を抜粋したものです。障害者の権利に関する条約は、2006年に国連総会で採択されまして、日本は2014年に同条約を批准し、締約国となっております。   内容を御覧いただきますと、障害者に対して手続上の配慮を提供することにより、障害者が司法手続を利用する効果的な機会を有することを確保することが求められております。ここに出てきます「手続上の配慮」というものが、障害者が憲法第32条に定める裁判を受ける権利を実質的に保障するために重要なキーワードとなります。   そこで、この手続上の配慮の意味内容について説明したいと思います。資料3を御覧ください。これは一般的意見第6号の抜粋です。一般的意見というのは、国連の障害者権利委員会が特定の条項について解釈指針を示したものです。抜粋した第51項を見ていただきますと、「手続上の配慮」は、均衡を失していることを理由に制限されないという点で、「合理的配慮」と区別することができると定められております。合理的配慮というのは、過重な負担という概念によって制約を受けるという特徴を持っております。一方、手続上の配慮は、均衡を失していること、すなわち過度な負担という概念によっては制限を受けないという点に特徴を持ちます。裁判を受ける権利の重要性を考えても、十分に理解できることかと思います。   次に、資料5を御覧ください。資料5は、国連の障害者権利委員会が公表した総括所見の抜粋です。日本が締約国となったことに伴いまして、昨年、国連の障害者権利委員会による日本審査が行われました。その日本審査を踏まえまして、条約から見た日本における問題点を懸念事項と勧告事項としてまとめた文書です。   条約第13条関係ですが、抜粋した第29項の「(b)」を見ていただきますと、手続上の配慮の欠如、そして、障害者にとって利用しやすい情報及び通信の欠如が懸念事項として示されております。続く第30項の「(b)」を見ていただきますと、手続上の配慮の保障が勧告されておりまして、改善が求められています。国際的な枠組みは以上です。   次に、国内法制度について説明します。   資料6を御覧ください。これは障害者基本法第29条、司法手続における配慮等ということで、個々の障害者の特性に応じた意思疎通の手段を確保するよう配慮することが定められております。   次に、資料7を御覧ください。これが情報コミュニケーション法でございます。   これは、昨年成立いたしまして、主に障害者の情報保障について必要な制度、施策が定められているものです。第3条第4号を見ていただきますと、デジタル社会において、障害者が情報の取得や利用、そして円滑な意思疎通を図ることができるようにすることが求められておりますし、第13条では、施策の必要な分野として司法手続が例示で明記されているという点が重視されなければなりません。   続きまして、聴覚障害の立場から、田門さん、御発言をお願いいたします。 ○田門氏 <手話で以下のとおり説明が行われ、手話通訳を介して聴取した。>   お時間を頂きましてありがとうございます。田門浩と申します。私は生まれつき耳が聞こえません。3歳の頃からろう学校に通っております。その頃から手話を使っております。31歳のときに弁護士の登録をいたしました。現在、25年目になります。ふだんから手話通訳者を通していろいろな裁判所で尋問などを行ったりしております。   次に、「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関する意見書」「第4」、「第5」、「別紙1」について補足説明をいたします。その中で、オンラインではなぜ手話通訳が難しいのかについて説明をしたいと思います。手話というのは手、指、指の形、動き、それから動きの速さ、そして腕の位置や眉の動き、また顎の動き、口の形なども重要になります。   まず、車が走るという文章の手話について説明いたします。   「車」という言葉ですけれども、これは横になっている厚い物をつかむような、こういう形で表します。それから「車が」というところは、「車」という表現と一緒に眉を上げて顎を引きます。これが「車が」という助詞のついた表現になります。一瞬でこの動きが出ますので、手話通訳者としては、その動きを見落としてしまうといけないわけですね。それから、この指を先の方に、前に向けます。そうすると、「車が走る」という表現になります。