法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第12回会議 議事録 第1 日 時  令和5年9月15日(金)  自 午後1時30分                       至 午後3時55分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について 2 その他  第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第12回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日も御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。   本日は安田委員、樋口幹事はオンライン形式により出席されています。 なお、向井委員は本日、所用のため御欠席と伺っています。   続いて、事務当局から、本日の配布資料について御説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、配布資料16として「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「二」関係)」をお配りしています。配布資料の内容については後ほど御説明します。また、参考資料として、配布資料15「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「一」関係)」をお配りしています。 ○酒巻部会長 それでは、本日の審議に入ります。   前回の会議においては、配布資料15「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「一」関係)」のうち、「第1-3 電磁的記録を提供させる強制処分の創設」の検討課題の「(2)罰則」まで議論を行いましたので、本日は、引き続き、検討課題の「(3)」以降について、順次議論を行います。そして、諮問事項「一」に関する議論を終えた後は、本日配布した配布資料16に沿って、諮問事項「二」に関する議論を行います。   審議に入るに当たり、前回の会議までの御議論の状況を踏まえ、重ねて皆様に御留意いただきたい点があります。前回の会議でも申し上げたとおり、「取りまとめに向けたたたき台」に基づいて現在議論している各項目については、既にこれまでにも相当具体的な議論を複数回重ねており、取りまとめに向けて残された論点に議論を集中させ、収れんさせていく段階にあります。   そこで、十分な議論を尽くした上で、できる限り速やかに当部会としての結論を得る観点からも、本日の御議論は、計画的に、項目毎に議論に充てる時間の目安を設けて進め、できる限り、本日の審議で、諮問事項「二」に関する議論まで一通り行うこととしたいと考えます。   そのためにも、皆様には、引き続き、できる限り多くの方から御意見を伺い、議論を充実したものとするとともに、効率的に審議を進める観点から、不必要な重複は避けるなど、なお一層の御協力をお願いできればと思います。   それでは、まず配布資料15の「第1-3 電磁的記録を提供させる強制処分の創設」の検討課題の「(3)その他」についての御意見を伺います。   この検討課題では、配布資料15の「第1-3」に記載されている事項のうち、検討課題の「(1)」と「(2)」に掲げられていない事柄に関し、事務当局に対する御質問や御意見等を伺います。   このテーマについての議論は、15分程度を目安として行います。   御質問、御意見のある方は、挙手をした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 「取りまとめに向けたたたき台」では、電磁的記録提供命令の対象を証拠電磁的記録に限っています。その理由については、第10回会議で、事務当局から、刑法の没収対象が有体物であることと、実務上の影響もないと想定されるということから、没収すべき電磁的記録を表記していないという説明がありました。確かに、たたき台の案でも実務的な影響は恐らくなく、このままでもよいように思われるのですが、現行刑事訴訟法の規定との整合性という視点で見てみますと、まず、刑事訴訟法第99条第1項は、差押えの対象を証拠物又は没収すべき物と思料するものとしています。ですから、これと合わせるのであれば、対象が電磁的記録の場合は、証拠電磁的記録と並べて、没収すべき電磁的記録と書くこともあり得るのではないかと思います。   他方、刑事訴訟法第99条の2では、記録命令付差押えについて、必要な電磁的記録を記録媒体に記録させることを命ずることができるとして、その対象を証拠となる電磁的記録に限っていません。ですので、これと合わせるのであれば、電磁的記録提供命令の対象についても、例えば、必要な電磁的記録と書けばよいという考え方もあり得るようには思われるところでありまして、実務上の不都合は想定しにくいですけれども、既存の強制処分の対象についての規定との整合性という視点も入れて検討する必要があるように思われます。 ○酒巻部会長 ほかに御意見等はありますか。 ○成瀬幹事 第3回会議において、久保委員から、電磁的記録提供命令が被処分者に電子データの提供を強制する処分であるとすれば、刑事訴訟法第103条から第105条まで、第110条、第119条及び第120条等の押収に関する規定が適用されるべきであるという御意見が示されていましたので、この点について、私の考えを申し上げます。   久保委員が挙げてくださった条文のうち、刑事訴訟法第103条から第105条までについては、「取りまとめに向けたたたき台」の「3 命令拒絶事由」に、これらの規定と「同様の規律を設けるものとすること」が記載されています。   次に、刑事訴訟法第110条の令状の呈示に対応する規定の要否については、裁判所による電磁的記録提供命令と、捜査機関が裁判官の発する令状により行う電磁的記録提供命令に分けて考える必要があります。このうち、前者については、刑事訴訟規則第34条により、電磁的記録提供命令を送達して被処分者に告知することになるため、特別の手当てを要しないようにも思われますが、後者については、捜査機関が裁判官の発した令状を被処分者に示す手続に関する規定を設ける必要があると思います。   それから、刑事訴訟法第120条の押収目録の交付に相当する規律も、電磁的記録提供命令について設けることが考えられます。同条は、押収をした場合には、その目録を作り、所有者等に交付しなければならないと規定しており、一般的に、この目録を交付すべき相手方は被処分者であると解されています。この目録の意義は、いかなる機関が、どの事件について、誰が所有・管理する物を押収したかが、被処分者において明らかになり、また、それを通じて、押収された物が差押状に明記された差し押さえるべき物に当たるかどうかを了知し、還付や仮還付を請求したり、抗告・準抗告により処分の取消しを求めたりすることができるようになることにあります。   捜査機関等が差し押さえるべき物を探し出してその占有を取得する捜索・押収の場合と異なり、電磁的記録の提供を命ずる場合には、命令を受けた被処分者自身が対象となる電磁的記録を自ら抽出して提供することから、いかなる機関に対し、どの事件について、どのような電磁的記録を提供したかは、被処分者にとって明らかであるようにも思われます。   しかし、提供を受けた捜査機関等において、受領した電磁的記録について刑事訴訟法第120条と同様の目録を作成し、被処分者に交付することとすれば、「取りまとめに向けたたたき台」の「4」に記載された原状回復措置を講じる場面や、「5」の不服申立てをする場面などにおいて、被処分者と捜査機関等の間で無用の紛争が生じることを防止し、これらの手続が円滑に行われることに資すると思われます。   よって、電磁的記録提供命令についても、刑事訴訟法第120条と同様の規律を設けることが考えられます。   以上に対して、電磁的記録提供命令について、刑事訴訟法第119条の証明書の交付と同様の規定を設ける必要はないと思います。なぜなら、同条は、捜索をした場合において、証拠物等がないときは、その旨の証明書を交付しなければならないと規定するところ、電磁的記録提供命令については、被処分者において、対象となる電磁的記録の有無を確認し、それが存在する場合には抽出して提供するという過程を経ることとなり、その過程には、命令をする側の者は関与しないため、捜査機関等は、対象となる電磁的記録がなかったことを証明することができる立場にないからです。 ○久保委員 電磁的記録提供命令につきまして、たたき台に記載がないものの検討すべき課題として、4点申し上げたいと思います。   1点目に、情報の主体の保護の問題です。現在では企業が保有するコンピュータに大量のパーソナルデータが蓄積されています。例えば、交通系ICを使用した移動履歴ですとか、ネットショッピングでの購買履歴、SNSなどへの投稿、インターネットの閲覧履歴などです。これらのパーソナルデータに対して捜査が行われた場合に、データの帰属主体である本人が認識していない間にデータが入手され、本人が関与する機会も与えられないということも起こり得ます。   この点、EUでは法執行機関によって収集される個人データについて、利用目的の明確な特定や、目的との関係で適切な範囲で利用すること、必要な期間を超えて保持しないことなどを義務付ける制度の整備を構成国に求めています。本人に対する情報提供や苦情申立て、情報にアクセスする方法などについても確保が必要であり、データ処理の実施に関する記録の作成も求められています。この分野のデータ処理に関する監督機関の設置と適切な権限の付与も求められているところです。国内法にあっても、通信傍受法ではデータ主体に対する保護の制度なども求められているものであり、こうした観点で、情報主体の保護について電磁的記録提供命令についても検討がなされるべきだと考えます。   2点目に、越境の問題です。GDPRの越境移転規制は、企業の所在地にかかわらず、EUに所在する個人の個人データを収集、利用する企業、組織が対象とされています。日本やアメリカに所在する企業も適用対象になります。手続の公正性を担保するための措置は、こうした国際動向を踏まえて検討されなければなりません。実際、アメリカではクラウド領域のデータ移転を可能とするCLOUD Actが制定されましたが、EUでは早々に、CLOUD Actが定める手続がGDPRにかなっていないとして、EUとアメリカの間のプライバシーシールドの停止が勧告されたということもありました。クラウド領域にあるデータの提出を命じる場合には、そのデータが国外に設置されているサーバに保存されている可能性もあります。提出命令の対象がクラウド事業者であるという場合には、当該クラウド事業者がクラウドサーバ内にデータを保有しているとしても、これを日本の捜査機関に越境移転することに応じないという判断をする可能性もあります。そうした事態を回避するために、日本国内の自然人を命令の名宛人として、その者を処罰対象とするというのは乱暴であり、外国事業者との間に摩擦を生じ、国際的に非難を受けることにもなりかねません。   3点目に、取得時のデータの特定です。前回までの議論で、飽くまでも特定のデータを取得するということを前提としていること、それ以外に事実上のデータ収集を認めるものではないということ自体は理解いたしました。それに関連して、被疑事実との関連性やデータの種類、例えばメッセージですとか取引履歴などをできるだけ特定し、押収の範囲を当初から限定するような令状の記載事項とするべきであり、この点は規則事項になるかもしれませんが、ビッグデータ時代における情報特有の特性を踏まえた規則となることが必要だと考えます。   それに加えて、制度として更に取得時に必要以上にデータを広範に収集しないための方策はあるはずだと考えます。例えば、アメリカ連邦刑事訴訟規則第41条は、捜査機関が令状によって電子データを取得する手続を定めています。まず、捜査機関が令状に基づいてサービスプロバイダからデータの提供を受けたり、ハードディスクを押収してデータを取得したりした後に、その中から令状の対象となるデータを期限付で選別するというものです。また、アメリカのフィルタリングエージェントのように、データの選別に関する制度を設けることで、過剰なプライバシー制約を回避することもできると思います。   4点目に、取得したデータの取扱いに関して十分なルールが必要だということについて申し上げます。情報を取得した上で、本来の取得目的と異なる目的で利用されることには問題があります。捜査機関が被疑者不詳のまま電磁的記録提供命令によるパーソナルデータを幅広く収集した後、これが他の犯罪捜査に流用されないことを担保する制度はありません。この電磁的記録提供命令は、運用次第で不当な別件捜索が容易に行われる制度になり得るということになります。   また、捜査機関の取得するデータ証拠全般について、データの開示、訂正、利用停止を求める手続がありません。利用させない理由がなくなったときに複写や交付という手段はありますが、事件が終結した場合も含めて、必要がなくなったときの削除の手段がありません。取得したデータの保管期限や使用自体を規制するルールもありません。データの抹消を請求する方法もありません。電磁的記録の取得に際して、そのデータが膨大であり、取得時に厳密な選別ができないことを理由として、結果的にある程度広めに取得することがやむを得ない場面が存在するとしても、取得後に被疑事実との関連性がないことが判明したデータは速やかに抹消させる枠組みが必要です。