法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第13回会議 議事録 第1 日 時  令和5年10月31日(火)  自 午後1時30分                        至 午後3時13分 第2 場 所  東京高等検察庁第二会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第13回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日も御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。   本日、池田委員におかれましては、オンライン形式により出席されています。   なお、小木曽委員におかれましては、本日、所用のため御欠席と伺っております。   続いて、事務当局から、配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、配布資料17として「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「三」関係)」を、配布資料18として「諸外国における電磁的記録文書等の偽造に係る罰則等の概要」を、配布資料19として「諸外国における公務の執行を妨害する罪及び公務員等が使用する電子計算機の動作を妨害する行為に係る罰則の概要」をお配りしています。配布資料の内容については、後ほど御説明します。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入ります。   本日は、前回会議の最後にお伝えしましたとおり、諮問事項「三」について、配布資料17の「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「三」関係)に基づき、議論を行いたいと思います。   まず、「第3-1 電磁的記録をもって作成される文書の信頼を害する行為を処罰するための罰則の創設」について、議論を行います。   議論に先立ち、配布資料17の「第3-1」に記載された内容について事務当局から説明してもらいます。また、配布資料18の「諸外国における電磁的記録文書等の偽造に係る罰則等の概要」は、この項目の議論に関連すると思われますので、これについても併せて事務当局から説明してもらいます。 ○鷦鷯幹事 配布資料17の1ページから2ページまでを御覧ください。   「第3-1 電磁的記録をもって作成される文書の信頼を害する行為を処罰するための罰則の創設」の枠内の「1」には、公電磁的記録文書等偽造等の罪に係る罰則の規律を、「2」には、虚偽公電磁的記録文書等作成等の罪に係る罰則の規律を、「3」には、電磁的記録免状等不実記録の罪に係る罰則の規律を、「4」には、偽造公電磁的記録文書等行使等の罪に係る罰則の規律を、「5」には、私電磁的記録文書等偽造等の罪に係る罰則の規律を、「6」には、虚偽電磁的記録診断書等作成の罪に係る罰則の規律を、「7」には、偽造私電磁的記録文書等行使の罪に係る罰則の規律を、それぞれ記載しています。   この「第3-1」には、特に議論すべき「検討課題」を記載しておりませんが、枠内の記載の当否・要否を含め、御議論いただければと思います。「第3-1」の御説明は以上です。   続きまして、配布資料18について御説明します。   配布資料18は、諸外国における電磁的記録文書等の偽造に係る罰則等の概要に関する資料であり、アメリカのニューヨーク州、イギリス、フランス及びドイツの罰則等を一覧表にまとめたものです。現時点で把握しているものを参考として取りまとめたものですので、不十分な点については御容赦いただきたいと思います。   資料の概要を御説明します。各国ごとの罰則等の概要を見ますと、まず、ニューヨーク州及びイギリスでは、文書の「偽造罪」に当たる罰則の「文書」等の用語について定義規定を設け、その中で、「コンピュータデータやコンピュータプログラム」であって「筆記若しくは印刷された事項若しくはそれらと同等のもの」を内容とするものを「文書」に含むものとしたり、「全てのディスク、テープ、サウンドトラックその他の機械的、電気的その他の方法によって情報を記録し又は保存する装置」を「文書」に含むものとしたりすることにより、電磁的記録文書等を偽造する行為について、「偽造罪」で対処するものとされているようです。フランスでは、文書偽造の罪の対象に、「文書」のほか、「その他全ての媒体」を規定しているようです。ドイツでは、文書偽造罪の対象は「文書」とした上で、これとは別に、「証明上重要なデータの偽造」などの罪を設けることにより、電磁的記録文書を偽造する行為に対処するものとされているようです。   資料の御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの事務当局説明の内容に関して、御質問等はありますか。   このテーマについては検討課題の具体的な記載はありませんので、たたき台の枠内に記載されている罰則規定の内容について、順を問わず、事務当局に対する御質問や御意見等をお願いしたいと思います。挙手などした上、いずれの点についてのものかを明らかにした上で御発言をお願いします。 ○久保委員 意見も申し上げる予定ですが、先に事務当局に1点質問をさせてください。   この枠囲みの中の「7」につきまして、診断書等について「表示して行使」することだけではなく、「事務処理の用に供」する行為が入っております。「表示して行使」する行為だけではなく供用行為まで含まれなければならない趣旨、すなわち診断書等を「表示して行使」する以外に「公務所の事務処理の用に供」する行為として想定されている事例がどのようなものなのかを教えていただければと思います。コンピュータで処理する事例があるとすれば、現在の刑法第161条の2の対象となるようにも思われますので、どういったものを想定しているのか教えていただければと思います。 ○酒巻部会長 では、久保委員の御質問について、事務当局から応答をお願いします。 ○鷦鷯幹事 御指摘の「7」に記載されている「事務処理の用に供」するという部分ですが、このような記載としているのは、そのような電磁的記録が必ずしも人に対して表示されるものとしてではなく、公務所の電子計算機による事務処理の用に供されることもあり得ると考えられたためであり、何か特定の具体的な事例を想定して規定するものではありませんが、一般論としてそういったことがあり得るのではないかという趣旨で記載しているところです。 ○久保委員 ありがとうございます。では、それも含めて意見を申し上げたいと思います。   まず、今回の比較表につきましては、私の方で幾つか要望していたものの一部について回答いただいたものと思いますので、その点については、お忙しいところ御準備いただいたことにつき、深く感謝申し上げます。   その上で、用意していただいた比較表によれば、有印性や署名により保護を強めているわけではないようであり、今回のような条文の作り方の適切さには疑問があります。そもそも文書につき印章や署名の有無により法定刑に差が設けられた趣旨は、名義人の印章や署名がある場合の方が、ない場合よりも公共的な信用性が高いためでした。電磁的記録において、文書類似の有印性で保護の度合いを大きく変えることに合理性が見いだし難いように思います。PDFデータ上に署名らしきもの、印章らしきものを貼り付けることが容易であることは、一般社会において広く認識を共有されているところであるからこそ、電磁的記録がその本人によって作成されたこと、作成後に改ざんされていないことを証明することを目的として電子署名という制度ができたのであり、言わば印鑑の電子バージョンは電子署名です。   その上で枠囲みの表現を見ると、「電磁的記録印章等」につき何が含まれるのかということが不明確です。「印章又は署名として表示される」という表現を素直に読めば、印章の印影又は署名の外観を備えた画像が画面上に表示されるものだと読めます。そうすると、いわゆる電子署名は含まれないようにも思われます。一方で印章や署名の画像により特別信用性を高めることになるとも思われず、法定刑の差を設けることには合理性を見いだし難いように思います。   例えば、テレワーク支援などのために印鑑の外観を持つ画像、いわゆる電子印鑑を作成することを支援するサービスがありますが、そのようなサービスを取り扱うサイトには公的な書類では使えないと明記されています。