もし、顎を前に出して速く動かすと、「車が速く走る」という表現になります。ゆっくり動かしつつ、肩をすぼめ、そして顎を引いていくと、「ゆっくり車が走る」という表現になります。顎の動き、肩の動き、それから、それらのちょっとした動きを見て、手話通訳者は読み取っていかなければいけないわけです。   それから、次に「車が左折する」という文章ですけれども、この「車」ですね、先ほどの「車」、これを前に向けて左に動かす、これで「車が左折する」になります。   「拳でたたく」という手話があるのですけれども、その場合には、手を握って左に動かす。手を開いているのと拳になるのとの違いだけで意味が違ってしまいます。いま示しましたように、指の先、また腕、眉、顎、それから位置ですね、その動きの違いが少しあるだけで意味が大きく変わってしまいます。ですので、手話通訳者がオンラインで判断をすることができないという場合には、どうしても手話の読み取りを、通訳を間違ってしまうことも起きかねません。オンラインでの通訳には非常に大変な部分があることを御理解いただきたいと思います。 ○田中氏 続きまして、聴覚障害の立場から、若林さん、御発言をお願いいたします。 ○若林氏 <手話で以下のとおり説明が行われ、手話通訳を介して聴取した。>   若林亮と申します。私も田門弁護士同様、生まれたときから聞こえません。ろう学校に通い、その後は普通制の学校に行きましたが、発音は余りよくありません。また、相手が何を話しているかも分からないということもあります。ですので、私にとってコミュニケーションには手話が必要、手話が言語として必要不可欠です。   2012年末、弁護士に登録して、現在で11年目になりました。私は手話通訳者と一緒に仕事をしております。若林からの話は、若林が手話で表し、若林と対面している手話通訳者が読み取りをして、日本語の音声に換えて、皆さんに通訳をするという方法をとっております。皆さんからお話があった場合、その音声、日本語の話は、手話通訳者が聞き取って、若林に手話で通訳をいたします。   ここで私が表す手話は、単なる手の動きだけではなく、表情や指、腕、顎の位置も含み、それぞれの位置や動きや強弱、これらが言語として極めて重要な意味を持っているというものです。   手話言語は、位置の立体的な構造が加わる分、音声言語以上に、通訳者と通訳を受ける人がお互いに対面でリアルに互いの手話を見る必要があります。ですので、聴覚障害のある被疑者・被告人の場合、できるだけ対面でのリアルな通訳をお願い申し上げたいところです。   ただ、交通事故直後や、現行犯逮捕後、また緊急逮捕等、手話通訳者が物理的・時間的に同行できない場合もございます。このような場合は、聴覚障害のある人の防御権の保障のためには、オンラインでの手話通訳が必要不可欠であると考えます。   その場合、手話を用いる人の上半身が全部映るようにモニター等を使用していただきたいものです。カメラも、頭の先から大体おへそぐらいまで映るように配慮していただきたいです。さらに、通信環境も配慮されたくお願いいたします。Zoom等で音声言語が切れ切れになって聞き取りにくくなることがあるようですが、手話の場合も同様で、動画が固まってしまったり、ぎこちなくなったりした場合、その場合には完全な手話通訳が達成されないおそれがあります。できるだけ速やかに対面での通訳を確保されたく、配慮をお願いいたします。 ○田中氏 続きまして、聴覚障害の立場から、松田さん、御発言をお願いいたします。 ○松田氏 <手話で以下のとおり説明が行われ、手話通訳を介して聴取した。>   弁護士の松田崚と申します。本日は法律事務所からオンラインで参加させていただきます。   私も生まれたときから耳が聞こえず、手話を使います。田門弁護士、若林弁護士からもお話を頂きましたが、オンラインによる遠隔の手話通訳の難しさについて、私からも簡単な例を一つだけお示しして、説明をさせていただきます。   刑事裁判という重要な手続の場におきましては、緊張でつい早口になる方もあろうかと思います。同じように、手話も速くなってしまうということがあります。例えば、2時、3時と、今から手話で表してみます。2と3は、それぞれ2本の指、また3本の指で表現します。