そこで、被疑事実との関連性に疑問がある場合には、準抗告により、捜査機関が関連性があることを示すことができないデータを消去、利用停止させる手続を保障することが重要です。   名古屋地方裁判所の令和4年1月18日判決は、原告の指紋、DNA型及び顔写真の各データの抹消を求めた事例ですが、その中でもデータベースの目的外利用につき問題点が指摘されていました。捜査機関が必要のないデータを長期にわたって保有し、これを使用できるものとすることは、パーソナルデータをみだりに使用されないという公益保護の観点から見て、脆弱な制度と言わざるを得ません。 ○酒巻部会長 事務当局から今の久保委員の御提案や御意見について、何か発言はありますか。 ○鷦鷯幹事 久保委員から御発言のあった点のうち、情報の主体の保護と捜査機関が情報を取得した後の管理、特に、必要がなくなったときの削除については、これまでにも久保委員からそうした事項についての規律が必要ではないかとの御指摘をいただいており、その一方でこのたたき台では、そうした規律は理由があって設けていないところでもありますので、御説明します。   これまでにも御意見、御指摘のあったところですが、捜査の過程で収集・取得した情報を、捜査の必要がなくなったときに消去する旨の規律は、現行の刑事訴訟法には特に設けられておりません。   それから、データの主体に対する通知というお話もありましたが、例えば、事業者が保管する顧客の物や顧客から送付されたデータが強制処分によって捜査機関によって取得されるという状況は、差押え等によって現行法の下でも生じますが、現行刑事訴訟法は、そのような場合に、被処分者ではない顧客に対して何かを通知しなければならない旨の規律を特に設けていません。   こうした現行法の規定との整合性の観点から、たたき台には、御指摘のような規定はいずれも置いていません。 ○酒巻部会長 ほかに御意見はありますか。 ○佐久間委員 部会の第10回会議において、久保委員から、被疑者・被告人と弁護人との間のやり取りに関する情報が誤って押収された場合には、情報として使用できなくする秘匿特権の制度を導入すべきであるとの意見が示されましたが、現行の刑事訴訟法においても、弁護士などについては、依頼者の秘密を委託されるという社会生活上不可欠な職業に対する社会的な信頼の保護を図るため、押収拒絶権や証言拒絶権が認められており、十分な配慮がされているところです。そして、「取りまとめに向けたたたき台」の「3」においては、電磁的記録を提供させる強制処分について、現行の刑事訴訟法第103条から第105条までと同様の規律を設けることとされています。御意見の趣旨が、これに加えて、弁護士だけではなく、依頼者である被疑者などが押収対象物を保管する場合でも押収等を拒絶できるものとすべきというものであるとすると、そのような制度を導入することには様々な問題点があり、極めて慎重な検討が必要であると思います。   すなわち、まず1点目として、そのような押収拒絶ができるものとすれば、捜査機関が収集することのできる証拠や裁判所が事実の認定に用いることのできる証拠の範囲が大きく制約され、適正な事実認定に支障を生じることになること、2点目として、被疑者などが、弁護士との間のやり取りに関するものである旨を申し立てた場合に、直ちに、捜査機関が当該証拠物を押収することができない、あるいは、押収済みの証拠物を見ることができなくなると、捜査が遅延することになり、取り分け厳格な時間制限のあるいわゆる身柄事件では、その支障が顕著であること、3点目として、刑事事件の被疑者には、暴力団等の反社会的勢力に属する被疑者がいる場合もありますが、そのような者も秘匿特権を行使できることとなるため、捜査の妨害や遅延等を目的とした濫用的な権利行使が懸念されることが挙げられます。   このことは、電磁的記録提供命令に対して秘匿特権を主張することができる制度とした場合にも同様に妥当するものですので、その対象を電磁的記録提供命令に限ったとしても、そのような制度を設けることについては極めて慎重であるべきと考えています。 ○酒巻部会長 ほかに検討課題の「(3)」について御意見等はありますか。 ○久保委員 秘匿特権の点についてだけ簡単に意見を申し上げます。佐久間委員から指摘のあった御意見について、伺いながら簡単に調べてみたところ、今の御発言につきましては、これまで国会においても同様の議論が行われておりまして、過去の議会におきましては川原隆司参考人の答弁というものがございましたので、法務当局の御見解を述べられているものと認識いたしました。ただ、その当時の国会のやり取りを拝見しますと、川原参考人の答弁に対し、国会議員の方からはなお、司法取引の導入に当たり秘匿特権の導入を検討すべきではないかとの指摘もなされています。国会のやり取りを拝見しても、今御指摘のあったような点を踏まえてもなお、国会議員の方から秘匿特権の重要性について指摘されているところであり、国際社会に対応していく上でも秘匿特権については議論が必要だと考えます。   証拠の制約という点について指摘がございましたが、過去の事案で、依頼人の秘匿特権の対象となるような文書が決定的な証拠となって、その文書がなければ公訴事実を立証できなかったという事案があったのかどうかということは判然としません。また、そもそも防御といいますのは国家機関による活動への対抗措置というものでもありますので、防御権を強化するということについては、その反面で捜査活動の制約が当然に想定されるものであり、それ自体を秘匿特権を導入しない理由とするべきではありません。犯罪を証明する証拠が制限されるということを理由としますと、あらゆる違法捜査が助長されることにもなりかねませんので、そういった観点ではなく、むしろ刑事訴訟法は、国家機関による侵害行為に対し適切な手続をも含めた人権保障の観点からバランスをとるべきものだと考えます。   また、先ほど反社会的勢力の濫用というようなお話もありましたが、これにつきましても、そもそも反社会的勢力の定義自体が曖昧である上、中には新しい事業をしようとしたときに、それがグレーなのかどうなのかを相談するといった場面もあり、そうした証拠につきましては、後で認識があったのではないかといった形で使われることも想定されます。前提となる反社会的勢力がどのようなものかということ自体が一義的に明確でない以上、それ自体も理由とするべきではないと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに検討課題の「(3)その他」について、御意見等はありますか。   それでは、これで「第1-3 電磁的記録を提供させる強制処分の創設」についての議論はひとまず終えます。   次に、「第1-4 電子的方法による証拠開示等」について議論を行います。このテーマについての議論は30分程度を目安として行います。   議論に先立ちまして、配布資料15の「第1-4」に記載された内容について事務当局から説明してもらいます。 ○鷦鷯幹事 配布資料15の13ページから15ページまでを御覧ください。   「第1-4 電子的方法による証拠開示等」の枠内の「1」には、証拠となる電磁的記録の閲覧等の機会の付与に関する規律を記載しており、そのうち「(1)」には、刑事訴訟法第299条第1項の証拠書類又は証拠物が電磁的記録をもって作成されたものであるとき等における同項の規定による閲覧する機会の付与についての規律を、「(2)」には、同法第316条の14第1項の証拠書類・証拠物、供述録取書等が電磁的記録をもって作成されたものであるとき等の開示等についての規律を、「(3)」には、同法第316条の15第1項又は第316条の20第1項による開示をすべき類型証拠や主張関連証拠が電磁的記録をもって作成されたものであるとき等の開示についての規律を、「(4)」には、同法第316条の18の証拠書類・証拠物、供述録取書等が電磁的記録をもって作成されたものであるとき等の開示等についての規律を、それぞれ記載しています。   「2」には、証拠の一覧表に記載すべき事項の電子的方法による提供に関する規律を記載しています。   この「第1-4」には、特に議論すべき検討課題を記載しておりませんが、枠内の記載の当否、要否も含め、御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 御説明のとおりで、このテーマについての検討課題の具体的記載はありませんので、枠内に記載されている内容について、順不同で、事務当局に対する御質問や、御意見等をお願いします。   御質問、御意見のある方は挙手などした上、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○久保委員 事務当局への質問を4点、させていただければと思います。   1点目に、実際の運用としては、被告人本人への開示はともかくとして、少なくとも弁護人に対しては、原則としてオンライン謄写の方法で開示されることになるものと理解をしています。ただ、その旨が明記されず、謄写の機会の付与の方法が検察官の自由裁量によるかのような立て付けになっている趣旨について、御説明いただければと思います。   2点目に、全ての事件について弁護人に謄写の権利を認めるべきという意見を反映していない理由についても、教えていただければと思います。   3点目に、「証拠書類又は証拠物が電磁的記録をもって作成されたものであるとき」とありますが、証拠物が電磁的記録をもって作成されたものというのは、例えばハードディスクドライブや携帯電話端末など電磁的記録が蔵置された端末を指しているという理解でよろしいのでしょうか、この点についても教えていただければと思います。   4点目に、被告人自身による検察官の手持ち証拠の閲覧・謄写についてはどのような位置付けになっているのかを教えていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 4点御質問いただきましたので、順にお答えします。   まず第1点目、オンラインでの証拠開示を原則的なものとすることを明記すべきではないかという点について、それは、趣旨としては、オンラインによる開示を権利化する規定を置くというものかと思われます。証拠の開示をオンラインによりすることができるものとすることは、開示を受ける側及び開示する側の双方において、開示の手続に伴う事務を効率化し、証拠の開示の手続の迅速化をするという利点があることは、全く否定するものではありません。他方で、これまでに、検討会においても、またこの部会においても指摘されてきましたように、電子データを電子データのまま閲覧・謄写する機会を与えることについては、紙媒体の証拠について紙媒体のまま閲覧・謄写の機会を与える場合とは異なる情報流出のリスクがあり、また、電子データは複製が容易であることなどから、一旦流出した場合にはインターネットなどを通じて際限なく拡散され、回収困難になるおそれがあります。また、開示される証拠の種類も様々、内容も様々ですので、中には性犯罪の被害状況を撮影した動画データのように、流出すれば関係者の名誉・プライバシーに甚大な影響を及ぼすものもあります。そのため、オンラインによる証拠開示の適否などについては、これを原則とするなどの一律の取扱いを定めるのではなく、その証拠の内容や性質、それが流出した場合に捜査・公判に与える影響の大きさなどを考慮して個別に判断する必要があるのではないかと考えております。   その上で、そのような判断を最も適切にすることができるのは、当該証拠についてそれらの考慮すべき点を正確に把握している請求者であり、検察官請求証拠であれば検察官ですので、検察官請求証拠についてオンラインによる証拠の閲覧・謄写を認めるかどうかについては、検察官が判断を行うべきと考えています。そのような考え方から、御指摘のような規律とすること、すなわち、オンラインによる閲覧・謄写を開示を受ける側の権利としたり、あるいは原則化するといったことは、適切ではないと考え、このようにしています。   2点目、これも何度か御意見いただき、その度にお答えをしておりますが、刑事訴訟法第299条による開示も含めて、謄写を権利化するべきではないかという御意見であり、オンラインであるかどうかを問わないものとのことですので、そうであるとすると、今般の諮問の趣旨、すなわち、紙媒体の書類が用いられて対面で行われている手続において、それに代えて情報通信技術を活用できるようにするための法整備の在り方について御意見を承りたいという、今回の諮問の趣旨との関係で、御提案のような、情報通信技術の活用以前の、その制度の導入自体の当否が問題となる事柄は、この趣旨と適合しないという考え方から、たたき台に盛り込む対象とはしていません。   3点目の御指摘は、たたき台の文言について、具体的には、「証拠物が電磁的記録をもって作成されたものであるとき」という文言についてのものでしたが、これは、御指摘のとおり、証拠物であるところのものの中身が電磁的記録をもって作成されたものであるとき等を想定したものです。書きぶりの適否については、御意見を踏まえてさらに検討する余地はあろうかと思います。   最後の、被告人による閲覧・謄写についてですが、例えば刑事訴訟法第299条は、検察官から見た「相手方」として被告人と弁護人を区別しておらず、もちろん公判前整理手続ではまた別の考慮がありますが、たたき台は、飽くまでそうした刑事訴訟法における現在の建て付けを前提に、そこに電子的証拠の開示を位置付けるという趣旨で書いていますので、被告人の閲覧・謄写については、そういった範囲で含まれていると御理解いただければと思います。 ○酒巻部会長 ほかに「第1-4」について御意見等はありますか。 ○久保委員 今の回答にも関わるところですが、たたき台の中の「出力された書面」という表現について、電磁的方法は、その証拠的な価値について弁護人による正当な吟味に耐える形で開示されることが必要ですので、「出力された書面」という表現ですと、これを検討してもプロパティ情報などのメタデータは認識できないというような表現になったのではないかということを懸念しております。この案ですと、電子データの開示方法が適切なものとなる担保がないのではないかと思っておりまして、このたたき台についての意見として申し上げると、不適切、不十分な方法にとどまるのではないかということを懸念しているところです。   先ほどの回答の中で、検察官の自由な裁量ではないのかということを私が申し上げたことにつきましては、自由な裁量ではなく、飽くまでも検察官が請求証拠について適切に判断するという趣旨であるということは理解を致しました。ただ、このたたき台ですと、それ自体が明らかではありませんので、やはりそういったところにつきましても適切に、自由な裁量で行われるものではなく、紙媒体でなければならないのか、先ほど指摘のあったような性犯罪のデータのようなものだけ除外する方法でよいのではないかということが、その都度適切に判断されなければならないものであることが確認されるべきだと考えております。   また、これまで意見を申し上げる機会のなかった点として、証拠開示について期日外で障害者に対するヒアリングが行われております。この障害者のヒアリングにつきましては、証拠開示についても意見が述べられているということは、やはり無視するべきではございません。障害当事者の方につきましては、このオンラインによる謄写によって広くオンラインで文字を読みやすくなるということが強く期待されているところでもありますので、そういった意見も踏まえた法制化、そして運用がなされるべきであるということを強く期待したいと思います。   また、この点に関連して、日本弁護士連合会から2023年7月13日付の意見書が発出されております。IT化を求める意見書の中で、弁護士会あるいは各弁護士がどのような状況に置かれているのかということが詳しく記載されておりますので、是非一読いただいて、知っていただきたいと思います。 ○酒巻部会長 ほかに、証拠開示についての御意見はありますか。   これで配布資料15「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「一」関係)」の「第1-1」から「第1-4」までの各テーマについての議論を終えたことになりますが、更に諮問事項「一」全体について、配布資料15の枠内や検討課題に明記されていない点に関するものを含め、ほかに御意見等はありますか。   それでは、諮問事項「一」に関する「取りまとめに向けたたたき台」に基づく審議は、ひとまずこの程度とさせていただき、先に進みます。   次に、諮問事項「二」についての議論に入ります。   進め方について、配布資料16「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「二」関係)」では、「検討のためのたたき台」では取り上げられていた項目の一部、具体的には、「被疑者・被告人との接見交通」と「公判審理の傍聴」については記載がないのですが、これは、それらの項目について議論することを制約する趣旨のものでは全くありません。   そこで、まず配布資料全体について記載された「第2-1」から「第2-3」までについて順に議論し、このたたき台に記載のない先ほどの2点、接見交通と審理の傍聴の点も含めて、諮問事項「二」全体について十分に御議論いただく時間を別途設けたいと思っております。その点も含めて、諮問事項「二」に関して、この各項目に充てる議論の目安といたしましては、まず、「第2-1」については20分程度、「第2-2」については35分程度、「第2-3」についても35分程度で、それら以外の諮問事項「二」に関するものについての議論は、合わせて45分程度といたします。   繰り返しとなりますが、効率的で充実した審議の進行に御協力をお願いします。   それでは、まず「第2-1 留置施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の創設」について議論を20分程度を目安として行います。議論に先立ち、「第2-1」に記載された内容について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料16の1ページを御覧ください。   「第2-1 留置施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の創設」の枠内の「1」には、裁判所と留置施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問の手続に関する規律を、「2」には、検察庁と留置施設等との間における映像と音声の送受信による弁解録取の手続に関する規律を、それぞれ記載しています。   この「第2-1」には特に議論すべき検討課題を記載しておりませんが、枠内の記載の当否、要否を含め、御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 ただ今の説明について、御質問はありますか。   それでは、ただ今の説明にありましたとおり、このテーマには、検討課題の記載はありませんが、たたき台の枠内に記載されている内容について、順不同で事務当局に対する御質問や、御意見をお願いします。   挙手などした上で、どの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○池田委員 たたき台の項目「1」に関連して意見を申し上げます。   この「1」は、逮捕後に勾留を請求された被疑者に対し、刑事訴訟法第207条第1項の裁判官が行う勾留質問について記載されたものですけれども、その要件として記載されている、「裁判所に引致してこれを行うことが困難となる事情」は、逮捕された被疑者であって勾留されていない者について公訴の提起があった場合、すなわち第280条第2項のいわゆる「逮捕中求令状起訴」と呼ばれる場面の勾留質問においても生じ得ると考えられます。そして、第207条第1項の場合の勾留質問と第280条第2項の場合の勾留質問とでは、勾留質問を受ける者が被疑者か被告人かに違いがあるにとどまりまして、それはビデオリンク方式による勾留質問を可能とする条件を検討するに当たっては有意な違いではないと考えられます。   すなわち、これまでの当部会での議論において指摘されているように、刑事訴訟法第207条第1項の場合の勾留質問については、留置がされている刑事施設から裁判所の裁判官の面前に被疑者が連れて行かれるという外形が、勾留質問が捜査機関の活動とは別個独立のものとして行われることを示すものとして機能する側面があるところ、第280条第2項の場合の勾留質問においてもその点に違いはないと考えられます。そうであるとしますと、第207条第1項の場合の勾留質問と同様に、第280条第2項の場合の勾留質問についても、被告人を刑事施設に在席させたままビデオリンク方式によりこれを実施することができるのは、その要件としては、「裁判所に引致してこれを行うことが困難となる事情があるとき」とすることが考えられます。   また、刑事訴訟法第207条第1項の場合の勾留質問を被疑者を刑事施設に在席させたままビデオリンク方式により行うときは、刑事施設から裁判所への移動を伴わず、かつ裁判官との対面が画面越しになることで、画面越しに映し出された人物が捜査機関とは別の立場の者であることが相対的に認識しにくくなることから、これを解消するため、「その冒頭において、これを刑事訴訟法第207条第1項の裁判官として同号第61条の規定により行うものである旨告げるものとする」としていることにつきましても、第280条第2項の場合の勾留質問を刑事施設から裁判所への移動を行わず、かつビデオリンク方式により行うこととした場合にも同様であると考えられることから、この点も同じものとすることが考えられます。   このほか、裁判所又は裁判官が勾留質問をする場合として、以上述べたところ以外に、刑事訴訟法第61条の規定によって行う場合がありますけれども、このとき、勾留しようとする被告人が既に別事件で勾留されて刑事施設にいる者であるという場合、いわゆる「別件勾留中求令状起訴」と呼ばれる場合には、その勾留質問に際して、被告人を収容中の刑事施設から裁判所まで引致あるいは護送をして行うということが困難となることも想定されないものではないと考えられます。そうであるとしますと、そのような場合に、被告人を当該刑事施設に在席させたまま、裁判所と当該刑事施設との間をオンラインで結んで勾留質問を行うことができるものとする仕組みを設けることについても検討する必要があるのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 勾留される場合というのは、今おっしゃったように、刑事訴訟法第207条第1項の場合以外にも幾つかありますが、事務当局から今の御意見について、何かありますか。特にないですか。裁判所は何かありますか。よろしいですか。   ほかこの項目について御意見のある方はございますか。 ○久保委員 事務当局へ質問です。見出しが「留置施設等」となっているのですけれども、本文が「刑事施設」という異なる表現になっておりまして、この「刑事施設」という表現が刑事収容施設法の「刑事施設」を指しているのかどうなのか、それによって、より限定的な範囲になるのかどうなのかということを確認させていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 たたき台の大きな見出しのところの記載というのは、飽くまで見出しと捉えていただければと思いますけれども、たたき台の枠内に書いてある文言、例えば「刑事施設」は、刑事訴訟法などの条文に出てくる言葉と同様に捉えていただければと思います。刑事収容施設法には、いわゆる留置施設についても刑事訴訟法上の刑事施設とみなす場合が規定されておりますので、そういった規定との関係も考慮しながら、実際の規定ぶりは検討することになろうかと思います。いずれにしましても、このたたき台は、特に、刑事収容施設法における、いわゆる「刑事施設」に限定するという趣旨ではありません。 ○久保委員 ありがとうございます。今の点は分かりました。   ここからは意見を申し上げたいと思います。「1」と「2」のいずれについても、これまで反対の立場で意見を申し上げてきましたが、仮に導入するとすればという観点での意見を申し上げたいと思います。   仮に導入をするとすれば、やはりリモートによる勾留質問は極めて限定的な場合に限られなければなりません。アメリカではパンデミックの後、2020年3月に速やかに法律を制定し、それに基づき裁判所が被告人のオンラインでの出頭について、厳密な要件の下で行うというような制度になっております。このような措置が認められる期間、つまり終期については、法律は様々な規定を設け、一定期間ごとに更新されるというものになっておりまして、その一つが、大統領による緊急事態の終了の宣言です。大統領は2023年4月10日に緊急事態の終了を宣言しましたので、この関係で制定されましたケアーズアクトに基づき、その30日後である5月10日にこの措置は終了しました。これまでに配布されておりました海外の情勢に関する資料につきましては、こういった終期の観点が抜けておりましたので、アメリカでは導入されているといっても、そういった終期が気にされているということについては、改めて申し上げておきたいと思います。   また、このたたき台の中では、その説明を裁判官がするというようなことになっておりますが、単純に「私は裁判官です」と発言するだけであれば、裁判官だと分からないという人もたくさんおりますので、それだけで足りるとなれば、余りに被疑者の実態と掛け離れたものになります。こういった説明をする際には、どうすれば裁判官がどういう立場にあるのかということが適切に理解されるのかという方法を、この記載ぶりだけではなく、それを超えて、適切な方法で行われるということについて検討がなされるべきだと考えております。   また、今回のたたき台におきましては、「困難となる事情」という表現になっておりまして、「著しい」などの限定がありませんので、その意図する範囲を誤解して不当に広く使われることによって、被疑者の権利利益が損なわれるようなことになっては取り返しがつきません。飽くまでも元々の議論の経過を考えますと、今回新型コロナウイルスが蔓延して、その実態も明らかでないような時期に、被疑者本人が罹患して移動のために防護服を着なければならないようなとき、そうであったとしても、今回はそれでもなお勾留質問はできていたものと承知しておりますが、そういった極限的な場面に限って、かつ困難な事情というのは、引致する職員側の事情ではなく、専ら被疑者・被告人側の体調などの事情でなければならないということは、改めて重要な点として確認をしておきたいと思います。   引き続きまして、「2」の弁解録取についてですが、これは勾留質問と比べれば、その対面の重要性が大きく異なるということ自体は否定いたしません。ただ、それでもなお、これまで申し上げてきたように、場所的な移動については軽視されるべきではないと思っております。特に、警察での取調べが録音・録画されていない場面もあるという現状に鑑みますと、身体拘束されていて録音・録画が初めて行われる検察官調べは、それ自体に固有の意味を持つ場面がございます。警察署とは異なる場面であることが明確になりづらい画面越しの弁解録取は、それ自体で導入の必要性、妥当性に疑問はあるものの、仮に導入するとすれば、被疑者の権利を守る観点で相当限定されるべきだと考えます。   