電子署名を伴わない記名に電子印鑑を付したものには民事訴訟法第228条第4項の真正推定が働かないことを踏まえたものと考えられます。メールにおける署名欄や送信者欄の名前は署名ではなく記名として把握されることになるものと考えられます。紙媒体とは異なり、メールのヘッダ情報、添付ファイルのプロパティ情報などのように表示主体を推知させる情報は、印章又は署名として画面上に表示されることは想定されていないと考えられますが、どのような表示が印章又は署名として表示されているものとして「電磁的記録印章等」に該当すると想定しているのかが不明確です。   仮に電子署名が含まれない一方で、署名らしきものや印章らしきものがあることでかえってその電磁的記録が保護されるとすれば、電子署名により署名の信頼性を高めようとする一般社会の在り方と矛盾するのではないでしょうか。更に言えば、電磁的記録につき保護の度合いを高めようとする結果、電子署名と印章、署名らしきものの両方を含むようにしなければ保護の度合いが劣ることになりかねません。保護の度合いに差を設ける規定を置くとすれば、趣旨に基づいて、強い保護を与えるにふさわしいものだけが対象となるべきです。   これは結局のところ、電磁的記録と文書の同一性を擬制する結果であるようにも思われます。元々文書とデータを完全に同一視できないとの前提で置かれた規定を含む現在の刑法との整合性については、以前指摘したとおりであり、この点は解消されていません。いずれについても今後解釈において疑義が生じるように思われますし、立法の目的からすると、やはり電子令状偽造罪のようなものを個別に置くのが適切であることを改めて指摘しておきたいと思います。 ○酒巻部会長 御意見ありがとうございました。今の御意見について事務当局から何か応答はありますか。 ○鷦鷯幹事 たたき台の各規定において記載している「電磁的記録印章等」の意義についてお答えすることがただいまの久保委員の御発言に対する一つの回答になるかと思いますので、それについてお答えします。   たたき台において「電磁的記録印章等」は、「印章又は署名として表示されることとなる電磁的記録をいう」としているところ、「印章」、「署名」は現行の刑法第155条等において同様の文言が使われております。そこにおける「印章」とは、「人の同一性を表示するために使用される一定の象形」をいうものとされ、「署名」とは、「自己を表象する文字で、氏名その他の呼称を表記したもの」をいうものとされています。これを前提に、「電磁的記録印章等」は、「文書又は図画として表示されて行使されることとなる電磁的記録」と定義される「電磁的記録文書等」において、文書における印章又は署名と同様に機能し、その名義人を表象するものとして表示されることとなる電磁的記録を意味するものであります。したがって、それに当たるものが「電磁的記録印章等」であると理解していただければと思います。 ○酒巻部会長 ほかに「第3-1」について御意見等がありますか。   それでは、これで、「第3-1 電磁的記録をもって作成される文書の信頼を害する行為を処罰するための罰則の創設」についての議論はひとまず終えることにします。次に「第3-2 電子計算機損壊等による公務執行妨害の罪の創設」について、議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料17の「第3-2」に記載された内容について、事務当局から説明してもらいます。また、配布資料19の「諸外国における公務の執行を妨害する罪及び公務員等が使用する電子計算機の動作を妨害する行為に係る罰則の概要」は、この項目の議論に関連すると思われますので、これについても併せて事務当局から説明してもらいます。 ○鷦鷯幹事 配布資料17の3ページを御覧ください。   「第3-2 電子計算機損壊等による公務執行妨害の罪の創設」の枠内には、公務員が電子計算機を使用して職務を執行するに当たり、電子計算機・電磁的記録の損壊、電子計算機に虚偽の情報・不正の指令を与えることその他の方法により、その電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせる行為についての罰則の規律を記載しています。   この「第3-2」には、特に議論すべき「検討課題」を記載しておりませんが、枠内の記載の当否・要否を含め、御議論いただければと思います。   続いて、配布資料19について御説明します。   配布資料19は、諸外国における公務の執行を妨害する罪及び公務員等が使用する電子計算機の動作を妨害する行為に係る罰則の概要に関する資料であり、配布資料18と同様に、アメリカのニューヨーク州、イギリス、フランス及びドイツの罰則を一覧表にまとめたものです。この資料につきましても、現時点で把握しているものを参考として取りまとめたものですので、不十分な点については御容赦いただきたいと思います。   資料の概要を御説明します。各国ごとの罰則の概要を見ますと、まずニューヨーク州では、公務執行妨害罪の規定において、「物理的な力の有無にかかわらず、州、郡、市、町、村、消防署若しくは救急医療機関が所有若しくは運営する無線、電話若しくはテレビその他電気通信システムの妨害」を「手段として」、「法執行その他の政府機能を妨害」するなどし、「公務員の公務の遂行を妨げ」るなどした場合を処罰するものとされているようです。   イギリスでは、職務遂行中の巡査等の「有事対応職員」に対する暴行罪を規定し、「1996年警察法」において、職務執行中の警察官等に対し「故意にこれを妨害した者」を処罰するものとするほか、「コンピュータ等の動作に支障を及ぼす目的での無権限の行為」を対象とする罰則を設けており、公務員等が使用する電子計算機の動作を妨害する行為にも、この罰則が適用され得るようです。   また、フランスにおいても、職務遂行中の公務員やその他の公権力保持者等に対し、「脅迫若しくは暴力を用いる行為又はその他全ての威嚇行為」や「暴力的な抵抗を行う行為」をした者を処罰するものとする「公務執行者に対する脅迫及び威嚇行為」の罪等の罰則があるほか、「自動データ処理システムの運用を妨害又は歪曲する行為」を対象とする罰則を設けており、公務員等が使用する電子計算機の動作を妨害する行為にも、この罰則が適用されるようです。   そして、ドイツにおいても、公務担当者等に対し、「その職務行為が行われる際に、暴行を用いて又は暴行を加える旨の脅迫により抵抗した者」や「実力によって攻撃した者」を処罰するものとする「執行担当者に対する抵抗」等の罪の罰則があるほか、「データを違法に消去し、隠匿し、使用不能にし、又は改変した者」や「データ処理設備又はデータ媒体を破壊し、損壊し、使用不能にし、隠匿し、若しくは変化させることにより、他の者にとって重要なデータ処理を妨害した者」を対象とする罰則を設けており、公務員等が使用する電子計算機の動作を妨害する行為にも、この罰則が適用され得るようです。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの配布資料18の「第3-2」に記載された内容と配布資料19についての事務当局説明の内容に関して、御質問等はありますか。   説明にありましたとおり、このテーマについても検討課題の記載はありませんので、たたき台の枠内に記載されている内容についての事務当局に対する質問や御意見等があればお伺いしたいと思います。 ○樋口幹事 公務執行妨害罪についての比較法の表を事務当局から丁寧に説明していただけたと思います。そこで、たたき台でお示しいただいた公務執行妨害罪の改正案について、比較法的な位置付けを明らかにすることを通じて、その妥当性をお示しできればと思います。4か国を見てまいりますので少し長くなるかもしれませんが、お許しください。   まず、日本の実体刑法が明治期から影響を受けているフランス及びドイツの罪は、現行法でいいますとフランス刑法の第433-6条の「反抗」の罪というもの、それとドイツ刑法第113条の「執行担当官に対する抵抗」の罪という、この二つの罪が沿革的に対応するものです。これらは我が国でいう強制力を行使する権力的公務を保護対象にする罪でして、日本でも旧刑法ではドイツ、フランスと同様に強制力を行使する権力的公務を保護する罪において、実行行為は暴行・脅迫による抗拒を規定しておりました。現行刑法は公務全般を保護するという決断をしましたので、この点は現在のフランス、ドイツと異なっておりますが、実行行為については暴行・脅迫という形でフランス、ドイツと同じ形を保ってきたという沿革です。   