<手の甲を上に向けた左手を胸の前に出し、右手の人差し指と中指の2本を広げて伸ばしてその中指を左手首の手の甲側に一度当てる動作をし、次に、右手の人差し指、中指及び薬指の3本を広げて伸ばしてその薬指を同様に左手首の手の甲側に一度当てる動作がなされた。>今のようにゆっくりとこの単語だけで表しますと、2、3と皆様にもお分かりかと思います。それでは今から、2時に出る、3時に出るという手話を速く表現をしてみます。<前同様の動作がより速くなされた。>今、2か3か、この違い、はっきりお分かりになりましたでしょうか。正解を申し上げると、実は1回目は3時に出る、2回目は2時に出ると表しました。このように、映像ですとぶれてしまい、2本指なのか、3本指で3時を表しているのかが正確に読み取りができなくなることがあります。   また、今回は、手話通訳者は会場、私は別の場所におります。しかし、逆に手話通訳者が別の場所からいわゆる遠隔通訳を行う場合、例えば法廷にいないため、法廷でのやり取りの内容や映像に映っていない空間の状況がつかめなかったり、法廷の中などで示された資料の内容を把握できないというおそれがあります。聴覚障害当事者にとって司法手続を利用する効果的な機会や防御権が保障されるためには、手話通訳が円滑かつ確実に行われることが必要です。   会場にいる手話通訳者にやっていただいている様子を御覧いただければ分かるかと思いますが、聴覚障害のある被疑者・被告人が、映像・音声の送受信によって手話通訳を行うことを選択した場合であっても、手話が見やすいよう画面の大きさを一定程度確保するなど、システム、環境及び運用上、意思疎通に支障が生じない態勢を確保することを条件として実施しなければなりません。また、具体的な場面や状況に応じて当事者や手話通訳者、弁護人等の意見を聴き、意思疎通等に関して配慮することが求められます。このようなことは対面の場合でも同様です。 ○田中氏 続きまして、難聴者の立場から、久保さん、御発言をお願いいたします。 ○久保氏 弁護士の久保陽奈と申します。本日はお話しする機会を頂き、ありがとうございます。私は、聞こえて育ちましたが、進行性の難聴で、現在は両耳とも重度の感音性難聴です。両耳に補聴器を付けていますが、外すと何も聞こえません。私は、補聴器を付けることにより音も聞いていますが、言葉の正確な聞き取りは困難であり、日頃の業務は、対面やオンラインでの面談、法廷での訴訟活動、その他全ての場面において、音声認識アプリを利用し、文字で情報を得ています。   聴覚障害と一口に言っても、聴力の程度、失聴の時期等により、コミュニケーションの方法は異なります。さきの3名の先生方のように手話を用いる人もおられますし、聴覚活用、すなわち補聴器や人工内耳を装用し、適宜補聴援助システムを利用して音声でコミュニケーションをとる方もいます。私のように、補聴器により聴覚活用しつつも、文字を必要とする人もいます。   私からは、文字を必要とする聴覚障害者がオンラインで参加する場合、どのように文字でやり取りを示すのか、二通りの方法を示したいと思います。   一つ目はTeamsのライブキャプション機能で、今、私のTeamsの画面を共有しております。<当該Teamsの画面が議場内の大型モニターに投影され、操作しながら説明がなされた。>これで、その他の操作という「・・・」のところを押しまして、「クローズドキャプションをオンにする」をオンにします。そうしますと、画面左下に2行ほどのリアルタイムの字幕が出ているかと思います。通信の関係で少し遅いかもしれませんけれども、Teamsではこのようにライブキャプション機能といって字幕を表示することができます。精度は非常に良いのですが、自動字幕であって、誤認識や誤変換が出ても修正はできません。一旦画面共有は停止しますが、これは各自のTeamsの画面で出てきますので、是非お試しいただければと思います。<画面共有が停止された。>   二つ目は、既に「UDトーク」というアカウント名でTeamsの画面上に出している字幕です。これはUDトークという音声認識アプリを用いた字幕で、誤認識・誤変換の修正ができます。本日は、お二人の文字通訳の方がTeamsで参加し、字幕の誤認識と誤変換を修正しています。UDトークをタブレットで起動して、そのタブレットの画面をキャプチャーデバイスという機器を利用してパソコンに取り込み、そのパソコンでTeamsに参加し、カメラ選択においてこのアカウントの画面を選択するという方法によって、タブレットの画面が表出されるという仕組みです。