その上で最も重要となるのは、やはり勾留質問です。東京以外では弁解録取と勾留質問は同じ日に実施されることが多く、検察庁がオンラインの弁解録取を行って、被疑者が刑事施設に在席させられている場合に、例えば、集団押送の車両に載せられなかったのだが、個別で裁判所に押送するための車両や人員が確保できないといった理由まで含んでよいということになりますと、検察官が弁解録取をオンラインでやったことによって、勾留質問をオンラインでやるという要件が満たされてしまうといった現象が起こりかねず、事実上、勾留質問をオンラインで実施するかどうかの判断権を検察官が持つのに等しくなってしまいます。したがいまして、弁解録取がオンラインで実施されたとしても、それを勾留質問における困難となる事情とするような運用がなされてはならないということについて、申し上げておきたいと思います。 ○酒巻部会長 今の御意見について、事務当局から応答することはありますか。 ○鷦鷯幹事 今御指摘をいただいた点に関して、たたき台に書かれている要件や手続の趣旨について、事務当局から若干説明させていただきます。まず、勾留質問について、「裁判所に引致してこれを行うことが困難となる事情があるとき」という要件は、被疑者をその留置されている刑事施設の外に出して、裁判所にいる裁判官の面前に引致して行うこと、これを原則とすることを前提に、それを行うことが困難となるような事情があるときには、原則と異なる取扱いを可能とすると、そういう趣旨で設定したものであり、そうした必要性があると認められるときに、そうした原則と異なる取扱いも許容されるものと考えられることから、そのような記載をしています。   それから、裁判官や検察官が、裁判官として行う旨であるとか検察官として行う旨であるとかを告げることとしているのは、被疑者を刑事施設に在席させたままビデオリンクの方式によって勾留質問・弁解録取を行う場面には、被疑者が刑事施設から出ることもありませんし、かつ対面が画面越しになるため、画面越しに映された人物が警察関係者とは別の立場の者であるということが認識できず、それによって陳述あるいは供述、弁解などについて影響が生じ得るという状況があるという点でも、通常の場合とは異なりますので、そうした異なる点が二重にある状況で行うものであることへの配慮という観点から、この手続の冒頭において、先ほど申し上げたようなことを告げることとしているものです。 ○酒巻部会長 ほかに、「第2-1」について御意見等はありますか。   よろしいですか。それでは、これで「第2-1 留置施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の創設」についての議論は、ひとまずここで終えることにいたします。   次は、「第2-2 映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設」について、議論を行います。   このテーマについての議論は35分程度を目安として行いたいと思います。議論に先立ち、配布資料16の「第2-2」に記載された内容について、事務当局からの説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 それでは、配布資料16の2ページから4ページまでを御覧ください。   「第2-2 映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設」の枠内の「1」には、映像と音声の送受信による公判前整理手続期日等への出席・出頭に関する規律を記載しており、そのうち「(1)」には、検察官・弁護人・裁判長ではない裁判官の出席・出頭についての規律を、「(2)」は、被告人の出頭についての規律を、それぞれ記載しています。   「2」には、映像と音声の送受信による公判期日への出席・出頭に関する規律を記載しており、そのうち「(1)」には、被告人・弁護人の出頭についての規律を、「(2)」には、被害者参加人・その委託を受けた弁護士の出席についての規律を、それぞれ記載しています。   「3」には、映像と音声の送受信による裁判員等選任手続期日への出席・出頭に関する規律を記載しています。   続いて、4ページの「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)映像と音声の送受信による公判期日への被告人の出頭」に関しては、一定の軽微事件の公判期日の一部や控訴審の公判期日等、被告人の公判期日への出頭が開廷要件とされていない場合についても、被告人が出頭するときは、枠内の「2(1)」と同様とするか、などの点が、検討課題となります。   また、「(2)被害者参加人・その委託を受けた弁護士の出席」に関しては、被害者参加人から委託を受けた弁護士は、被害者参加人が「2(2)」により映像と音声の送受信により公判期日に出席する場合以外の場合でも、映像と音声の送受信により出席をすることができるものとするか、などの点が、検討課題となります。   「(3)」は、その他です。 ○酒巻部会長 今の説明について御質問等はありますか。   よろしいですか。それでは、この「第2-2」についての議論の進行方法ですが、まずは資料の4ページに掲げられた検討課題について、順次議論をし、それ以外の検討すべき点については、検討課題の「(3)その他」において議論したいと思いますが、よろしいですか。   まず検討課題の「(1) 映像と音声の送受信による公判期日への被告人の出頭」について、御意見のある方は挙手などした上で、お願いします。 ○成瀬幹事 検討課題「(1)」のうち、まず、一定の軽微事件など第一審の公判期日において被告人の出頭が開廷要件とされていない場合に、被告人をビデオリンク方式により出頭させるための要件をどのように設定するかという点について、意見を申し上げます。   刑事訴訟法第286条は、原則として、第一審の公判期日への被告人の出頭を開廷要件としていますが、同時に、刑事訴訟法第284条、第285条は、50万円以下の罰金又は科料に当たる事件の公判期日や、長期3年以下の懲役・禁錮に当たる事件で裁判所が被告人に対し出頭しないことを許した場合には、被告人が出頭しないで開廷することができる旨を規定しています。そこで、これらの被告人の出頭が開廷要件とされていない公判期日においても、「取りまとめに向けたたたき台」の「2(1)」と同じ要件で、被告人をビデオリンク方式により公判期日に出頭させることができるものとするか、あるいは、それと異なる要件とするかが問題となります。   被告人の出頭が開廷要件とされていない公判期日においても、被告人の出頭がなければ開廷できない公判期日と同様に、被告人の有罪・無罪を決するための心証形成に向けた証人尋問などの手続が行われますので、被告人が公判廷での現実の出頭を希望する場合には、証人や訴訟関係人の表情や挙動等を直接観察したいという被告人の利益は軽視できないように思われます。   このような観点からすると、被告人が公判期日に現実に出頭することを希望する場合に、それにもかかわらずビデオリンク方式により出頭させることができるのは、「取りまとめに向けたたたき台」の「2(1)」と同じ要件を満たす例外的な場合に限るものとすることが考えられるでしょう。   他方で、被告人の出頭が開廷要件とされていない公判期日は、公判審理の適正を確保する観点からは、被告人の現実の出頭が要請されない期日であるということもできます。この点を要件に反映させるとするならば、被告人がビデオリンク方式による出頭の申出をする場合や、被告人はビデオリンク方式によることも含めて公判期日への出頭を望んでいないが、裁判所が必要と認めてビデオリンク方式により出頭させる場合については、ビデオリンク方式による出頭のための要件を緩めて、例えば、手続を主宰する裁判所が、審理の状況等を勘案し、相当と認める場合に、ビデオリンク方式により出頭させることができるものとすることも考えられるでしょう。   もっとも、公判審理の在り方として、被告人の出頭が開廷要件とされていない公判期日であっても、被告人が出頭する場合は原則として公判廷に現実の出頭をすべきであると考えるならば、今申し上げた二つの場合についても、ビデオリンク方式による出頭は、「取りまとめに向けたたたき台」の「2(1)」のように特別の必要性があるときに限るという立場も成り立つと思われます。   続いて、控訴審において被告人をビデオリンク方式により出頭させることができる要件について、意見を申し上げます。   刑事訴訟法第390条は、被告人の出頭を控訴審の公判期日の開廷要件とはしていません。その趣旨は、控訴審が事後審であり、差し出された控訴趣意書に基づく弁論を主体とすることから、被告人を常に公判期日に出頭させるだけの意義は乏しいと考えられたことによるとされています。   もっとも、事後審とはいえ、控訴審においても、刑事訴訟法第393条に基づき事実の取調べを行うことは可能であって、その一環として、証人尋問などが行われる場合があり、その結果が被告人の有罪・無罪の判断を分け得ることからすれば、先ほど申し上げた第一審の場合と同様に、被告人が公判廷に現実に出頭して証人や訴訟関係人の表情や挙動等を直接観察することを望むときは、その利益について一定の配慮をする必要があると考えられます。   他方で、公判審理の適正を確保する観点から被告人の現実の出頭が要請される場面ではないことも、先ほど申し上げた第一審の場合と同様であると思われます。   そうすると、控訴審において被告人をビデオリンク方式により出頭させることができる要件については、第一審の公判期日において被告人の出頭が開廷要件とされていない場合と同様に考えることができるでしょう。   なお、本年5月に成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律による改正後の刑事訴訟法第390条の2は、その本文において、控訴裁判所は、拘禁刑以上の刑に当たる罪で起訴されている被告人であって、保釈又は勾留の執行停止をされているものについては、判決宣告期日への出頭を命じなければならないとする一方で、ただし書において、重い疾病又は傷害その他やむを得ない事由により被告人が公判期日に出頭することが困難であると認めるときは、判決宣告期日への出頭を命じなくてもよいとしています。   刑事訴訟法第390条の2の本文は、控訴審の判決宣告期日において、拘禁刑以上の実刑判決等が宣告されたことにより保釈等が失効した場合に、間断なく勾留の裁判を執行して被告人を収容できるようにするものですから、この規定により被告人に判決宣告期日への出頭を命じる場合において、被告人をビデオリンク方式により出頭させることは、被告人に出頭を命じた意義を失わせることになり、適切でないと思われます。   他方、刑事訴訟法第390条の2のただし書に当たる場合、すなわち、やむを得ない事由により被告人が判決宣告期日に出頭することが困難であると認められるときは、実刑判決時の収容確保の観点からは被告人の現実の出頭は要請されないので、この場合に被告人をビデオリンク方式により出頭させる要件については、さきに申し上げた控訴審における通常の公判期日と同様に考えることができると思います。 ○酒巻部会長 「第2-2」の「(1)映像と音声の送受信による公判期日への被告人の出頭」に関することについて、ほかに御意見はありますか。   それでは、今度は「(2)被害者参加人・その委託を受けた弁護士の出席」についての御意見を伺います。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○池田委員 検討課題の「(2)」について意見を申し上げます。この点に関連するたたき台の「2(2)ア」は、一定の要件の下でビデオリンク方式を用いて被害者参加人を公判廷以外の場所に在席させて、その手続を行うことができることとし、被害者参加人から委託を受けた弁護士については、「2(2)ウ」において、被害者参加人が在席する場所に在席して公判期日に出席することができるものとするとしております。これは、被害者参加人が公判廷において公判期日に出席する場合に、被害者参加人から委託を受けた弁護士が法廷に来ることなくビデオリンク方式により出席することについてのニーズが強く示されたことがなかったために、出席している被害者参加人とは異なる場所に弁護士が所在することが明示的に検討の対象とならなかったことによるものと思われます。もっとも、それはこれまでの議論が、被害者参加人は期日に出席せず、被害者参加人から委託を受けた弁護士のみがビデオリンク方式により期日に出席するという場面を想定したものではなかったというだけで、そうした場面があり得ることを否定するものでもなかったと理解しております。   そこで、被害者参加人から委託を受けた弁護士のみが期日に出席する場合において、当該弁護士がビデオリンク方式により出席することの許容性について改めて検討してみますと、まず、被害者参加人から委託を受けた弁護士が手続に関与する場合というのは、被害者等が刑事手続に関する十分な知識を有しておらず、手続に関与するに当たり法的な知識を有する弁護士による援助を受けることが必要であるという場合のほか、被害者等の中には、刑事裁判に参加したいと考えているにもかかわらず、被害に遭ったショック等によりこれが困難な状況にある者もいるところ、そのような被害者等に代わり、その委託を受けた弁護士が参加する場合が考えられます。そして、後者の場合には通常、被害者参加人から委託を受けた弁護士のみが期日に出席することになると考えられますが、例えば、事件の被害者が多数であり、被害者参加人等も多数に上るため、法廷の収容能力の問題から、その全員に法廷での出席を許すことが困難であるときなどは、被害者参加人から委託を受けた弁護士もビデオリンク方式により期日に出席するニーズはあると考えられ、それを可能とすることは被害者参加制度の趣旨にもかなうものと考えられます。   