一方、イギリスの公務執行妨害罪に対応する罪を見ますと、2018年有事対応職員に対する暴行(罪)法第1条の罪は、暴行罪の特殊形態という位置付けになっている一方、1996年警察法は警察官の職務全般を保護するということになっております。このうち1996年法は、既に御説明いただいたように、実行行為について「妨害」という文言を規定しており、これは非常に広範なものになっていますが、一方で法定刑は軽いものになっているわけです。この規定によれば、サイバー攻撃による職務妨害は全て捕捉可能と思われますが、法定刑は軽いものになると、そんな位置付けになるわけです。   アメリカについて、ニューヨーク州を紹介していただきました。こちらは既に紹介していただいたとおり、通信システムの妨害という実行行為がありますが、こちらは1984年に追加されたものでして、元々は脅迫、物理的な力若しくは干渉、それに加えて「独立した不法な行為」という行為態様が規定されていたというものになっております。この「独立した不法な行為」というのは少し分かりにくいのですが、犯罪あるいは法律により違法とされている行為のことで、例えば器物損壊が該当するとされており、イギリスほどではないにしても、日本より元々広い規定ぶりでして、そこにコンピュータ攻撃対応のために実行行為を追加したという沿革のようです。個別に列挙された実行行為について同じ法定刑が定められておりますので、システム妨害と暴行・脅迫は等価的なものという位置付けを受けているといえます。   以上の四つをまとめますと、暴力的な態様に実行行為を限定しているフランス、ドイツ、暴行類型以外に妨害全般を捕捉しつつも軽い法定刑にとどめる規定も持つイギリス、暴行・脅迫のほか独立した不法な行為、システム妨害などの実行行為を列挙して、同じ法定刑を与えるニューヨーク州という、そのような並びで整理できるわけです。   このように見てまいりますと、今回のたたき台は、コンピュータを利用した公務、取り分け強制力を行使する権力的公務の保護に向けて行為態様を拡張する提案ですから、法定刑の観点から暴行・脅迫との等価性を見いだす点でニューヨーク州刑法に近いものであり、フランス、ドイツ型の従来の条文からは一歩拡張するものとの整理も可能かと思われます。   もっとも、公務執行妨害罪の規定ぶりのみに着眼した整理では比較法として不十分と考えます。と申しますのは、フランス、ドイツではコンピュータを利用した公務の保護については、コンピュータの機能を害する罪によって可能となっているからです。この点が明示的に読み取れるのがドイツでして、既に御紹介いただきましたとおり、ドイツ刑法303条bの第2項を見ていただきますと、「他人の事業、他人の企業又は官庁にとって重要な意味を有するデータ処理について」という規定ぶりになっているところでして、事業・企業と官庁が併置されているわけです。この規定は、コンピュータが担う企業あるいは公務におけるデータ処理を保護することを意図したものでして、強制力を行使する公務が明示されているわけではありませんが、公務全般を保護する規定ぶりになっています。   一方、同じような罪として存在するのはフランス刑法の323-2条ですけれども、こちらもデータ処理システムを妨害から保護しており、注釈書を見ますと、国家安全の保護もこの条文で図られるというような指摘がされておりまして、公務にも適用されることが前提になっているものと思われます。このように、公務執行妨害罪の実行行為が狭いままのフランス、ドイツでは、コンピュータシステムの保護を広く規定し、その一局面という形で公務全般の保護を実現しています。   このように見てまいりますと、今回のたたき台は、公務執行妨害罪を拡張するというものですが、フランス、ドイツ法を参照しますと、現在の日本の刑法第234条の2の解釈論ないし法改正によって、私人の業務と併置する形で強制力を行使する権力的公務を含めて公務全般を保護することも一つの選択肢に入ってくるといえるかと思います。しかし、今回のたたき台は、公務執行妨害罪と業務妨害罪をめぐる日本法のこれまでの判例法理に鑑みると妥当な御提案かと考えます。   まず、そもそも威力業務妨害罪が強制力を行使する権力的公務を保護しないことは判例上確立されていますが、刑法第234条の2についてどのような解釈が採用されるかは明らかでない状況にあります。これに加えて、業務妨害罪における業務の要保護性については議論に一致が見られないという点も問題になります。   刑法第95条については、取り分け強制力を行使する権力的公務を念頭に置くべき問題かと思いますが、保護対象になる職務の執行の個別具体化が必要とされており、そのように具体化された職務執行について適法性を審査することが確立されています。これに対して、業務妨害罪について保護対象になる業務の要保護性の範囲は判然としない状況にあります。私人について要保護性判断は厳格ではないと思うのですが、強制力を行使する権力的公務について要保護性を緩やかに認めて、違法な公務まで保護することには問題があるでしょう。しかし、同法第234条の2の解釈論として、そもそも強制力を行使する権力的公務を保護するか自体判然としない現状で、業務の要保護性がどのように解釈されるのか全く判然としません。   このような解釈論による疑義を払拭するために、刑法234条の2を改正して、強制力を行使する権力的公務を保護対象にし、かつ適法性審査を行うべきと明示すると考えてみますと、それはもはや同法第95条の構造と完全に同一のものになっているわけでして、そうしますと、強制力を行使する権力的公務について個別具体化し、その適法性を審査するという同法第95条の構造を保持しつつ、一方でコンピュータデータ加害に対応するために実行行為を一つ追加するという事務当局のたたき台の御提案は、フランス、ドイツに倣って同法第234条の2の解釈論あるいは法改正を行うよりも優れた御提案ではないかと考えます。   以上のような比較法的な位置付けは、種々の問題に解決指針を与えてくれると考えますが、発言が長くなってしまいましたため、ほかの委員、幹事の御発言を待ってから、追加で発言する機会を頂けましたら幸いです。 ○酒巻部会長 樋口幹事、丁寧な比較法的分析と位置付けについて御説明ありがとうございました。それでは、樋口幹事の御説明も含めて、ほかにこの項目についての御意見、御質問等を受けたいと思いますが、いかがですか。 ○久保委員 事務当局への質問をさせていただければと思います。   今回のたたき台を拝見しますと、規定ぶりについては刑法第234条の2の文言と類似した形になっているのではないかと思います。これまでにも今回の内容の趣旨ですとか具体例については議論させていただき、あるいは御説明いただいたこともありますので、重なる点であれば、そのように御指摘いただければとは思いますが、改めて今回出てきたたたき台の趣旨について確認する趣旨として、「損壊」、「虚偽の情報」、「不正の指令」、「その他の方法」については同法第234条の2と同様の趣旨という理解でよいのかということを、まず確認させていただきたいということが1点目になります。 ○鷦鷯幹事 御指摘のとおり、たたき台の1行目の末尾の「その電子計算機若しくは」から、4行目の末尾の「動作をさせた者」までの部分については、刑法第234条の2の文言と同様のものですので、文言それ自体の意味は同様に解するべきところであるとは思いますが、他方で構成要件全体としては同条とは別の構成要件ということになりますので、同じ文言でもそれぞれの構成要件に即した解釈がなされる余地はあろうかと思います。 ○久保委員 今の点については分かりました。ありがとうございます。 ○酒巻部会長 では、次の御質問、御意見をお願いします。 ○久保委員 次に、電子計算機に対する攻撃からの権力的公務の保護の場面といいますのは、不正指令電磁的記録供用罪ですとか電波法違反の罪、不正アクセス禁止法違反の罪、器物損壊罪などによりカバーできるものが多いように思われますが、そうしたものに該当しないと考えられる事例として、これまでに御説明いただいたもののほかに何か御説明いただけることがあれば、お願いします。 ○鷦鷯幹事 具体例をお答えするものではないのですけれども、取りまとめに向けたたたき台の罪に当たる行為が御指摘のようなほかの罪の構成要件に当たることは確かにあり得るとは思われますが、他方で該当しないこともあると考えられますし、元々それらの罪は、公務執行妨害罪とは保護しようとする法益の内容が異なり、それゆえに構成要件も異なるものですので、それらの罪が既に存在するとしたとしても、公務の保護という観点からは、別の構成要件としてたたき台のような構成要件を設ける必要があるのではないかと考えております。 ○久保委員 ありがとうございます。質問としては最後になるのですけれども、先ほど、今回の条文の用語と刑法第234条の2の用語の解釈は必ずしも一致するとは限らないという趣旨のお答えでしたが、同条では、例えばコンピュータの無断使用などは入らないというような解釈だったかと思うのですが、今回の条文についてもコンピュータの無断使用などは入らないという理解でよろしいのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 「無断使用」としてどのような行為を想定し、また、それが刑法第234条の2の罪に当たるかどうかは、具体的な場面にもよるところであると思われますので、その点について一概にお答えすることは困難です。   その上で、刑法第234条の2の文言の解釈について判示した裁判例として、例えば、刑法第234条の2の「業務に使用する電子計算機」は「一定の独立性をもって業務に用いられているもの」であることを要するとしたものがありますが、これは、この罪が、従来は人の身体的動作等によって遂行されてきた業務処理が、電子情報処理組織による自動的な処理によって行われるようになり、これにより従来に比してはるかに重大な業務妨害が行われ、かつこれが間接的には国民生活にも大きな影響を及ぼすおそれが出てきたことに鑑みて、電子情報処理組織の中心的な存在としての電子計算機に対する加害を手段とする新しい類型の業務妨害罪を定めるとともに、より重い法定刑を定めたものであることを踏まえたものと考えられます。   これに対して、たたき台に記載している罪は同条の罪とは趣旨を異にし、公務員が職務を執行するに際して電子計算機が活用され、それがその円滑な遂行の上で重要な役割を果たすということが見られるようになってきており、そうした電子計算機に対する攻撃という手段を用いた妨害行為から公務員による個々の職務の執行を保護する必要性が認められることに鑑みて、そうした電子計算機に対する攻撃を手段とする新たな類型の公務執行妨害罪を定めることとし、その法定刑は刑法第95条第1項の罪と同じものとするというものです。同法第234条の2の罪とは立法趣旨が異なっており、法定刑もそれを反映して、同条のように、それ以外の態様によるものよりも重くすることはしておりません。   このように、取りまとめに向けたたたき台の罪と刑法第234条の2の罪とは趣旨などを異にしますので、「電子計算機」の意義や、それを含め、条文に構成要件として規定している文言の意義も、同条のそれと同様に解さなければならないという理由はないと考えております。先ほど申し上げたとおり、この構成要件の趣旨に照らして判断されるべきことではないかと考えています。 ○酒巻部会長 久保委員、御質問は以上でよろしいですか。 ○久保委員 はい。 ○酒巻部会長 その上で御意見はありますか。 ○久保委員 個人的には、一般論として情報技術の発展に伴い保護すべき権力的公務があり得るということ自体を否定するものではありませんが、従来の疑義あるものを残したままにして広く処罰できるものを取り入れるだけにするということへの疑問を持っております。実際、本年成立した改正刑事訴訟法では、いわゆるGPSによる逃亡防止の規律につき、同法第98条の14第1項第3号に定める行為を正当な理由なく行えば、同法第98条の24により罰則の対象となるものとされています。この第3号にはイとして、「自己の身体に装着された位置測定端末を損壊する行為」、ロとして、「位置測定通信に障害を与える行為」、ハとして、「イ及びロに掲げるもののほか、位置測定端末による位置測定端末装着命令を受けた者の位置の把握に支障を生じさせるおそれがある行為として裁判所の規則で定めるもの」が定められております。同法第98条の24で定める法定刑は1年以下の拘禁刑です。この規定からは、既に情報技術に関わる公務執行妨害の類型につき刑事訴訟法で個別の対応をしていること、今回の規定案とは完全に重なる行為であって、その適用関係が不明で不明確であること、法定刑の均衡にも疑義があることが分かります。   その上で、仮にたたき台の案のまま導入するとすれば、刑事手続のIT化に伴う令状のタブレット呈示等の場面を主に想定して議論が始まったものであるということを前提に、解釈により不当に適用範囲が拡大されてはならないということを改めて申し上げておきたいと思います。少なくとも配布資料19の比較表の中において、諸外国では刑事手続のIT化に伴い固有の改正がなされたということではなさそうに思われました。   取り分け国家が国民に対して強制力を行使する権力的公務については、国家が国民の側からの抵抗をある程度まで甘受し、これを処罰することを差し控えた、すなわち国家権力の自己抑制の表れと理解するべきだという考え方を放棄してはならず、そうした趣旨に沿って適用の可否が検討されなければなりません。例えば、「使用目的」については、電子計算機を使用して強制力を行使する捜査機関が電子計算機の使用目的を恣意的に広げて類推解釈するような運用があってはなりません。   場面は少し違いますが、いわゆるコインハイブ事件の最高裁決定においては、パソコンの使用者の意図に反する指令を与えるプログラムであっても、社会的に許容し得る範囲であって、刑法第168条の2第1項の「不正な指令」に当たらない場合が実際に存するという判断がなされています。捜査機関による電子計算機の使用目的の範囲は、権力的公務に対する妨害行為の処罰範囲は限定的に捉えられるべきであるという従来の考え方を維持すべきことを明示した上で、恣意的に処罰範囲が拡大されないような措置が講じられなければなりません。   最後に、刑法第161条の2を残すのであれば、改正を機に同条を適用した事例の当否も含めて再度見直しがなされるべきです。つまり、同条とのすみ分けを意識し、従来の裁判例の中に本来制定時に想定されていなかったものがこの規定により処罰されていたのではないかといった批判的な検証も必要です。当部会において、同条の見直しが必要であるという限りにおいては一定の賛同を頂いていたものと思いますが、同条との整合性も含め、解釈に疑義が生じることは、それ自体、国民に大きな萎縮効果を与えかねません。 ○鷦鷯幹事 現在の刑法第161条の2は適用範囲が明確ではなく、そのため想定していないものが処罰されていないか、見直すべきではないかという御指摘は、以前にも久保委員からいただいていたところですので、その点について事務当局としての考えをお答えします。   まず、同条は、その処罰の対象を、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者」や、「不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者」と規定しており、それらの文言自体は不明確なものとはいえないと思われます。また、その上で、その通常の語義、言葉の意味を踏まえ、例えば「不正に作」るということについては、一般に、「権限なく又は権限を濫用して電磁的記録を作ること」をいうものと解されておりますし、「人の事務処理の用に供した」とは、一般に、「不正に作出された電磁的記録を他人の事務処理のため、これに使用される電子計算機において用い得る状態に置くこと」をいうものと解されているなど、解釈によって構成要件の内容はより明確化されているところです。   また、この条文については、他の刑法犯と同様に、裁判例やそれを踏まえた実務上の運用が積み重ねられており、同条の適用の可否を判断するに当たって、実務上の支障が生じているものとは認識していません。ですので、我々としては同条を改正するという必要はないと考えています。 ○吉田(雅)幹事 若干補足させていただくと、先ほど久保委員の御発言の中で、位置測定端末を装着された被告人が一定の遵守事項を守らなかった場合の罰則について言及があったように思います。また、その罪においては法定刑が1年以下の拘禁刑となっていて、今回の「第3-2」の罪の法定刑と均衡がとれていないというような御趣旨の御発言もあったかと思います。   位置測定端末を用いた制度は、今年成立した刑事訴訟法等の一部改正法により導入することとされましたが、制度の目的は、飽くまで保釈中の被告人の国外逃亡の防止であり、罰則により確保しようとする保護法益は保釈中の被告人に係る刑事司法作用であると考えられております。