字幕については、本日のようにUDトークのような音声認識アプリを利用する方法のほか、複数の人が連携してキーボードで全文を入力していくという方法もありますが、いずれにしましても、オンラインにおいても字幕をこのように画面に出すこと自体は可能ですし、字幕のみを映した端末を準備して表示することも一般的に行われています。   ただし、運用において注意が必要です。   重要なことは、間違いのない正確な字幕を出す必要があるということです。誤った字幕が修正されずにそのまま表示されている場合、聞こえない人はそれを正しいものとして認識してしまい、混乱が生じることもあります。   Teamsのライブキャプション機能には誤認識や誤変換を修正する機能は現状はありませんので、刑事手続における利用は避けるべきと考えています。音声認識アプリを利用する場合には、誤認識や誤変換を修正する担当者を確保することが必要です。また、余裕を持って読み進めることができるように、適切な文字の大きさ・行数で表示する配慮も必要になります。 ○田中氏 続きまして、視覚障害の立場から、大胡田さん、御発言をお願いいたします。 ○大胡田氏 弁護士の大胡田誠と申します。よろしくお願いいたします。私は12歳の頃に失明いたしまして、それ以来、目を使わない生活を続けております。   まず、全盲の障害がある弁護士が書類をどのようにして読むのかをお話ししたいと思います。   大きく分けると、その方法は三つございまして、まず一つ目は、目の見えるアシスタントや同僚に書類の内容を朗読してもらうという方法です。   二つ目は、同僚やアシスタントに書類をスキャナーで取り込んで、OCRソフトを使ってテキストデータにしてもらい、出来上がったテキストデータを自分のパソコンやスマートフォンに入っている画面読み上げソフト、これをスクリーンリーダーと呼ぶこともありますけれども、画面読み上げソフトを使って内容を確認するという方法です。例えば、今ここにあるiPhoneにも画面読み上げソフトが入っています。<スクリーンリーダーが「15時30分。通常表示ボタン。15時30分。4月21日金曜日。」と読み上げる。>今、日付と時刻を読んでみましたが、こんな声で書類の内容も読み上げてくれるわけです。   三つ目は、同僚やアシスタントに作ってもらったテキストデータを点字ディスプレイに送って、点字を表示させて、指先で内容を確認するという方法です。   今ここにありますのが携帯型の点字ディスプレイです<議場内に示す。>。この機械の前面に点字の表示される部分がありますので、ここを触って点字で文書の内容を確認するわけです。   画面読み上げソフトや点字ディスプレイというのは、電子データとの相性が良いので、今回、刑事手続で電子的に作成された書類が導入されることは大いに賛成するところです。   しかしながら、どのようなデータでも使えるのかというと、そういうわけではなくて、例えば、紙をスキャナーで取り込んで画像情報として保存したようなデータは読み上げソフトや点字ディスプレイでは中身を確認することができません。そのため、刑事手続で使用される電子情報については、必ずテキスト情報が埋め込まれたデータ形式、これを標準としていただきたいと思っています。具体的には、テキスト情報が含まれたPDFファイル、こういった形式が標準であると有り難いと考えております。このようにテキスト情報が含まれておりますと、コピー・アンド・ペーストなどで様々に活用することも容易なので、健常者にとっても利便性が高まるものと思います。   次に、書類の発受についてお話をしたいと思います。   現在、書類の発受の方法としては、電子的に作成されたものをインターネットのウェブサイトにアクセスすることによってアップロードしたり、ダウンロードしたりということが想定されていると思います。このウェブサイトが視覚障害者の用いる画面読み上げソフトで読み上げたり操作したりすることができなければ、視覚障害者には独力で書類の発受が行えないということになってしまいます。   そこで、このウェブサイトのデザインとして、視覚障害者にも利用可能なものとすることが大切です。   参考となりますのがJIS規格です。障害者や高齢者もウェブサイトが使えるようにと策定されたJIS規格がございます。