また、被害者参加人御自身についてビデオリンク方式により出席させることに支障はないとする理由が、被害者参加人をビデオリンク方式により期日に出席させたとしても、被害者参加人が行い得ることとされている行為の内容からすれば、被告人の権利利益や当事者の訴訟活動等に重大な支障が及ぶことは基本的に想定されず、法廷にいる裁判官等も被害者参加人の表情や挙動等をつぶさに観察する必要性まではないということにあるとすれば、そのことは被害者参加人から委託を受けた弁護士についても同様に当てはまるものと考えられます。   以上を踏まえますと、被害者参加人から委託を受けた弁護士についても、被害者参加人がビデオリンク方式により期日に出席する場合に限らず、被害者参加人が期日に出席しない場合でも、ビデオリンク方式により期日に出席できるものとすることは、許容され得るものと考えます。 ○𠮷澤委員 今、池田委員がおっしゃった点について、実務の点からも少し付け加えさせていただきます。確かに、被害者御自身は、裁判に出席することが精神的にしんどいという事情から、出席自体は希望しないけれども、その代わり、だからこそというところもあるかもしれませんが、委託を受けた弁護士の方に自分の代わりに出席してもらいたいという希望を持つ被害者も実際に多数いらっしゃいます。   そういった弁護士のみが参加する場合、通常は法廷に出席することが多いと思うのですが、例えば、今おっしゃっていただいたような被害者多数の事案であったりとか、あとは遠方の裁判所で裁判が開かれる場合であったりとか、そういうケースにおいてはオンラインによる出席の必要性が生じるケースもあるかと思います。ですので、委託を受けた弁護士のみが出席する場合においても、その委託を受けた弁護士側からの申出によって、参加がしやすい方法として、オンラインでの出席も認められ得るようにすべきだと考えます。 ○酒巻部会長 ほかにこの検討課題「(2)被害者参加人・その委託を受けた弁護士の出席」について御意見、御指摘があればお願いします。   それでは、次は残りの検討課題「(3)その他」について、ここでは配布資料の「第2-2」に関して、このたたき台に記載されている事項全体について、事務当局に対する御質問や御意見を伺います。 ○久保委員 1点、簡単に意見を申し上げた後に、4点、事務当局への質問をさせていただきたいと思っております。   まず、1点目に意見として、たたき台に記載されている「1」から「3」までについては、これまで述べてきたとおり反対ではありますが、仮に設ける場合には、いずれについても被告人が裁判を受ける権利を一定程度後退させるものである以上は、不服申立て手段が確保されなければならず、裁判、つまり決定の形式によるべきであり、また、即時抗告の対象となるような規定を置くべきだと考えます。   その上で、ここから4点、質問をさせていただきます。まず1点目ですが、「2(1)ア」にある「審理の状況、当該公判期日において予定している手続の内容」、「実質的な不利益を生じるおそれがな」い、「弁護人の数その他の事情」とは、これまでの議論を考えますと、例えば、この予定している手続の内容については、罪状認否のほか、重要な罪体の証人ですとか被告人質問が予定されているとか、そういった重要な手続が行われる場合には、やはり現実の出頭が重要視されるだろうというようなことではないかと想像しておりますし、弁護人の数につきましては、これは恐らく私の方が意見を申し上げた点を反映していただいていて、尋問をするのに十分な人数と意思疎通をするのに十分な弁護人がいるかといったことを考慮していただいているのではないかと想像しておりますが、そういった理解でよいのか、あるいは、それ以外にこの中でどういったことを想定しているのか、具体的にどういう形で限定されているのかのイメージを持つ上で何か御説明いただけることがあればお願いしたいと思っています。 ○酒巻部会長 事務当局から何か応答がありますか。 ○鷦鷯幹事 今御指摘いただいた「審理の状況」や「予定している手続の内容」といった事項は、いずれも、その後の「やむを得ない事由があり」等々の要件の有無を判断するに当たって考慮されることとなり得る事情を列挙しているものです。そのような考慮要素の例示として何をどのような文言で列挙するかということ自体、技術的なところもありますが、久保委員が御指摘になられたことも考慮されるべき事情の一つとなると考えております。 ○久保委員 ありがとうございます。次に、「2(1)ア」の「(ア)」についてですが、こちらも、仮に導入する場合には、被告人が疾病や傷害により、例えば延期を希望していても、移動すれば症状が著しく悪化するなどのおそれがあるということが間違いないであろうという場面では、そうした希望に反して期日が開かれる場面が一応は想定されるということになると思いますが、それがどのような場面で許容されると想定しているのか、少しイメージを持ちたく、教えていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 御指摘の「2(1)ア」の「(ア)」というのも、「ア」全体の中の要件の一つです。すなわち、この「(ア)」のみならず、柱書に記載されている、先ほど挙げた「やむを得ない事由」であるとか、「不利益を生ずるおそれ」がない、「相当」といった要件の有無を考慮した上でのビデオリンク方式で出頭させることの可否の判断であり、そこでは、御指摘のとおり、公判状況等に応じて、公判期日を延期するということが選択肢になる場合もあると思われ、そうしたもろもろの審理の状況も含めて判断することを想定したものです。 ○久保委員 次ですが、「2(1)ア」の「(ア)」について、「当該場所に在席する者を感染させるおそれがある」というものが要件に入っております。仮に被告人が現実の出頭ができない場合には、被告人と弁護人が即座にコミュニケーションできる手段が確保されることは重要だということは、これまでも申し上げてきましたし、実際、恐らくそれを反映していただき、「2(1)イ」には、弁護人は「被告人が在席する場所に在席することができる」ということが記載されております。   そうすると、この場面では被告人がいる場所に弁護人が在席することを予定しながら、当該場所に在席する者に感染させるおそれがあることが要件になっているというのは、この場合、被告人と弁護人との意思疎通をどのように図ることを想定しているのか教えていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 被告人と弁護人が同席する場合に、その間での感染を防止する手段がある場合もあるわけですので、そういった手段の存在等も考慮しながら、個別の事案において可否、適否を判断していくこととなろうかと思われます。 ○久保委員 あくまでも何らかの方法で意思疎通を図る手段があるという趣旨ですね。 ○鷦鷯幹事 被告人をビデオリンク方式で出頭させる場合の弁護人との間のコミュニケーションについては何度か久保委員からも御心配いただいていますけれども、「2(1)ア」の柱書の要件を再度御確認いただきますと、大きな要件の一つとして、「被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがな」いということが書いてあり、被告人と弁護人との間で十分なコミュニケーションがとれるかという観点も、この要件との関係で必要な考慮はされるのではないかと考えています。 ○酒巻部会長 最後に判断するのは裁判所で、様々なことを考慮するのだろうと思うのですが、そういうことで、よろしいですね。四つ目をどうぞ。 ○久保委員 ありがとうございます。「2(1)ア」の「(イ)」について、「被告人の経歴」や「犯罪性のある者との関係その他の事情」を考慮するということになりますと、やはり懸念されるのは、第1回公判より前に、検察官によって被告人の言わば悪性格立証がなされて、裁判官に予断を生じることになりかねないのではないかということです。また、重大な犯罪をした者ほど裁判を受ける権利を制約されることになりかねないとも思っております。この観点からの反対意見は、これまでも述べてきたところですが、その上で、この趣旨も含め、確認をさせていただきたいと思っております。   被告人の意思に反することとなるとしても、裁判所の判断でオンラインによる出頭を命じ得ることになると思いますが、このような制度になりますと、被告人や関係者に何らかの危険性があるときには、裁判所の判断で被告人を法廷に所在させないことができる、言わば緩やかに法廷から排除する機能を持ち得ることになってしまい、被告人の意思に反する場合には、相当に強い不利益処分の実質を持っているといえると思います。仮に導入するのであれば、運用はもちろん、検察官がそのようなことを求めること自体が、予断排除の観点から抑制的でなければならないと思います。   そこで、「被告人の経歴、犯罪性のある者との関係その他の事情」というのが、具体的にどういう事例を想定されているのか、また、「被告人に危害を加え又は被告人を奪取若しくは解放する行為が行われるおそれがある」というのは、具体的にどのような事例を、あるいはこれまでの事例としてどういうものを想定しているのかということを教えていただければと思います。この点、私も自分の担当した事件で、正にこの奪取・解放のおそれがあるということで共犯者である死刑確定者につき拘置所から裁判所に移送した上で裁判所内での証人尋問をすることに反対されたという件がありましたが、結局のところそういった行為は行われる余地もなく、問題なく行われたものですから、具体的にどういうものを想定しているのかということを教えていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 たたき台の「2(1)ア」の「(イ)」の要件についてのお尋ねでしたので、御説明します。御指摘になられた、「被告人の経歴、犯罪性のある者との関係その他の事情」は、考慮要素を掲げるものでして、飽くまでこの「(イ)」の要件は、「公判期日への出頭に伴う移動に際し、被告人に危害を加え又は被告人を奪取し若しくは解放する行為が行われるおそれがある」というところです。考慮要素として列挙したものは飽くまで例示ですし、そうした例示された事情があっても、今申し上げた「おそれ」が認められなければ、この要件を満たさないこととなります。かつ、繰り返しになりますが、この「(イ)」も飽くまで「ア」の要件の一部ですので、柱書にある「やむを得ない事由」や「被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがな」いこと、「相当」性といったその他の要件も満たすことが必要となります。具体例をというお尋ねですけれども、当てはめの話になろうかと思います。ここに規定している要件が認められるかどうかという個別の判断かと思います。 ○酒巻部会長 久保委員、よろしいですか。 ○久保委員 はい。 ○酒巻部会長 ほかに、この「(3)その他」についての御意見、御発言はありますか。 ○近藤幹事 二つの項目について意見を述べさせていただきます。「2(2)」と「3」についてです。   まず、「2(2)」についてです。被害者参加人が映像・音声の送受信により手続に参加することを認める趣旨の一つに、被害者参加人の精神的負担を軽減するという観点を含める以上は、裁判所が映像・音声の送受信により手続に参加することを認めるか否かの判断要素として、犯罪の性質、被害者参加人の年齢、心身の状態、被告人との関係等の事情についても列挙するのが整合的であると考えています。これらの要素は、被害者参加人の精神的負担を軽減するという趣旨から設けられた制度である付添いや遮蔽の措置をとるか否かの考慮要素として現行法が掲げているものです。   本規律案で提案されている枠組みは、被害者参加人の申出を前提とするという点で、付添い人や遮蔽の措置とは異なります。しかし、申出がなされたからといって映像・音声の送受信による必要性が直ちに認められるということにはならないはずです。現在の規律案では、被害者参加人が映像・音声の送受信により手続に参加することを認めるか否かを判断する際に、被害者参加人の精神的負担に関する事情を考慮してよいかが不明確になってしまっていると思われます。   また、被害者参加人等の所在場所についてですが、本規律案では「裁判所の指定するもの」とされておりますところ、裁判所以外の場所の場合、何らかの形での録音・録画の可能性を否定できないところです。被害者参加人等の所在場所は、基本的には受訴裁判所の同一構内又は他の裁判所の構内である必要があり、その旨を規定上明らかにすることが望ましいと考えております。これが「2(2)」に関する意見であります。   続いて、「3」についてですが、裁判員候補者の方に実際に選任手続を行う裁判所にお越しいただいて対面で手続を行うことには、重要な意義があると考えております。基本的には現実にお越しいただくのが原則であると考えております。その上で、出頭場所につきましては、候補者や被害者等のプライバシー保護や期日の適正な進行を確保する必要性があることから、候補者の方にはこれらの観点からふさわしいと思われる場所、すなわち裁判所にお越しいただく必要があると思われます。したがいまして、規律といたしましても、「裁判所が指定するもの」ではなく、裁判所が指定する他の裁判所の構内を出頭場所とするのが適切であると思われます。 ○酒巻部会長 ただ今の特に場所についての御意見について、事務当局から何かありますか。 ○鷦鷯幹事 ただいま御意見いただいた点について、事務当局として、たたき台の内容をこのようなものとした趣旨について若干御説明します。   まず1点目の、「2(2)ア」の被害者参加人にビデオリンク方式で期日に出席させることの相当性の考慮要素の点です。今、近藤幹事から御指摘があった現行法の規定というのは、遮蔽措置に関係する刑事訴訟法第316条の39第4項のことかと思われます。そこでは御指摘のとおり、「犯罪の性質、被害者参加人の年齢、心身の状態、被告人との関係」が掲げられていますが、これらは、相当性の判断に当たっての考慮要素としてだけではなく、条文上、「被害者参加人が被告人の面前において在席、尋問、質問又は陳述をするときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれ」があり、遮蔽の措置をとることが必要かどうかということを判断するに当たっての考慮要素としても規定されています。   これに対しまして、このたたき台の「2(2)ア」に例示している、「審理の状況、被害者参加人の数、被害者参加人が予定している訴訟行為の内容」は、被害者参加人をビデオリンク方式によって公判期日に出席させることによって訴訟の進行等に支障等が生じないかという点に関わるものとして規定するものであり、専らビデオリンク方式による被害者参加人の出席の許容性、相当性の判断に当たっての考慮要素として規定するものです。   御指摘のように、刑事訴訟法の第316条の39第4項の規定と同様に、「犯罪の性質」等々のものをそのまま考慮要素として例示しますと、異なる趣旨の考慮事情を併記することとなり、適切でないと考えています。   次に、「2(2)」における被害者参加人の所在場所、あるいは「3」における裁判員等選任手続における裁判員候補者の所在場所について御指摘を頂きました。いずれも結論といたしましては、制度上、裁判所の構内に限定するものとはしていません。これについては、御指摘があったような、例えばプライバシーを守るという観点や、訴訟指揮権の行使に支障が生じることはないかなどの観点も、当然に考慮されるべきではありますが、他方で、そうしたことは、裁判所以外の施設では全く確保する余地がないのかというと必ずしもそうではないのではないかという御意見もあったところです。このたたき台では、被害者参加人及び裁判員候補者のいずれについても、その在席場所は「裁判所の指定するもの」としております。このような制度とすれば、指定をする際には、裁判所としても、プライバシー確保の観点からどのような措置がとれるか、また、訴訟指揮を十分に行うことができるかといった観点も考慮した上で、適切な場所を指定することができると考えています。そうしたことから、先ほど申し上げたとおり、制度上は在席場所を裁判所の構内に限るものとしていません。 ○酒巻部会長 今の事務当局の回答に対して応答はありますか。 ○近藤幹事 既に申し上げたところに裁判所の意見は尽きていると思いますので、重ねては申し上げません。 ○酒巻部会長 「2-2」の検討課題の「(3)その他」について、ほかに御意見等はありますか。   ここで3時10分頃まで休憩にします。           (休     憩) ○酒巻部会長 会議を再開します。次は「第2-3 証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充」について議論を行います。このテーマについても35分程度を目安とします。議論に先立ち、配布資料16の「第2-3」に記載された内容について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料16の5ページから7ページまでを御覧ください。   「第2-3 証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充」の枠内の「1」には、証人尋問を映像と音声の送受信により実施する制度に関する規律を、「2」には、鑑定を命ずる手続を映像と音声の送受信により実施する制度に関する規律を、「3」には、通訳を映像と音声の送受信により実施する制度に関する規律を、それぞれ記載しています。   続いて、6ページの「検討課題」を御覧ください。まず、「(1)証人尋問を映像と音声の送受信により実施する制度」に関しては、証人尋問を映像と音声の送受信により実施することができる場合として、「1(1)」に、「日本国内に所在させて証人として尋問をすることができないことにつきやむを得ない事由があり、その者の供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないと認めるとき」(国外所在類型)を加えることとするか、例えば、①当該証人が偽証した場合について我が国の偽証罪による捜査・訴追・処罰を確保し得るか、②、①が困難であるとして、当該証人の所在地国の偽証罪に相当する罪による捜査・訴追・処罰を確保し得るか、それが①に代替するといえるか、③証言の信用性を適切に評価するために必要な証拠を収集し得るかなどの点についてどのように対処することができるか、などの点が、検討課題となります。   「(2)」は、その他です。 ○酒巻部会長 ただ今の説明に関して、御質問等はありますか。   それでは、「第2-3」についての進め方ですが、まずは、6ページの検討課題「(1)」に記載されている内容について議論をし、それ以外の検討すべき点については、「(2)その他」において議論をしたいと思いますので、まずは「(1)証人尋問を映像と音声の送受信により実施する制度」について、御意見のある方は挙手をお願いします。 ○佐久間委員 検討課題「(1)」について意見を申し述べます。証人を国外に所在させてビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるようにすることについては、これまでの会議においても、国内にいる証人を尋問する場合と比較して、証言の信用性の担保やその判断に関して類型的な相違点があることから、慎重に検討すべきであることを繰り返し述べてきたところでございますが、本日の配布資料16の「取りまとめに向けたたたき台」の検討課題の「(1)①」から「③」までに掲げられている点に即して、改めて意見を申し上げたいと思います。   ここに掲げられた3点は、要するに国外にいて証言をする証人に偽証罪の威嚇力が有効に機能するかという観点と、当該証人の証言の信用性を適切に評価するための証拠を収集できるかという観点からのものと思われます。まず前者の観点に関して申し上げますと、偽証罪が、証人が真実を証言する、すなわち、記憶に従った供述をすることを確保するという機能を果たすためには、虚偽の陳述をすれば同罪により実際に訴追・処罰されることが証人に現実的なこととして認識されることが確保される必要があると考えられます。そして、そのためには、偽証罪で起訴された場合の公判への出頭及び裁判の執行が確保されること、次に、捜査・訴追機関により偽証罪の犯罪事実を立証する資料、証拠が収集されることが担保されていなければならず、それらが担保されなければ偽証罪はその機能を十分に果たすことができないこととなります。   これを証人が国外にいて証言する場合について見てみますと、当該証人は通常、国外に生活の本拠を有しているものと考えられ、我が国とその所在国との間に相当実効的な条約等があるような場合でなければ、本邦での公判の出頭や裁判の執行は保障されませんし、証人が所在する国に存在する証拠の収集を我が国の捜査・訴追機関が行うことは通常困難であると考えられ、虚偽の陳述をすれば偽証罪により実際に訴追・処罰されることが当該証人に現実なこととして認識されることが確保されるとはいえません。   この点に関し、これまでの会議において、国外にいて証言をした証人が偽証をした場合に、その所在する国の偽証罪等による処罰を可能とする法制上の枠組みを有する国があることなども紹介されましたが、第9回会議においての池田委員の御指摘にありますように、当該国の捜査・訴追機関が、我が国の裁判について犯された偽証罪等に果たしてどれほどの当罰性を見いだすか、捜査・訴追に向けて実際に動き出すかといった点については、国によって様々であると考えられ、現時点において、そうした法制上の枠組みによって、我が国の偽証罪による処罰の威嚇力が及びにくい部分が十分にカバーされると見ることは、困難であると言わざるを得ません。   また、国外にいて証言をした証人の当該証言の信用性を適切に評価するための証拠を収集できるかという観点に関して申し上げますと、当該証人が国外にいる以上、そのような証拠を十分に収集することは基本的に困難であり、その意味でも事実認定を誤らせるおそれがあると言わざるを得ません。   これを若干具体的に申し上げたいと思います。証人を国外に所在させてビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるようにした場合、例えば、覚醒剤の組織的な密輸事件において、被告人が、「渡航の数日前にバーで知り合ったあだ名しか知らない知人からお菓子だと言われて持たされただけであって、その中身が覚せい剤だとは知らなかった」などと弁解しているときに、当該知人と称する者が国外に所在した状態でビデオリンク方式により、被告人の弁解に沿うような、また少なくとも矛盾しないような内容を証言するものの、その者の人定事項の真実性や密輸組織との関係を含め、その信用性を適切に評価するための証拠はなく、それが収集される見込みもないといった状況が生じることは、実務経験に照らして容易に想定されるところです。そのような証言であっても、ひとたび実際になされれば、その信用性を否定するに足りる資料や事情が具体的に見当たらない限り、必ずしも証言の信用性を否定できないとされてしまい、結局、被告人の弁解を排斥できないとされてしまうこととなると思われます。   先ほど申し上げましたように、偽証罪が有効に機能しないため、虚偽供述がなされるおそれが強く、しかも信用性を適切に判断するための証拠も収集できない状況の下で、ひとたび証言がなされるだけで適正な事実認定が阻害されるおそれが現実に生じ得るのであり、そのような事態は刑事裁判において挙証責任を負う検察官として看過し難いものです。   以上述べたとおり、証人を国外に所在させてビデオリンク方式により証人尋問を実施することを可能にすることは、事実認定を誤らせるおそれが大きく、その導入には賛成し難いと考えております。 ○酒巻部会長 今の外国所在証人についての点に関連して、何か御意見はありますか。 ○久保委員 偽証罪について今、佐久間委員がおっしゃっていますが、偽証罪は刑法上、国外犯処罰規定の対象になっていない以上、証人が証言する国の法律に基づき宣誓して、その証人が偽証をした場合には、その国の偽証罪の制裁を受けるということになると考えられます。現にこれまで捜査共助などで得られ、伝聞例外規定により証拠採用された供述録取書は、その特信情況の判断において、偽証罪の制裁の下でなされたことが考慮されてきました。それを日本国内における偽証罪の捜査と比較しているのだとしても、日本の偽証罪の実態は、そもそも検察統計で直近の5年の統計を見ますと、起訴件数は2017年に3件、2018年、2019年、2020年はいずれもゼロ件、2021年に3件のみです。偽証罪の実効性を問題とすること自体に疑問があります。   また、偽証罪に実効性がないから証言の信用性を担保できないとの立論は、同様の制度がある諸外国の制度自体を否定しているものにほかなりません。新しい制度を作ろうとする場面において、弊害があるのであれば、それを乗り越える制度を検討するべきであり、池田委員が第9回会議において指摘された諸外国の制度や、第5回会議で成瀬幹事が指摘されていたイギリスやドイツの制度と日本のそれとを比べて、日本で何が問題なのか、そういった点も含めて日本に取り込めない理由が何かあるのか、そういった点は判然といたしません。また、仮に偽証罪の制裁に実効性がないことが想定される場合には、そのこと自体を反対尋問で質問した上で信用性の評価に反映させればよいのであり、制度を導入しないということにはならないと考えます。   先ほど佐久間委員は、証人の生活の本拠が国外にあることが想定されるといった趣旨の発言をされていましたが、必ずしもずっと外国にいた人物だけを前提するものではなく、その人物が日本に滞在していた間に検察官が取調べ済みであるものの、その後帰国してしまった、あるいは外国に赴任したというケースも想定されます。   私が把握している限り、令和3年に判決が出たケースにおいては、起訴前鑑定人、つまり検察官からの鑑定受託者を、弁護人側が証人尋問請求したところ、当該鑑定受託者は起訴後に国外に赴任しており、その後にコロナの緊急事態宣言が出てフライトが制限されたことに伴い、確定的な帰国予定が立てられず、弁護人が、当該鑑定受託者の証人尋問を断念し、代替証人として別の医師による証人尋問を請求したという事例がございました。もし赴任先の外国で当該鑑定受託者の尋問をビデオリンク方式により実施できるのであれば、現に鑑定を行った人である以上、その方が適切であるし、それが望ましかったものと思われます。実際、そのようなビデオリンク方式により実施する方法がないかといったことが公判前整理手続の中で話題に上ったものの、法制度上できないという話になったということを、その事件の弁護人の方から聞いております。   まずは証人の来日を目指しつつ、そのめどが立たない場合に、その証人が所在する国でビデオリンク方式による尋問をするのであれば、事実認定を類型的に誤らせるようなおそれはなく、佐久間委員のご発言は、そういった事案において説明になっていないものと思います。また、信用性評価のための材料が入手しづらいとしても、捜査共助により入手する努力がなされるべきです。