そして、その法定刑の設定に当たっては、同じ改正によって設けられた保護法益について共通性を有する他の罰則の法定刑との均衡の観点も踏まえて、1年以下の拘禁刑とされたものです。   それに対して、この「第3-2」の罪は、保護法益がそうした刑事司法作用という限られたものではなくて、むしろ刑法第95条で現在保護しようとしているものと同様のものです。そうした保護法益のそもそもの捉え方の違いもあり、また、同条の罪との均衡の観点も踏まえて、「第3-2」では、法定刑を3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金とすることとしているものです。 ○樋口幹事 ここまで、まず質問の部分で非常に有益な議論があったかと思います。刑法第234条の2と類似する文言で、実行行為に関しては同条と同一になり得るけれども、構成要件全体としては別で、例えば「電子計算機」の解釈は相違していいのではないかといった議論がありましたが、何が同一の解釈で、何が異なる解釈なのか、その辺りを整理しておくことが有意義かなと考える次第です。   今回事務当局から頂いたたたき台を拝見しますと、公務執行妨害罪の改正ではありますけれども、電子計算機システムの機能を包括的に保護するという限度ではドイツやフランスと同様の方向性ではないかと考えます。そうしますと、実行行為に関しては類型的にシステムを保護するものであるべきであり、刑法第234条の2と同じように包括的に、漏れがないようにコンピュータシステムの機能侵害行為を捉えるような解釈を施していくべきでしょう。したがって「損壊」、「虚偽の情報」、「不正な指令」、「その他の方法」といったものについて従来の同条と同じような解釈が成り立つのかなと考えます。   それに対して「電子計算機」は、既に事務当局から適切に御説明いただいたと思いますけれども、234条の2が、一定の判断を担うような電子計算機のみを重い法定刑で保護するのとは異なり、今回は公務執行と一体化している電子計算機を広範に保護するという形で相違が出ると思います。このような形で、刑法第234条の2を参照しつつも、同一の解釈をする部分、異なる解釈をする部分、そのような整理はしていけるのかなと考えるところです。   2点目として、先ほど久保委員からは、無断使用に関しては刑法第234条の2が適用されないとの御指摘があったかと思います。この点について、同条の文言解釈について2点あったかと思います。「使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせ」たといえないということと、「業務を妨害した」といえないという2つの要件を理由に、他人の電子計算機を無断で使っていても、積極的に意図している使用目的の阻害はないであろうという解釈と、業務妨害の解釈として外形的混乱が生じないであろうという解釈、そういった議論が立法当時になされたように記憶しております。   今回のたたき台の罪には、「業務を妨害した」という要件はありませんので、無断使用を処罰から排斥するとしたら、使用目的の阻害がないということになるであろうと思われます。ここでいう使用目的というのは、自分の持っているコンピュータを勝手に使われたくないといった一般的な意図ではなく、現に執行される公務に利用されるものという個別具体化がなされるわけです。先ほどコインハイブ事件などの具体例が挙がっていましたが、勝手にコンピュータが作動するということ全般が処罰されるわけでなく、個別具体化された使用目的の阻害、そういったものを必要とされることで無断使用が処罰から排斥されるのかなと考えます。   これに加えまして、ここまでは刑法第234条の2と共通するような解釈になるかと思うのですけれども、たたき台は公務執行妨害ですので、適法性要件が掛かってきまして、ここでいう使用目的も適法なものという制限が掛かってくると考えることができます。そうしますと、捜査機関が恣意的に使用目的を決するなどということは、このたたき台ではできませんので、国家が自由にこの動作阻害に関して処罰できるようになるといった事態は生じないような御提案を頂いたのかなと理解しているところです。   ここまでの議論を受けたコメントは以上なのですけれども、補足で少し追加してもよろしいでしょうか。   刑法第234条の2と今回の罪の重複をどうするのかという問題もあるかと思います。同条と今回のたたき台は類似しているのですけれども、法定刑は違いますし、未遂処罰の有無も違いますし、趣旨に応じて要件解釈が同じところ、違うところがあるということですので、公務執行妨害罪を改正しても、同条が公務に適用されるということはもちろん可能であり、更に言えば、同条が強制力を行使する権力的公務をも保護するという解釈論を排斥するような立法ではないといった位置付けも可能かなと考えるところです。   最後に、久保委員からはこれまで、情報技術の発展に合わせて個々的な罰則を作ることができるのではないかという提案を繰り返し頂いておりまして、それはもちろん一つの合理性がある御指摘かと思いますけれども、やはり英米法だけでなくフランスやドイツを見ておりましても、コンピュータ加害、データ加害を類型的、広範に処罰するという方向に世界的な流れにはなっているのではないかと思います。日本の刑法第234条の2もそういうものでしたが、強制力を行使する権力的公務だけがどうなっているか分からない状態でした。たたき台の罪は、刑事手続のIT化をきっかけに考えられたものですけれども、強制力を行使する権力的公務を包括的に、コンピュータシステムに担われている限度では、包括的な保護対象にするということを立法で明示するという御提案は、比較法の表を拝見しましても、このような政策を不当と見るような理由はないのかなと思います。久保委員におかれましても、賛同していただけるかどうかはともかく、そういった方向性が一つの合理的な考え方であるという限度であればお認めいただけるのではないかなどと思うのですけれども、いかがでしょうか。 ○酒巻部会長 有益な議論をありがとうございました。ほかに、「第3-2」の公務執行妨害行為の処罰規定の創設について、御意見等ございますでしょうか。よろしいですか。   それでは、ここで10分ほどの休憩に入りたいと思います。             (休     憩) ○酒巻部会長 会議を再開します。   次に、「新たな犯罪収益の没収保全等の手続の導入」について議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料17の「第3-3」に記載された内容について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料17の4ページを御覧ください。   「第3-3 新たな犯罪収益の没収保全等の手続の導入」の枠内の「1」には、暗号資産等の没収保全手続に関する規律を記載し、「2」には、「1(3)イ」による命令に違反した者についての罰則を設けることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。まず、「(1)」として「暗号資産等の没収の裁判の執行の手続」を掲げています。この点に関しては、民事執行法の規定とは別に、暗号資産等の没収の裁判の執行の手続も設けることとするかなどの点が、検討課題となります。また、「(2)」として掲げている「命令に違反する行為についての罰則」に関しては、「1(3)イ」の命令違反行為を処罰する罰則の法定刑は、どのようなものとするか、命令に違反する行為をした者が法人の業務に関して当該行為をした場合には、当該法人も罰するものとするかなどの点が、検討課題となります。「(3)」は、その他です。 ○酒巻部会長 まず、ただいまの説明内容に関して御質問等はありますか。   それでは、「第3-3」についての議論の進め方としては、配布資料の4ページに掲げられた検討課題について順次議論を進めていきたいと思います。まず検討課題の「(1)暗号資産等の没収の裁判の執行の手続」について御意見を伺います。御意見のある方は挙手などした上で、御発言をお願いします。 ○佐久間委員 検討課題「(1)」の「暗号資産等の没収の裁判の執行の手続」について、意見を申し上げます。   取りまとめに向けたたたき台の暗号資産等の没収保全に関する規律は、当部会におけるこれまでの議論が十分に踏まえられたものと理解しております。