JIS X 8341-3というものがありまして、8341というのは語呂合わせで「やさしい」と覚えるのですが、このJIS X 8341-3に基づいて作成される必要がある。この中にも幾つかレベルがあるのですが、こういった重要な作業を行うウェブサイトにおいては、適合レベルAAですね、上から二つ目のダブルエーを満たすことが推奨されています。   このように、私がお伝えしたいのは、刑事手続で用いる電子データについては必ずテキスト情報が含まれたデータ形式を標準としていただきたいという点、もう一つは、書類の発受を行うウェブサイトは視覚障害者にも利用可能なデザインとしていただきたいという、この2点です。 ○田中氏 続きまして、視覚障害の立場から、板原さん、御発言をお願いいたします。 ○板原氏 視覚障害のある弁護士の板原と申します。Teamsで参加させていただいております。私は弱視で視力が低いので、パソコンを使用する際はスクリーンリーダーを使用しております。このスクリーンリーダーは、パソコン画面上の文字や表示を音声で読み上げるソフトウエアを総称していますが、視覚障害者向けのスクリーンリーダーにも多種多様な種類がございます。どのようなスクリーンリーダーであっても、例えば、ワードファイルやメールのように文字ベースで処理ができるものについては、さほど苦労はありません。画面上にワードで「あいうえお」と書いてあると、それはそのまま「あいうえお」と読み上げられ、メールなども「送信」などと読み上げられるため、特に困らずに作業できるわけです。   一方で、画面上に画像が表示されている場合、人が映っているのか、物が映っているのかなど、映っているものについてはスクリーンリーダーは説明せず、「画像があります」、「画像です」などと読み上げるだけなので、我々は、画像が映っていることは分かっても、どのような画像なのかは全く分からないという状況になってしまいます。   スクリーンリーダーは全て文字と音声に頼りますので、マウスによる作業も難しく、基本的にキーボードを使って作業していくことになります。本日使用しているTeamsであれば、画面の右上にマイクやビデオ、設定、「・・・」というようなアイコンが表示されていると思いますけれども、このようなアイコンについても、スクリーンリーダーではうまく探し当てたり動作させたりすることが困難なことが多いので、ショートカットキーを用いることが多いです。このショートカットキーというのは、例えば「Shift」キーと「Ctrl」キー、そしてアルファベットの「O」のキーを同時に押すと、カメラのオン、オフが切り替えられるといったものですけれども、全ての機能にこのショートカットが割り当てられているわけでもありません。   また、Zoomでは、先ほど述べたカメラのオン、オフを「Alt」キーとアルファベットの「V」のキーで操作することになっているなど、アプリケーションによっても操作方法は全く異なるため、それぞれのアプリケーションによって、使いこなすためにある程度習熟する必要があります。   さらに、会議中にカメラ越しに身振り手振りをしたり、画面共有の機能を使って御説明される方もいらっしゃるかと思います。このような身振り手振りや共有画面などは、スクリーンリーダーでは読み上げないことがほとんどですので、このとき何が起こっているのかが我々にとって全く分からないことになってしまいます。   私は、画面共有がされる可能性があったり、身振り手振りが必要な説明を受ける場合には、通常、視覚障害のないアシスタントや弁護士の同僚に助けを求めております。   以上を踏まえ、今後、刑事手続で情報通信技術を導入する場合には、次のようなことに御配慮いただきたいと思います。   まず、スクリーンリーダーが多種多様にありますが、個々の視覚障害者にとって利用可能なスクリーンリーダーや画面拡大ソフトなどを端末に搭載した形で常に利用できる環境が用意されていること、画面の大きさや画面との距離を視覚障害者の個々の視力などに合わせて自由に調整することができること、また、習熟していないユーザーであってもスクリーンリーダーを用いて十分に操作することができるアプリケーションが設定されていること、いつでも視覚障害のない補助者の立会いや補助を求めることができること、最後に、画面共有をしない、身振り手振りなどをしない、又は「あれ」・「これ」・「それ」などの指示語を使った説明をしない、といった導入面・運用面でのルール作りを行っていただくことが極めて重要であると考えております。 ○田中氏 続きまして、弱視の立場から、幡野さん、御発言をお願いいたします。 ○幡野氏 弁護士の幡野博基と申します。弱視者の立場から発言をしたいと思います。よろしくお願いいたします。   私は中学生のときから弱視の視覚障害を患いまして、現在では両目とも矯正視力が0.03程度で、視野の中心が少々欠けておりまして、暗いところになると見えにくくなるという目をしております。文字を明るく大きくすれば読めるようになるので、点字や読み上げソフトは使用しませんが、現在も使っております携帯型の拡大読書機ですね、映っていますかね、私の距離だと今、うまく映せているか分からないのですが、こちらの携帯型拡大読書機を使用しながら文字を読んでおります。パソコンを使うときには、文字やマウスポインターを大きくして使用しています。また、ユニバーサルデザインフォントと呼ばれる読みやすいフォントがありますので、そちらのフォントを使用して文書を作成したり文字を読んだりすることもあります。   私はそのようなタイプの弱視者ですが、弱視者一般について申し上げますと、見え方は千差万別ですので、必要になってくる配慮は人により異なってきます。   例えば、大きい文字であれば読める方、小さい文字の方が読みやすいという方、明るいところが苦手な方、暗いところが苦手という方、視野の真ん中が見えない方、視野の真ん中しか見えない方、あとは色の判別に困難がある方など、様々な人がいます。   IT化に当たっては、読み上げソフトを使用しない弱視者に対しても配慮が必要です。例えば、文字の大きさ・色・フォント・コントラストを変更できる仕様にして、どんなタイプの弱視者にとってもアクセシビリティが確保された状態にする必要があります。   また、弱視者は移動にも支障があります。例えば、私の場合、バスの表示が見えにくいので、バスの利用には苦手意識があります。また、案内板等も見えにくいので、裁判所の書記官室や法廷まで行くのにも苦労することがあります。   改正検討事項のうち、例えばオンラインの記録の閲覧・謄写を認めることで、テキストデータや文字データが埋め込まれたPDFデータが開示されれば、弱視者が見やすいフォントや色に変えて読むことができますし、移動の負担も減らすことができるので、そういった困難が解消されると思います。   もっとも、現状検討されている制度では、オンラインによる証拠開示をするかどうかは検察官の裁量とされていて、裁判所の記録の閲覧・謄写については裁判長の許可が必要な制度となっています。仮にオンラインによる閲覧・謄写が認められなければ、視覚障害者が抱える困難が解消されませんので、オンラインによる閲覧・謄写を認めるのを原則として、裁判長の許可は不要とすべきだと考えます。   また、視覚障害者にとって、令状の呈示に関して言えば、令状を呈示されても、適式に発付された令状なのか確認ができません。そのため、令状呈示の際には、呈示される電子計算機には、画面読み上げソフトや画面拡大ソフトなど弱視者を含む視覚障害者に対する配慮ができるソフトが入っていることを標準とすべきです。また、「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関する意見書」「第3」記載のとおり、精神障害や知的障害等があって、令状の内容の認識に支援や時間が必要な方の権利保障のために、令状の交付を求められた際にはオンラインあるいは紙面で令状が交付される仕組みとすべきです。   公判廷における証拠調べの方法に関する意見は、同意見書「第4」記載のとおりですが、弱視者の立場から事例を補足させていただきます。   私が主任の国選弁護人を担当した件で、捜査段階で裁判員裁判対象事件だったもので、弁護人が複数選任されていたところ、起訴されて罪名落ちして裁判員裁判非対象事件になったというものがありました。その件で、防犯カメラ画像が重要な証拠となることが予想されたことから、私の障害者手帳も添付資料として、手続上の配慮として弁護人の複数選任を維持するような上申を出したのですが、認められず、私ともう一人いた方の弁護人が解任されたという件がありました。