法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  令和5年12月4日(月)  自 午前10時01分                       至 午前11時29分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 それでは、ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第14回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日は御多忙のところお集まりいただきありがとうございます。   本日、安田委員はオンライン形式により出席されておられます。   それでは、事務当局から配布資料についての説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、配布資料20として「試案」をお配りしています。配布資料の内容については後ほど御説明いたします。配布資料に不足のある方はいらっしゃいますか。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入ります。   前回の会議において御了承いただいたとおり、事務当局において、これまでの議論を踏まえ「試案」を作成していただいたので、本日はこれに基づいて、諮問事項について詰めの議論を行います。   まずは、事務当局から配布資料20「試案」についての説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 それでは、配布資料20「試案」について御説明します。   この「試案」は、これまでの当部会の御議論を踏まえて、当部会における議論全体の取りまとめに向けた案として作成したものです。   その内容は、第11回会議から前回会議までの3回の会議において用いた三つの取りまとめに向けたたたき台とおおむね同様ですが、条文化を意識した技術的修正を行ったほか、当部会での御議論を踏まえて、追加をしたり変更したりしている部分もありますので、そうした実質的な変更点を中心に御説明します。   まず、「試案」の1ページから5ページまでの「第1-1 訴訟に関する書類の電子化」を御覧ください。   1ページの「2(1)ウ」には、刑事訴訟法第46条と同じ趣旨のものとして、訴訟関係人が、自己の費用で、電磁的記録をもって作成された裁判所等に記録されている事項の全部又は一部を記載した書面やこれを記録した電磁的記録でその内容が当該裁判所等に記録されている事項と同一であることの証明がされたものの交付又は提供を請求することができるものとすることを追加しています。   次に、2ページから3ページにかけての「3(1)エ」には、そのただし書として、「令状の請求並びに略式命令の請求及びこれと同時にする公訴の提起その他裁判所の規則で定めるもの」は、「3(1)エ」本文による電子情報処理組織を使用する方法等による申立て等の義務の対象としない旨を加えています。   これは、第11回会議において、「3(1)エ」本文による電子情報処理組織を使用する方法等による申立て等の義務付けについては、その対象とすることにより、かえって円滑迅速な実務運用が阻害されることが起きないよう配慮する必要があるとの御意見があったことを踏まえ、一律に「3(1)エ」本文による義務付けの対象とすることでかえって非効率となる場合が生じ、手続の円滑化・迅速化の実現を阻害する結果となりかねないと考えられるものをその例外として掲げることとしたものです。   そのほか、第11回会議における御議論を踏まえ、3ページに、新たに「4」として、「電磁的方法による告訴・告発等」を記載し、「6(1)」には、刑事訴訟法第157条の6第3項と同趣旨の規律の対象とするビデオリンク方式による証人尋問の類型に、「試案」の「第2-3」「1(1)」の各類型のうち「イ」を加えたほか、5ページの「7(3)」に、刑事訴訟法第321条第1項第1号の「裁判官の面前」についても、「映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法による場合を含む旨を規定すること」を記載するなどの修正をしています。   次に、「試案」の6ページから10ページまでの「第1-2 電磁的記録による令状の発付・執行等に関する規定の整備」を御覧ください。   まず、7ページの「2(3)イ」に、電磁的記録による差押状を処分を受ける者に示す方法として、「処分を受ける者をしてその使用に係る電子計算機の映像面その他のものに表示させて示す方法」を加えるとともに、9ページの「6(3)」において、先ほどの「2(3)イ」を含む「2(3)」は、検察官、検察事務官又は司法警察員がする差押え又は検証についても同様とするものとしています。   また、8ページの「3(1)」及び「3(2)」には、それぞれ「ただし書」として「相手方が異議を述べたときは、この限りではないものとする」旨を加え、この場合には証明書や目録は紙で交付するものとしています。   次に、「試案」の11ページから13ページまでの「第1-3 電磁的記録を提供させる強制処分の創設」を御覧ください。   まず、11ページの「1(1)」及び12ページの「5(1)」において、電磁的記録提供命令の対象となる電磁的記録を、「証拠となる電磁的記録と思料するもの」から「必要な電磁的記録」に改めています。   また、「3」として「目録の交付」を記載し、12ページの「5(3)」には、「5(1)」の令状は、処分を受ける者に示さなければならない旨を加えています。   同じ12ページの「5(7)」には、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、「5(4)」の秘密保持命令をした場合において、「その必要がなくなったときは、その命令を取り消さなければならないものとすること」を記載しています。   