この規律によって検察官に移転して保全された財産権について没収の裁判が確定した後は、これを執行することとなりますが、ここで、この没収保全によって暗号資産等が検察官の下にある状況で没収の裁判が確定した場合には、そのまま国庫に帰属させればいいのですが、そうではない状況で没収の裁判が確定した場合には、没収の裁判の執行については、刑事訴訟法第490条第2項が「民事執行法・・・その他強制執行の手続に関する法令の規定に従ってする」と規定しているので、これによることとなります。   もっとも、民事執行法には、取りまとめに向けたたたき台の制度案のように、権利者の下にある暗号資産等を移転したり、権利者に命じてこれを移転させたりする制度は規定されていません。これについて、取りまとめに向けたたたき台の制度案は、暗号資産等の移転を強制することを内容とするものであり、その内容は、没収の裁判の確定後にこれを執行する場合、すなわち、権利者の下にある暗号資産等を強制的に剝奪して国庫に帰属させる場合についてもそのまま応用することができるのではないかと考えられます。   そこで、暗号資産等の没収の裁判の執行については、民事執行法の規定によるのではなく、取りまとめに向けたたたき台と同様のことができるものとする規律を設けることを検討する必要があるのではないかと思われます。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(1)」につきまして、いかがでしょうか。   それでは、次に、検討課題の「(2)命令に違反する行為についての罰則」について、御意見を伺いたいと思います。 ○安田委員 私の方からは、検討課題の「(2)」の「①」、「②」について意見を申し上げたいと存じます。   まず、法定刑についてですが、取りまとめに向けたたたき台「1(3)イ」の命令は、暗号資産等の没収保全のための措置の核心部分となるものでして、これに応じないことは、没収保全を不能にし、あるいはこれを著しく困難にする行為ですから、当該命令に違反する罪の法定刑は、そうした行為の悪質性や法益侵害の内容・程度に応じたものとするべきであるように思われます。   ここで参照されるべきと思われますのは、刑法第96条の2の強制執行妨害目的財産損壊等罪であるように思われます。すなわち、没収の裁判の執行は、刑事訴訟法第490条第2項により「民事執行法・・・その他強制執行の手続に関する法令の規定に従ってする」こととされており、例えば没収対象物の引渡しの執行がこれに当たるわけですが、これを妨害する行為についは、刑法第96条の2の強制執行妨害目的財産損壊等罪や、同法第96条の3の強制執行行為妨害等罪が成立するものと解されておりまして、また、これら強制執行等の罪は、民事保全法に定める保全執行手続を妨害する行為についても成立すると解されております。これらの罪の法定刑は、いずれも3年以下の懲役又は250万円以下の罰金であり、併科も可能でございます。   この点、「1(3)イ」の命令に違反する行為がなされた場合、犯罪収益に該当する暗号資産等の没収保全の前提となる暗号資産等の移転が不可能となるわけですから、例えば、目の前の金庫の鍵をのみ込まれてしまい金庫に手出しができなくなるのと実質的に同様であり、その実質的意義は刑法第96条の2に定める隠匿に等しく、当罰性の程度においてもこれに匹敵するものであるように思われます。そうだとしますと、当該命令に違反する行為についての罰則の法定刑を定めるに当たっては、強制執行妨害目的財産損壊等罪などの法定刑が一つの手掛かりになるのではないかと思われます。   その一方で、「1(3)イ」の命令に違反する行為については、次のような方向性を異にする複数の観点もあり得るように思われます。その一つは、当部会第10回会議で樋口幹事が指摘されたところでありますが、没収妨害行為としてマネー・ローンダリング行為に準ずるような悪性を持つものとの評価が可能であるという観点です。すなわち、移転を命じられる財産権は、犯罪収益や犯罪収益に由来する財産等として没収の対象となるものであり、その没収を確実なものとするための命令に違反する行為は、これがその後に犯罪組織の維持・拡大に用いられたり、将来の犯罪に再投資されたりすることにつながるという点で、単なる財産の取上げを内容とする手続を妨害するのにとどまらず、マネー・ローンダリング行為としての性格を有するといい得るようにも思われます。そうだとすると、その当罰性については、それに準じるより重いものと評価する余地もあるように思われます。   他方、もう一つの観点といたしまして、行為態様の消極性が問題となり得ます。先ほど、当該命令違反行為は隠匿に匹敵する当罰性を持ち得るのではないかと申し上げましたが、その行為態様は、単に命じられた作為をしないという消極的態様にとどまるものだと見る余地も残されています。当罰性の評価に当たっては、こうした観点も考慮する必要があるのではないかと思われます。   「1(3)イ」の命令に違反する行為についての罰則の法定刑は、これらの観点も踏まえつつ検討される必要があるように思われるところであります。なお、当部会第10回会議で既に樋口幹事が指摘されているところの繰り返しにはなりますが、被疑者・被告人を相手方とする場合でも、刑罰を免れようとする行為が免責されないのと同様、これは要するに刑罰としての没収を妨害する行為であり、適法行為の期待可能性は当然に認められますので、このことは法定刑を下げる方向での考慮とはならないことは当然の前提だと解されます。   以上のほか、先ほど佐久間委員から御意見がございましたように、暗号資産等の没収の裁判の執行の手続として、取りまとめに向けたたたき台の制度案と同様の財産権の移転を命じることを可能とする制度を設ける場合には、その命令に違反した行為についての罰則をも設ける必要があるように思われますが、その法定刑についても、先ほど申し上げたところと同様の観点から検討することが一考に値するように思われます。   続きまして、両罰規定についてですが、没収保全の対象となる暗号資産等の権利者は自然人の場合に限られず、法人であることもあり得ます。そして、それが取りまとめに向けたたたき台「1(3)イ」の命令の対象者となり、その場合に従業者等が組織ぐるみで命令違反行為に及ぶといったことも十分想定されますので、両罰規定を設け、法人についても刑罰を科すことができるようにしておくことにも十分な合理性があるのではないかと考える次第でございます。              (渡邊委員退室) ○酒巻部会長 罰則についての検討課題「(2)」について御意見等はありますか。 ○久保委員 罰則に関して3点申し上げます。   1点目に、法定刑ですが、先ほど3年という数字につきまして、強制執行妨害と同様であるという御説明を頂きました。ただ、御紹介いただいた刑法第96条の2が定める強制執行妨害目的財産損壊等罪は、財産の隠匿、損壊、財産の譲渡の仮装や債務の負担を仮装するなどの積極的な妨害行為を対象としているものであり、同様の規定である同法第96条の3が定める強制執行行為妨害等罪についても、偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害する行為を対象とするものである、というものになっています。これに対し、保全に対して協力しないということは、言わば不作為ですので、これと同様の処罰ということは法定刑としては重いものと考えます。   2点目に、罰則の運用の在り方です。取り分け有罪判決が決まっていない早い段階での罰則付きの命令を発するということは、後で回復できない損害を与えることになりかねないということは、これまでも指摘させていただいたとおりであり、取り分け慎重であるべきです。これに関連して、事前事後の不服申立て手段が重要になるということも、これまで申し上げたとおりであり、この案の中にもそれ自体の記載はありませんが、当然の前提になっているものと思われます。念のため、当然、暗号資産の性質に適した不服申立て手段が設けられなければならないということは指摘しておきたいと思います。   3点目に、先ほど佐久間委員から御提案があり、今、安田委員の方でも御指摘のあった執行に関する手続の罰則に関してですが、佐久間委員の御提案の趣旨も罰則を含むという趣旨であれば、それについては反対をさせていただきます。これも同様に、結局のところ、不作為について罰則を定めるものですが、例えば、現行法において罰金の裁判を執行する際に、それを支払わないとしても、それ自体は犯罪ではありません。