国選弁護人は一人対応が求められることが多いと思いますが、手続上の配慮の観点あるいは被告人の防御の観点から、複数選任の運用を柔軟にしてほしいということも強く申し上げたいと思います。 ○田中氏 続きまして、障害のある方の刑事弁護を数多く担当されている辻川さんから御発言をお願いいたします。 ○辻川氏 弁護士の辻川です。本日は、障害のある人を数多く弁護した弁護人としての立場から、意思疎通支援が必要な被疑者・被告人に対する捜査公判等の手続をビデオリンク等により行うことについて、意見を述べさせていただきます。お手元の「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関する意見書」では「第6」になります。   障害のある人が障害のない人と同じように司法手続を利用するためには、情報保障が不可欠です。視覚や聴覚に障害がある方の場合は比較的分かりやすいと思います。しかし、知的障害や発達障害、精神障害のある人も皆、その程度は個人によって差はありますが、意思疎通に何らかの困難を有しております。刑事手続において自己を防衛するためには、的確な情報を得られなければなりません。そのために、個々の障害特性に応じた情報保障は必要不可欠です。そして、意思疎通に障害のある人にとっての情報保障は意思疎通支援です。   例を挙げますと、発達障害のうち自閉スペクトラム症の人は、一見するとコミュニケーションに問題がないように見えても、総じて意思疎通をとることに困難を有しております。聴覚情報よりも視覚情報の方がシンプルに情報が得やすいという視覚優位の人が多いので、このような絵カードですとか<議場内に示す。>、こういったコミュニケーション支援ボードなどの<議場内に示す。>視覚支援による情報保障が有効とされています。   しかし、こういったコミュニケーション支援ボードですと、情報が多すぎてどこを見たらいいのか分からないというような人もいます。最近は、こういった絵カードをアプリに取り込んで、それぞれの人の特性に応じてカスタマイズできるものが出てきております。   また、文字情報でも情報が得られるという人には、先ほど聴覚障害の方からも紹介があったUDトークが有効になります。詳細は「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関する意見書」別紙2の事例報告を後で御覧いただけたらと思います。   また、自閉スペクトラム症の人はシングルフォーカスという特性があります。そのために、ビデオリンクの場合に、例えば画面上のロゴマークに意識が集中すると、もうそれが気になって実際の質問事項に意識を集中することができなくなる、そういうおそれがあります。画面上に複数の画面が表示されると、どれを見てよいのか分からなくなって混乱してしまうということもあります。   想像力の障害があるために、ウェブ上では現実と虚構の区別が付きづらくなるという可能性も考えられます。そのため、このような特性のある被疑者・被告人の場合は、原則としてビデオリンク等を用いるのではなく対面の方法によるべきだと考えます。   なお、情報通信技術の進化によって意思疎通支援が進むことは歓迎すべきであると思いますので、積極的に刑事手続においても取り入れるべきだと考えております。   しかし、そのためには、支援ツールを使いこなせる意思疎通支援者が必須となります。支援は、その実施も含めて、選択可能なものであるべきです。一律に特定の支援を強制されるべきではありません。   また、裁判所の手続への出席・出頭の権利が情報通信技術の進化によって侵害されることがあってはなりません。IT化の議論に当たっては、利便性の余り障害のある人の適正手続の保障や裁判を受ける権利を害することのないよう、慎重に判断していただきますようお願いいたします。 ○田中氏 最後に、障害当事者の立場から、桐原さん、御発言をお願い申し上げます。 ○桐原氏 日本障害フォーラムオブザーバーで全国「精神病」者集団の桐原です。精神障害の当事者です。   精神障害は依存症、統合失調症、双極性障害、認知症、摂食障害、発達障害など多岐にわたります。そのためニーズの一般化は困難です。むしろニーズを一般化できないからこそ、個別性に応じた配慮が必要となります。   精神障害者には、症状などの影響で自分の意見を適切に伝えられないといったことがあります。