それでもなお十分でないケースにおきましては、それを信用性評価に当たって考慮すればよいという問題ではないかと考えます。   オンラインによる取調べも実施しないということであればともかく、そうではないのであれば、供述録取書と比べてビデオリンク方式による尋問の方が事実認定をゆがめるおそれが高いとはいえませんし、証言の信用性評価の材料が集められないというのであれば、反対尋問のない供述録取書は、それにも劣るということになるはずです。2号書面とビデオリンク方式による尋問とを比べたときに、2号書面は事実認定を誤らせるおそれがなく、ビデオリンク方式による尋問は事実認定を誤らせるおそれがあるということはいえないと思います。制度は全体としての公正さが担保されるべきものですので、当初から外国所在者に対し尋問できないであろうということを想定して、供述録取書を作成することも許容することになりかねず、強く反対いたします。このような制度となれば、当初から外国に所在し、日本へ入国して尋問することへの協力が見込めない者の検察官面前調書については、これを2号書面として採用することは手続的正義に反するものとして、伝聞例外は認められるべきではないというような主張がなされることになると思いますし、実際それが通るというケースも見込まれると思います。   そもそもは証人審問権が適切に保障されるべきだという問題でもあります。証人を外国に所在させたまま行うビデオリンク方式による尋問は類型的に事実認定を誤らせるということを理由として否定するというのであれば、外国に所在する者にオンライン取調べをして作成された2号書面も、その信用性評価の材料が十分に集められない以上、採用されるかどうかについて疑義が生じるということになると思いますし、少なくとも弁護人は必ずそれを争点にするということが考えられます。そのような争点が多数生ずることを当初から想定して制度を作ることには、甚だ疑問があります。 ○吉田(雅)幹事 今、久保委員から御指摘があった点についてですが、まず、外国で証言をする場合に、その証人が偽証すると、その国の偽証罪が適用されるというような趣旨をおっしゃったように聞こえたのですが、私は外国法制をつまびらかに知っているわけではありませんけれども、我が国の刑事訴訟法に基づく証人尋問を他国で行った場合に、その国の偽証罪が直ちに適用されるのかというのがよく分からなくて、日本の刑法に関して言えば、偽証罪は我が国の審判作用を誤らせるという観点から規定されているものですので、もしそれと同じような考え方をその所在地国が採るとすれば、我が国の刑事訴訟法に基づいて行われる証人尋問で偽証があったとしても、それは証人の所在地国の審判作用を誤らせるものでない以上、普通は適用されないのではないかとも思われまして、久保委員の御意見の前提とするところがよく分からなかったというのが1点目です。   それから、偽証罪の訴追の件数が我が国で非常に少ないではないかという御指摘がありましたけれども、もしそれゆえに偽証罪に意味がないとおっしゃるのだとすると、それは偽証罪の一般予防効果を否定することになりかねないのではないかという気がします。   それから、鑑定受託者のケースを取り上げて、外国に所在させて証人尋問をしても事実認定を誤らせる危険はないのではないかというようなお話もされていましたけれども、先ほど佐久間委員がおっしゃったのは、そのような限定された話ではなくて、一般に証人尋問についてビデオリンク方式によることを国外にいる場合について認めると、国内にいる証人を尋問する場合と比較して類型的に信用性を確保し難いということをおっしゃったものであって、仮に鑑定受託者のケースについて問題がないといえるとしても、そうであるから証人一般について問題がないということにはならないのではないかと思います。   それから、2号書面と国外所在証人の尋問の場合を比較しておっしゃっていた部分もあったかと思いますが、2号書面とは証拠能力の要件が異なりますし、同列に論じること自体が無理なのではないかと思います。 ○酒巻部会長 議論としては両方の御意見が出たと思いますが、この証人尋問の「(1)」について、ほかに御意見のある方はございますか。   よろしいですか。それでは、次の「(2)」は「その他」ですが、この「検討課題」では、配布資料の「第2-3」に関してたたき台に記載されている事項全体について、事務当局に対する質問、御意見等をお願いします。 ○𠮷澤委員 証人の所在場所について意見を申し述べます。これまで検討会、部会を通じて、ビデオリンク方式によるとき証人の所在場所として裁判所だけとするのでは余りに狭いという意見を述べてきました。例えば、刑事訴訟法第157条の6第2項の構外ビデオリンクは、所在場所が最高裁判所規則により他の裁判所の構内と制限されておりますので、同項に該当する精神の平穏が害されることにより同一構内への出頭が難しい被害者に対し構外ビデオリンクを実施するというケースであれば、たとえその事件を扱っている裁判所が被害者の住所に近いという場合であっても、証人尋問のためにわざわざ遠方の裁判所にまで出向かなくてはいけないということになりますが、それでは余りに被害者にとって大きな負担となると思います。   殺人未遂の事件や性犯罪などの被害者の中にはPTSDを発症している方もいらっしゃいますし、裁判所に出頭する際、特にその裁判所が余り大きな裁判所ではない場合、どうしても被告人やその家族と顔を合わせてしまうという危険もありますし、実際にエレベーターが到着してドアが開いた途端に被告人と鉢合わせをしてしまって、大変な混乱に陥ったという事案もあると聞いています。   この点、海外では広く裁判所以外での尋問も認められているということについては、既に第3回会議で詳しく御説明しましたので、繰り返しは述べませんが、同一構内への出頭が困難である場合、現行法の同一構内以外の場所であって裁判所の規則で定めるものというのを、別の裁判所構内とは限定せず、広く裁判所が相当と認める場所などといった形で規定していただきたいと思います。もしそれが難しいということであれば、配布資料16の実線の丸囲いの中で、それを救う規定ぶりに整理していただきたいと思っております。   先ほど御説明したような事例では、この中では「(1)イ」、「証人に疾病又は傷害があり、」という規定が近いと思われますが、これでは現在場所から移動するときはその症状を著しく悪化させるおそれがあるという非常に厳格な規定ぶりになっておりますので、恐らく精神的な理由で同一構内に出頭が不可能のケースというのはなかなか入りにくいようにも思います。ただ、先ほど述べましたように、精神的な問題で同一構内に出頭できない被害者が、更に大きな負担を負って遠方の裁判所まで行かなくてはならないという事態にはならないよう、それを救うことができる規定ぶりにしていただきたいと思っております。 ○成瀬幹事 私は、ビデオリンク方式による被害者等の心情等の意見陳述について意見を申し上げます。   刑事訴訟法第292条の2第6項は、証人尋問における証人保護に関する第157条の4、第157条の5、第157条の6第1項及び第2項の規定を被害者等の心情等の意見陳述に準用しており、第157条の6第1項又は第2項の要件を満たす場合には、被害者等の心情等の意見陳述をビデオリンク方式で行うことができるものとされています。   そこで、証人尋問をビデオリンク方式により行うことができるものとする新たな類型として、「取りまとめに向けたたたき台」の「1(1)」や「(2)」に掲げられているものを追加するとした場合に、これらを被害者等の心情等の意見陳述に準用すべきかという点について申し上げたいと思います。   まず、現行法の趣旨を確認しますと、例えば、被害者等の心情等の意見陳述に刑事訴訟法第157条の6第1項が準用されている趣旨については、意見陳述を行う被害者に対しては、その精神的圧迫を軽減し、不安・緊張から精神の平穏を害されないようにするために導入された証人保護に関する諸規定の制度趣旨が全て妥当するためである、などと説明されています。心情等の意見を陳述する被害者等も、その原則的な形態としては、法廷に出頭して裁判所に対して口頭で申述するという点で証人と異なるところはないので、出頭して供述することに伴う証人の負担を軽減しようとするビデオリンク方式の趣旨は、心情等の意見陳述をする被害者等にも同様に当てはまると考えられたものといえるでしょう。   そこで、こうした法の趣旨を踏まえて、「1(1)」の各類型を見てみると、「ア」の類型は、証人に鑑定に属する供述を求める場合であり、心情等の意見陳述をする被害者等には当てはまらないと考えられますが、「イ」や「ウ」の類型は、証人が現在場所から同一構内に移動することに伴って証人に生じる負担や、そうした移動に伴って生じる処遇上の支障等を回避するためにビデオリンク方式によることが必要となる場合であり、それらを回避し得るようにする必要があることは、被害者等が心情等の意見陳述をする場合も同様であると考えられます。   また、「1(2)」についても、検察官及び被告人の双方に異議がなく、手続を主宰する裁判所が相当と認める場合に、被害者等がビデオリンク方式により心情等の意見陳述をすることを禁ずる理由はないと思われます。   したがって、被害者等の心情等の意見陳述についても、「1(1)」の「イ」・「ウ」や「1(2)」を準用するものとし、これらの要件を満たす場合には、ビデオリンク方式により行うことができるものとすることが考えられます。 ○酒巻部会長 その他御意見等はありますか。 ○近藤幹事 「1(3)」について意見を申し上げます。証人の在席場所を決する考慮要素ですが、訴訟指揮権、法廷警察権の十全な行使が確保されることのほか、証人が何らの影響も受けず自己の記憶のみに基づいて証言を行える状況であることや、証言内容に関するプライバシーが確保されることも挙げられると考えられます。規律案において示された「訴訟を指揮するために必要となる措置の内容その他の事情」という考慮要素の中に今述べた事情が含まれるかは、必ずしも明確ではないように思われます。証人の在席場所を考えるに当たって考慮すべき事情として、証人の証言内容に影響を与える事情の有無なども規律することが考えられるのではないかと思われます。 ○鷦鷯幹事 事務当局から、今御指摘のあった点について、以前にも御意見を頂いた点でもありましたので、お答えします。「取りまとめに向けたたたき台」の「1(3)」は、証人の所在場所を定める際の考慮事情として、「訴訟を指揮するために必要となる措置の内容その他の事情を考慮し、」と記載しています。これまでの会議においても、証人が何らの影響も受けずに自己の記憶のみに基づいて証言できる状況であるか、といったことも、場所を決める上では考慮されるべきではないかといった御指摘がありましたが、それらのこともこの要件の中で十分に考慮できるものと考えています。考慮事情についてさらにどこまで逐一法文に掲げるかという観点から申しますと、そこには立法技術的な観点からの課題もあろうかと考えているところです。 ○酒巻部会長 ほかに、その他として御発言、御意見はありますか。   よろしいですか。それでは、これで「第2-3 証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充」についての議論は、ひとまず終えることにします。   続いて、諮問事項「二」全体について、特にこのたたき台に記載されていないものを含めて、事務当局に対する御質問や御意見等を伺います。具体的には、まず、「被疑者・被告人との接見交通」について、次に、「公判審理の傍聴」について御質問、御意見を伺います。その後にそれ以外の点についても御質問、御意見を伺う順番で行きます。   まず、「被疑者・被告人との接見交通」について御質問、御意見を伺いますので、御意見のある方は挙手をお願いします。 ○久保委員 オンライン接見について意見を申し上げます。オンライン接見を明文化することの意義につきましては、これまで繰り返し述べてきましたので、今日詳しく繰り返すことはいたしません。現行法が禁止していない以上、取調べと同様、現行法でもできるということを前提に、その根幹となる秘密性を担保することを確認すること自体に大きな意義があると考えて、これまで意見を述べてまいりました。また、仮に確認規定を置くかどうかが予算の確保の帰すうに変わりがないのであれば、今後、現行法を前提に、現在の高度なニーズを踏まえて、秘密性が担保されたオンライン接見に向けた前向きな議論がなされていくことを強く望む次第です。   高度なニーズにつきましては、本年9月6日時点で54の弁護士会、日本弁護士連合会、つまり、ほぼ全ての弁護士会、日本弁護士連合会がオンライン接見に関する会長声明を出しました。これは、全国の刑事弁護に関わる弁護士の怒りの声です。様々な事情があるとはいえ、一方的に拘置所を廃止され、警察署の留置場を廃止され、一方的に警察署を移送され、弁護人が駆け付ける前に取調べが行われる上、それが録音・録画もなされていないことも多々あるという現実と私たち弁護士は日々戦っています。リアルの接見の方が適切なことは当然の前提ですが、今足りていない被疑者・被告人の権利保障をオンライン接見により改善することが技術的に可能であるにもかかわらず、それがないがしろにされることへの怒りの声で弁護士会はあふれています。   問題があるのであれば、それを乗り越える議論がなされるべきです。全国一律、同時の設備設置ということを求めているわけではありません。どこから設置するか決められないということであれば、日本弁護士連合会が内部でそれを議論し、提示することはできます。セキュリティーにつきましては、弁護人自身の問題である以上、弁護士会において研修を重ねています。