また、これについてはこれまで十分に議論されていたところでもなく、このような中で新たな罰則を設けるということは、それ自体、罰則を余りに軽視するものと言わざるを得ません。立法事実は、現在の必要性に関する事実はもちろん、将来生じるであろう効果や影響まで視野に入れて、できるだけ客観的なデータによりその合理性を含めた検討が必要ですし、国民の権利自由の制限につながるものである場合には、その制限は必要最小限のものでなければなりません。不当な侵害に対しての救済の道があるということも必要です。そうした具体的な議論なく導入することは、思い付きでの罰則との批判を招きかねず、反対です。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題「(2)」について御意見、御質問等はありますか。 ○樋口幹事 既に安田委員から適切に御説明いただいたかと思いますけれども、法定刑を定める際には何か手掛かりが必要であり、強制執行妨害罪は飽くまで参照点です。安田委員もそれを参照しながら、不作為の態様であることも勘案し、一方でマネー・ローンダリング罪との共通性という観点も勘案しながら検討すべきとの御提案であったかと思いますので、隠匿や損壊、仮装などと同等の法定刑とすることは重すぎるという御指摘は直ちに当たるものではないのではないかと考えます。   その延長になりますけれども、執行段階での罰則に反対という御意見は理解できるところではございますけれども、犯罪収益を保持させないというのは国際的な非常に強力な要請でございまして、執行段階に同一の枠組みを作るということは、マネー・ローンダリングとの同一性に鑑みますと、むしろ必須ではあるまいかとさえ思えるところだと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題「(2)」の罰則について御意見等はありますか。   それでは、次の検討課題「(3)その他」の議論に入ります。この検討課題では、配布資料の「第3-3」に関し、取りまとめに向けたたたき台に記載されている事項全体について、事務当局に対する御質問や御意見等をお願いしたいと思います。 ○久保委員 たたき台の枠囲みの中の「権利者」の意義について意見を申し上げます。この規定につきましては、組織的犯罪処罰法第31条を参照しているものだと思いますが、主に目的とするのは、これまでも指摘のあったように暗号資産だと思いますので、まず暗号資産を対象とする場合について発言させていただきたいと思います。   「1(2)」の財産権の権利者と「1(3)イ」の当該財産権を移転することができる権利者がどういう関係にあるのかが、この規定からは明らかではありません。財産権の権利者の中でも、自分で端末を操作したりして暗号資産を動かせる状況にある権利者のことを当該財産権を移転することができる権利者といっているのか、あるいはそれだけではなく、例えば、Aさんが自分の暗号資産をBさんに預けた場合、つまり現時点でBさんが秘密鍵を管理している場合に、Aさんが財産権の権利者、Bさんが当該財産権を移転することができる権利者というように、AとBが別人になることも想定されているのか。この表現から、権利者とある以上は、今申し上げたうちの前者なのだと思いますが、仮に後者だとすると、そもそも今申し上げた事例の場合にAさんを財産権の権利者といってよいのかどうか、すなわち、所有と占有の一致型とするのかどうなのか、この点、AさんはBさんに対する債権を有しているだけではないかという点については争いがあり得るところでもありますので、解釈に問題が生じることが考えられます。   この点について深入りするつもりはありませんが、暗号資産についてはそもそも権利性ですとか権利者に関して様々な見解が分かれておりまして、いまだ決着が付いていないところであり、どのような立場を前提にするかについても特に合意をしているものではありません。暗号資産の財産権の権利者が誰であるかの認定は、ほかの財産とは異なる特有の難しい場面が出てきます。それ以外にも、暗号資産にはその性質上、そもそも名義人が存在しないといった問題もあります。現場においてこの規定を使う際には、暗号資産に関する正しい理解を前提とした慎重な運用を求めます。 ○酒巻部会長 今の久保委員の御意見について、事務当局から何か応答はありますか。特にありませんか。   それでは、ほかに「その他」につきまして御意見があれば、挙手をお願いいたします。 ○池田委員 「第3-3」の全体について、意見を申し上げます。   取りまとめに向けたたたき台の「1(3)」では、検討のためのたたき台の点線枠内と同様に、暗号資産等の財産権の移転先を「検察官」としています。これは、現行の組織的犯罪処罰法に規定された没収保全命令の執行が検察官の指揮によるとされていることや、諸外国の運用において移転先を警察等の当局が管理するウォレットとする例があることなどを踏まえたものと思われます。   また、先ほど佐久間委員から御発言があったように、取りまとめに向けたたたき台に記載されている没収保全の手続とは別に、没収の裁判が確定した後におけるその執行方法として、暗号資産等を移転する手続を設けるとすれば、その移転先を「検察官」以外とする理由は特にないものとも考えられます。   他方で、没収保全は、刑罰である没収の裁判が確定していない段階、すなわち、被告人の有罪・無罪がいまだ確定していない段階において行われるものです。この段階で行われる保全の手続は、組織的犯罪処罰法以外の法令にも規定されており、そうした保全手続の対象となる財産をどのような機関あるいは者がどのように管理するものとするかについては、当該法令に規定する手続による保全の目的や対象財産の性質に照らして、それぞれ相応の規定が置かれているのではないかと思われます。   そうだとしますと、新たに暗号資産等の没収保全について、これまでになかった制度を設けるに当たっても、そうした組織的犯罪処罰法や、それ以外の法令に規定されている既存の制度との言わば横並びの視点や、それらの制度の立て付けとの整合性といった視点からも検討しておく必要があるようにも思われるところです。   そのような観点からは、暗号資産等の没収保全の手続における暗号資産等の移転先についても、必ずしも「検察官」に限らず、例えば、組織的犯罪処罰法に既に規定されている他の財産の類型についての没収保全の手続、すなわち、不動産、船舶等、動産、債権の没収保全の手続において、没収の裁判が確定するまでの間、当該財産の管理をどのような機関あるいは者がどのように行うものとされているかといったことや、あるいは追徴保全命令が執行される場合においてはどうかといったことと整合性のとれた制度となっているかという観点からも、今一度確認しておくことには意義が認められるのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「(3)その他」について御意見等はありますか。 ○近藤幹事 「1(3)」に関するただ今の池田委員からの御発言に関連してですけれども、没収保全された暗号資産等の移転先を「検察官」とすることにつき、これまでの部会で異論は示されていなかったところではありますが、新たに池田委員から御指摘もございました。しかしながら、検察官を含む捜査機関が証拠収集の一環として、判決の確定前に各種物件を押収するなどして保管する場面は、現状でもごく日常的に見られるところです。暗号資産等の没収保全の場面においてのみ検察官による保管を問題視する必要はないのかなと思われます。   あえて没収保全された暗号資産等の移転先を「検察官」とすることの懸念点を考えてみますと、没収判決の確定前という本執行前の時点において、仮のものではあるものの、本執行と同様の外形が没収保全により作り出されてしまうという過剰処分の観点からの懸念が考えられるところではあります。しかしながら、仮にではありますがこのような外形ができてしまうというのは、正に暗号資産の特質によるものでございます。暗号資産等の場合には、取引所を介する場合を別とすれば、債権の場合のような第三債務者が想定できず、保全のためには暗号資産等そのものの権利主体を移転するしかないという事情があるということによるものです。また、判決による権利確定前に一方当事者にこのような保全を許すというような事態は、現行の民事法分野においても想定される事態でありまして、問題視すべきものとはなり得ません。   もう一つ懸念をあえて挙げるとすれば、検察官が一方当事者であり、保管者としての中立性を欠くのではないかという点だと思われます。