私の場合も、焦ったり疲れたりすると思考がまとまらなくなって、必要なことを言えなくなったり、言わなくていい余計なことを言ってしまったりします。自分では全くコントロールできないです。そのため、このような症状があると刑事司法において適切に防御権を行使しにくい状況に置かれることになります。   その場合、刑事司法における合理的配慮として、選任弁護士や弁護人とは別に、意思疎通に関わる支援者や、意思決定支援等の支援者というものが必要になります。支援者は捜査段階から公判段階まで随時必要となります。例えば、公判への出廷をビデオリンクで行う場合も、そのビデオに映っている本人側に必要となります。   精神障害の場合、刑事司法における被疑者・被告人に対する憲法が保障する人権について、より配慮が必要なものであるということについて留意してほしいです。この部会においても、公判における被告人の出廷方法でビデオリンクを入れるべきかどうかということについて是非をめぐる議論がありましたが、ニーズの一般化が困難なので、公判において、例えば被告人が裁判所に出廷するのか、ビデオリンクで出廷するのかということを選べるようにすること、それ自体を合理的配慮として認めていくといったことが必要になります。   先ほどからほかの参考人も繰り返し述べられてきた障害者の権利に関する条約ですが、他の者との平等や包摂といった社会モデルの考え方を基本理念としています。   刑事司法が想定する人間像は、理性的な人間です。しかし、実際の人間というのは私たちのような精神障害者のように非理性・狂気というものが存在します。非理性の状態でなされた行為というのは刑事責任能力という、責任という観点から刑罰が免責化され、ダイバージョンという他の者と異なる特別な枠組みで、多くは医療施設で対応されることになります。   同条約の趣旨は、刑事法制の枠組みに非理性である我々のような障害者を包摂し、障害を理由に分離する枠組みをなくしていくことです。同条約の趣旨が完全に履行されるまでの間は、刑事司法に内在するバリア、これを乗り越えていくための意思疎通や意思決定の支援が不可欠となります。   最後になりますが、障害者の権利に関する条約第4条には、締約国は、この条約を実施するための法令及び政策の作成及び実施において、並びに障害者に関する問題についての他の意思決定過程において、障害者を代表する団体を通じ、障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させると規定されています。法務省及び法制審議会、部会は、引き続き定期的に精神障害者を含む様々な障害者の声を聴く必要があると考えています。 ○田中氏 本日、私たちからの御説明は以上となります。御清聴ありがとうございました。   なお、時間の関係で、私たちが今回提出いたしました「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関する意見書」及びその別紙、「障害のある人の刑事手続きにおける情報通信技術に関するヒアリング提出資料」等には、是非一度、お目通しいただきたいと思います。また、日本視覚障害者団体連合からの意見書、それから全国「精神病」者集団からも意見書が提出されておりますので、是非会議後にお目通しいただきたいと思います。   それでは、以上となります。マイクを司会の方へお返しいたします。本日はどうもありがとうございました。 ○鷦鷯幹事 本日は貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。また、進行にも御協力いただき、大変ありがとうございます。非常に多種多様な情報を頂きまして、本日皆様から伺った御意見は、今後の部会の会議において、事務当局から、本日御出席できなかった委員・幹事の皆様にも御報告をさせていただきたいと思っております。   なお、十分な質疑応答等の時間を取ることができませんでしたので、委員・幹事の皆様から御質問がありましたら、事務当局で受付をさせていただきます。それについて、追って適宜の方法で皆様にお伺いすることもあると思いますので、その点はお含みおきいただければと思います。   それでは、以上で本日のヒアリングを終了させていただきます。お集まりいただいた皆様、本日は本当にありがとうございました。 -了-