被疑者・被告人の自傷他害は、東京拘置所で現に行われている外部交通のシステムの設置状況を前提とすると、全く理由にならないことは明らかです。   予算につきましても抽象的な話しかなされていませんが、証拠開示がオンライン化する以上、接見室にインターネットの接続のための機器が整えられることは当然に必要となります。刑事施設や裁判所との間ではオンラインで接続するための機器が設置されるのであれば、それを接見にも利用できるようにするといった工夫もできるはずですし、それは、これから設置しようとしている今だからこそ議論しておくべきことです。例えば、原則的に使われないであろう勾留質問のために刑事施設に設備と機器が設置されることになるのであれば、それをオンライン接見に活用することも可能であるはずです。また、原則として現実の出廷を前提としつつ、使われる場面が限定される刑事施設からのオンラインの尋問のために刑事施設に設備と機器ができるのであれば、それをオンライン接見や弁護人同士の意思疎通にも利用できるはずです。オンライン接見固有の予算は限られてくるはずではないかということが、こういった想定から考えられます。そういった建設的な予算の試算ということはなされていませんが、必要であれば日本弁護士連合会で調査をすることもできます。現に弊害を乗り越えて実現している諸外国をオンライン接見でこそ見習うべきです。オンライン接見を含め、被疑者・被告人の権利をないがしろにしない、そういった前向きな議論がなされることを改めて述べて、終わりにしたいと思います。 ○酒巻部会長 これに対して、事務当局から応答等はありますか。 ○鷦鷯幹事 事務当局から、「取りまとめに向けたたたき台」において、これまで御議論いただいております「被疑者・被告人との接見交通」を記載しなかった理由を説明させていただきます。今、久保委員から、改めて御意見いただいたところですので、それに対する一定の回答にもなろうかと思います。   前提といたしまして、刑事訴訟法第39条第1項は、身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護士になろうとする者と立会人なくして接見し、書類若しくは物の授受をすることができると規定していますので、被疑者・被告人は収容されている刑事施設等においては弁護人等と接見室で立会人のない接見をすることができる、これが前提です。   久保委員から御提案があり、これまで当部会において検討の対象とされてきました、いわゆるオンラインによる接見というものは、この刑事施設等の接見室で立会人のない接見ができることに加えて、弁護人等が刑事施設等に赴かなくとも、映像と音声を送受信する方法で接見をすることができるようにするというものです。   これに対しましては、刑事施設等の接見室での接見とは異なり、オンラインによる接見の場合には、被疑者・被告人と接見する側において、成り済ましや第三者の同席、罪証隠滅行為等が行われるおそれがあるため、これを有効に防止しつつ立会人のない接見ができるのは、いわゆるアクセスポイント方式に限られると考えられ、それを刑事訴訟法第39条第1項の接見と位置付けた場合には、被疑者・被告人は権利としてそれを刑事施設等の側に求めることができるということとなりますが、被疑者・被告人のいる刑事施設等とアクセスポイントとなる公的施設の双方において人的・物的体制を整備し、これを全国的に実現するためには、大規模な予算の裏付けと長い年月が必要となる、こういった御意見がありました。   先ほど述べましたとおり、被疑者・被告人が収容されている刑事施設等においては、対面で立会人のない接見をすることは可能です。そのことを前提に、これまでの御議論を踏まえますと、オンラインの接見が特に必要とされるのは、例えば弁護士過疎地域などにおいて、弁護人が接見のために長時間の長距離移動が必要となるということが常態化しているような場合や、気候等を原因として交通の途絶が頻繁に生じ、弁護人が接見のために移動するのに著しい負担がある状況がある場合など、対面の接見のみによっては被疑者・被告人への援助に著しい支障が生じかねない状況がある場合であろうと考えられますが、そのような状況は全国的に生じているものではないと思われます。   そうであるとしますと、オンラインによる接見を実施するための設備等の整備は、これを実現することが被疑者・被告人の権利利益のため特に必要性が大きいと考えられるような状況のあるところにおいて優先してなされるのが適切であり、実際に、そうした状況の有無を問わず、多くの予算を費やして全国的にオンライン接見を実現するということには疑問がある、こういった御意見もあったところです。   いずれにしましても、被疑者・被告人が留置される刑事施設等において全国的にオンライン接見が実現可能となるまでには、設備の整備等に長い年月をし、それが整わないままオンライン接見を権利化すれば、大部分の刑事施設等において、被疑者・被告人からオンライン接見を求められてもそれが実施できず、被疑者・被告人から見れば法律で認められた権利を行使できないというような、法の趣旨に反する状態が長期にわたって続くという状況となりますし、逆に、それを避けるために施行期間を長く取るといったことを考えたとしても、そもそも施行可能となる時点の見通しが立たない以上は、現時点において権利化のための法整備を行うということに意義はなく、適切でもないと考えられます。   久保委員からは、権利化はしないとしても、なお法律に確認的に規定するという選択肢があるのではないかといった趣旨の御発言もあったかと思います。具体的にどのような規定ぶりを想定されているのかは必ずしも明らかではありませんが、それが、被疑者・被告人等からオンライン接見を求められた場合には実施することが要請されるような効果を伴うものであるとすれば、これまで申し上げた権利化した場合の問題点がそのまま当てはまることとなろうと思いますし、他方でそうした趣旨を含まない規定であるとすれば、法律に規定を設けるという意義はないのではないかと考えられるところです。   そうしたことも踏まえまして、これまで当部会における御議論では、オンラインによる接見は、刑事訴訟法第39条第1項によるものにすることにこだわらず、現在一部の地域で実際に運用されているアクセスポイント方式による電話による外部交通と同様に、同項によるものとは別の外部交通の方法として行うものとして、必要性が高いところから弾力的に対応するのが妥当ではないかといった御意見もあったところです。   事務当局としましては、そうした御意見を踏まえると、新たに法律に規定すべき事項はないと考えられましたことから、法改正の要綱を示すことを目的するこの「取りまとめに向けたたたき台」には、制度案としては記載していないものです。 ○酒巻部会長 たたき台は法律に定める要綱になるもので、法律に定める事項はないと考えられるので、記載していないということなのですが、このような事務当局の説明について、ほかに御意見がありますか。   よろしいですか。それでは、その他、「被疑者・被告人との接見交通」について、まだ御質問、御意見があれば、更に承りますが、よろしいですね。   次は、やはりこのたたき台には記載されなかった「公判審理の傍聴」につきまして御意見、御質問を受けたいと思います。 ○𠮷澤委員 事務当局にお伺いします。今回このオンラインによる公判傍聴について、たたき台から落とされているという状況ですけれども、その理由について御教示願います。 ○鷦鷯幹事 それでは、お尋ねですので、公判審理の傍聴に関してこのたたき台に記載をしていない理由について申し上げます。   公判審理の傍聴に関しましては、これまでの御議論において二つの点の御意見をいただいており、その一つ目が、一定の事件や最高裁判所の弁論などについてはインターネット等を通じて広くオンラインで傍聴できるようにすべきではないかといった御意見、もう一つが、公判が行われる法廷と裁判所の別の部屋をビデオリンク方式で結んで、被害者等が別室から傍聴できるようにすべきではないかといった御意見です。   まず、このうちの前者につきましては、これを実施した場合に、証人の協力を得ることや証人が真実の供述、証言をすることが困難となるおそれがあったり、被害者の精神の平穏を害し、あるいは被告人の社会復帰に悪影響を生じさせるおそれがあったり、それから、裁判員や証人等に対して接触行為、威迫行為等が行われるおそれなどがあったりし、そうした弊害自体は、インターネットを通じて誰でも審理を傍聴できる、視聴できるということ、それ自体により生ずる弊害であると考えられ、およそ防止するすべはないのではないかといった御指摘がございました。そうした御議論の状況を踏まえますと、そのような傍聴に関する規定を設けることは、少なくとも現時点では慎重であるべきと考えられたことから、「取りまとめに向けたたたき台」には制度案を記載していません。   もう1点、後者に関しては、𠮷澤委員から、インターネット傍聴のような弊害はなく、被害者等が在席する場所に裁判所職員を立ち会わせるなどし、かつオンラインでつなぐ場所や傍聴者の数を制限することとすれば、訴訟指揮等にも問題がないのではないかといった御意見や、オンラインという方法で裁判所内の別室とつないでの傍聴を認めるだけで被害者や御遺族の思いを遂げられるのに、それを一律に認めないことは国民の感覚に合わないのではないかなどといった御意見を頂いています。   もっともその一方で、実際に傍聴の在り方を含めた裁判手続を運営する裁判所のお立場からは、傍聴は万人に対して裁判の公開を実現するための方法であり、被害者等の特定の立場にある者にのみ、同一の傍聴方法の中での配慮という枠を越えて、他の者とは異なる傍聴方法を認める根拠に乏しいのではないかといった御意見や、対審により行われる裁判手続の傍聴をどのような形で認めるかは、刑事手続にとどまらず民事訴訟などを含めた裁判制度全体に関わる問題であり、他の裁判制度の公開の在り方との整合性を含めた慎重な検討を要するといった問題点が指摘されています。   そうした御議論の状況を踏まえますと、こちらも少なくとも現時点において、そのような傍聴に関する規定を設けることは慎重であるべきと考えられたことから、取りまとめに向けたたたき台には制度案としては記載していないところです。 ○𠮷澤委員 被害者に対するオンライン傍聴については、私は令和3年3月に開催されました第1回の検討会のときの冒頭の挨拶のときから、ずっと必要性や、是非実現していただきたいということを繰り返し述べてきたところですので、非常に残念です。まだ諦めてはいないのですけれども、現在この部会でオンラインによる被害者参加は認められるという方向で議論がされておりまして、それは非常に有り難く思っておりますが、やはり被害者参加の対象事件ではないケースというのも現にありますし、被害者参加の対象事件であっても、被害者参加で自分の名前とか、自分が被告人と対立するような構造になることを被告人が認識すること自体を非常にためらうという被害者もいらっしゃいますので、やはり傍聴という方法で広く被害者がその裁判の帰すうを確認できるということは、切実な被害者の側の望みであることは御理解いただきたいと思います。   また、これまでにも被害者多数の事件においては、参加の希望者も多く、傍聴の希望者も多く、それに加え、報道陣の傍聴席も多く確保しないといけないということになりますと、今度は残る一般の傍聴席というのが非常に少ないという事態にも陥っていると聞いております。そうであれば、先ほども裁判の公開というお話がありましたけれども、広く一般に公開できているといえるのだろうかと、そういうような不都合もあるのではないかと思いますし、やはり被害者多数の事件が、そういう事件が発生することは不幸なことですけれども、あった場合に、少しでも被害者側に柔軟に対応できる選択肢を残していただきたいと思っております。 ○酒巻部会長 ほかに、この「公判審理の傍聴」につきまして御意見、御質問はありますか。   よろしいですか。それでは、諮問事項「二」に関して、「被疑者・被告人との接見交通」及び「公判審理の傍聴」以外の事柄について御質問、御意見等はありますか。ありましたら挙手をお願いします。よろしいですか。   それでは、これで諮問事項「二」に関する「取りまとめに向けたたたき台」に基づく審議はひとまず終えることにしたいと思います。   本日の審議はここまでとしたいと思います。   本日は、諮問事項「一」及び「二」ついて一通りの議論を行うことができ、残った論点等も明確になったと思います。   次回は諮問事項「三」について、本日と同様に、事務当局に資料を準備してもらった上で、その資料に沿って議論を進めていくことにしたいと思います。   今後の会議の日程等につきまして事務当局からお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回、第13回の会議は、令和5年10月31日火曜日の午後1時30分からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能です。詳細については、また追って御案内を申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましても、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成し、公開することとさせていただきたいと思います。配布資料についても公開することにしたいと思いますが、そのような扱いでよろしいでしょうか。              (異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会といたします。皆さま、どうもありがとうございました。 -了-