しかしながら、先ほど申し上げたように、検察官が各種物件を押収するなどして保管する場面は現状でもごく日常的に行われています。それが問題視されていないのは、検察官が公益の代表者であり、法律専門家であるという信頼に基づいているからであると考えられます。また、そもそも暗号資産は改変等が極めて困難な財産権でありまして、保管者である検察官がその権利内容を変更するというのも、これもまた極めて困難なことでございます。   このような事情を踏まえて、これまでの部会では没収保全された暗号資産等の移転先として最も適切なのは検察官であるということで異論がなく、取りまとめに向けたたたき台の実線枠内に記載されるところになったと承知をしております。 ○酒巻部会長 いろいろな考え方があることがよく分かりました。御意見ありがとうございました。   ほかに、検討課題「(3)その他」についての御意見等はよろしいでしょうか。   それでは、これで「第3-3 新たな犯罪収益の没収保全等の手続の導入」についての議論は、ひとまず終えることにしたいと思います。   それでは、続きまして「第3-4 通信傍受の対象犯罪の追加」についての議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料17の「第3-4」に記載された内容について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料17の5ページを御覧ください。   「第3-4 通信傍受の対象犯罪の追加」の枠内には、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律別表第2に掲げる通信傍受の対象犯罪に刑法第236条第2項、第246条第2項及び第249条第2項の罪を加えることを記載しています。   この「第3-4」には、特に議論すべき「検討課題」を記載しておりませんが、枠内の記載の当否・要否を含め御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 ただいまの第3-4についての説明内容に関して、御質問等はありますか。   それでは、ただいまの説明にありましたとおり、このテーマには検討課題の記載はありませんので、たたき台の枠内に記載されている内容について、事務当局に対する御質問や御意見等をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○久保委員 この点については、これまでにも反対の立場で意見を申し上げました。諮問の対象内か対象外かの選別基準が明確でないということ自体が問題ですが、その上で通信傍受については、第10回の部会で、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」で議論の対象になっていることについて指摘させていただきました。その後開催された第7回の協議会の会議において、期間を原則10日、最大30日とする法定の最長期間まで傍受が実施されている例が複数あるといった実情が明らかになっているほか、傍受したデータの削除の実情に関する懸念の観点での質問などもされていました。当部会が対象犯罪を拡大するということは諮問の対象とできたとしても、現状を検証して問題の有無を検討することを対象とする場でないのであれば、まずは現状の検証こそ先行されるべきです。先ほど申し上げた協議会でも、対象犯罪の拡大も通信傍受の実施の適正が確保されることを前提として図られたものとの指摘もされていました。通信傍受法は国民の権利を大きく制約することを前提に制定されており、平成11年当時から国会でも様々な懸念が指摘されていました。対象犯罪が拡大すれば、その分、国民の権利が制約される場面が拡大するのは当然の帰結です。単に1項があるものに2項を追加するというだけではなく、今後更に現在の通信傍受法の運用や規定についての検証が、在り方協議会や国会の場できちんと議論されることが不可欠だと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに、通信傍受の対象犯罪拡大につきまして御意見、御質問はありますか。事務当局からは何かありますか。 ○鷦鷯幹事 御指摘がありましたので、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」との関係について、一言だけ申し上げます。御指摘の「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律、これは平成28年法律第54号ですが、この法律の附則第9条により法務省が行う検討に資するために、同法による改正後の規定の施行状況を始めとする実務の運用状況を共有しながら、意見交換を行い、制度・運用における検討すべき課題を整理するために開催されているものでして、同協議会においても、御指摘のとおり、平成28年の刑事訴訟法等一部改正法による改正後の通信傍受法の規定の施行状況をはじめとする通信傍受の実務の運用の状況が協議の対象となっているものと承知しております。   他方で、当部会は、諮問事項「三」として、「情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処できるようにすること」についても調査審議を行うことが要請されているところですので、通信傍受の対象犯罪に不足がないかというような観点からの検討をすることについては、特に支障はないものではないかと考えているところです。 ○酒巻部会長 ほかに御意見、御質問はありますか。   それでは、これで配布資料17の「取りまとめに向けたたたき台(諮問事項「三」関係)」の「第3-1」から「第3-4」までの各テーマについての議論を終えたことになるわけですが、最後に諮問事項「三」全体につきまして、配布資料17の枠内や検討課題に明記されていない点に関するものも含めて、ほかに御意見等はありますでしょうか。   それでは、これで諮問事項「三」に関する取りまとめに向けたたたき台に基づく審議はひとまず終えることにしたいと思います。   本日の審議はここまでにしたいと思いますが、本日までの議論を踏まえて、今後の審議の進行方法について、御提案させていただきたいと思います。   当部会では、本日を含めた3回の会議で、取りまとめに向けたたたき台に基づいて当部会としての意見の取りまとめに向けた具体的な議論を更に重ねてまいりました。皆さん御協力、本当にありがとうございました。これまでの御議論の状況を踏まえますと、議論は相当熟しておりまして、当部会として結論を提示する段階に入っていると考えております。そこで、事務当局には、本日の議論も含めて、これまでの議論を踏まえ、「試案」を作成してもらい、次回は、それに基づいて、諮問事項について最後の詰めの議論を行いたいと思っております。その作成に当たっては、事務当局において、これまで材料にしてきた取りまとめに向けたたたき台を改めて精査してもらい、条文化をした場合の規定ぶりなどについても意識をしながら、より適切なものが考えられるのであれば、それを示してもらうこととしたいと思いますが、そういう形で「試案」をまず作ってもらうという進め方で皆さん、よろしいでしょうか。              (異議なし) ○酒巻部会長 御賛同ありがとうございました。それでは、そのような形で進めさせていただきたいと思います。   今後の会議の日程等について事務当局からお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回の第14回会議は、令和5年12月4日午前10時からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては別途御案内を申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明記した議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。また、今日の配布資料につきましても公開することとしたいと思いますが、そのような扱いでよろしいでしょうか。              (異議なし) ○酒巻部会長 どうもありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれで閉会といたします。皆さま、どうもありがとうございました。 -了-