これは、第11回会議において、秘密保持命令の効力は必要な限度で生じさせるべきであるとの御意見があったことを踏まえ、その効力の存続期間については命令を発する時点で定めるのではなく、必要がなくなったときに取り消さなければならないものとすることが適当と考えられることから、そのような規律としたものです。   13ページの「9」には、電磁的記録を提供させる強制処分を創設することに伴い、記録命令付差押えを廃止することを記載しています。   次に、「試案」の14ページから16ページまでの「第1-4 電磁的記録である証拠の開示等」については、内容に実質的な変更はございません。   次に、「試案」の17ページの「第2-1 刑事施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の創設」を御覧ください。   ここでは、「1」について、第12回会議において、裁判所に引致することが困難となることは、逮捕された被疑者について勾留が請求されたときに限らず、いわゆる逮捕中求令状起訴や別件勾留中求令状起訴の場面においても生じ得るから、そうした場合についても、刑事施設等に被告人を在席させてビデオリンク方式により勾留質問を行うことができるものとする仕組みを設けることを検討する必要があるのではないかとの御意見があったことを踏まえ、「1」の方法により勾留質問をすることができる場合を、「刑事施設又は少年鑑別所にいる被告人に対し刑事訴訟法第61条の規定による手続を行う場合において、被告人を裁判所に在席させてこれを行うことが困難な事情があるとき」に改めています。   次に、「試案」の18ページから20ページまでの「第2-2 映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設」を御覧ください。   ここでは、第12回会議における御議論を踏まえ、まず19ページに、新たに「2(1)ウ」として、令和5年の刑事訴訟法等一部改正法による改正後の刑事訴訟法の規定により、控訴裁判所が判決を宣告する公判期日への出頭を命じた被告人による当該公判期日への出頭については、「2(1)ア」のビデオリンク方式による出頭は準用しないものとすることを加えるとともに、「2(2)ア」において、被害者参加人が公判期日に出席するかどうかにかかわらず、被害者参加人の委託を受けた弁護士がビデオリンク方式により公判期日に出頭することを許すことができるものとする修正をしています。   次に、「試案」の21ページ及び22ページの「第2-3 証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充」を御覧ください。   ここでは、21ページの「1(1)」及び「2」、22ページの「3」において、それぞれ「証人」、「鑑定人」、「通訳人」は「国内にいる者に限る」ものとしています。   これは、第12回会議においても指摘があったように、国外にいる証人について、ビデオリンク方式で尋問を実施するときは、偽証罪の威嚇力が劣ることから虚偽供述の誘引が類型的に強く働き、裁判における事実認定を誤らせるおそれが類型的に大きく、相当でないと考えられること、そのことは鑑定人を尋問したり、通訳人に通訳をさせたりする場合にも同様に当てはまるものと考えられることによるものです。   次に、「試案」の23ページ及び24ページの「第3-1 電磁的記録をもって作成される文書の信頼を害する行為を処罰するための罰則の創設」を御覧ください。   ここでは、24ページの「7(1)」において、「6」の電磁的記録については「行使」のみを規定するものとする修正をしています。   次に、「試案」の25ページの「第3-2 電子計算機損壊等による公務執行妨害の罪の創設」については、内容の実質的な変更はございません。   次に、「試案」の26ページ及び27ページの「第3-3 新たな犯罪収益の没収の裁判の執行及び没収保全等の手続の導入」を御覧ください。   ここでは、第13回会議における御議論を踏まえ、新たに「1」として「暗号資産等の没収の裁判の執行等」を加え、「2(3)」の没収保全命令の執行方法について、「ア」及び「イ」において、「当該財産権を検察官に移転すること」から「当該財産権を検察官の管理に移すこと」に改め、「3(1)」の「1(1)イ」又は「2(3)イ」の命令違反の罰則の法定刑を3年以下の拘禁刑又は250万以下の罰金とし、「3(2)」として、法人の代表者等がその法人等の業務に関して「3(1)」の命令違反行為をしたときについての両罰規定を加えています。   最後に、「試案」の28ページの「第3-4 通信傍受の対象犯罪の追加」については、「取りまとめに向けたたたき台」からの変更はありません。   配布資料20についての御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して何か一般的な御質問はありますか。よろしいですか。   それでは、「試案」に基づいて議論を行いますが、進め方としては、これまでの議論状況に鑑み、諮問事項に沿いまして、まず、「試案」の「第1-1」から「第1-4」までについて議論をし、続いて、「試案」の「第2-1」から「第2-3」までについて議論をします。その後、「試案」の「第3-1」から「第3-4」まで議論を行います。その上で、最後にそれ以外の事項について更に補足すべき御意見があれば、これをお伺いする時間を設けたいと思いますが、以上のような進行方法でよろしいですか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   では、まず「試案」の「第1-1 訴訟に関する書類の電子化」から「第1-4 電磁的記録である証拠の開示等」までについて議論を行います。御質問、御意見等のある方は挙手などした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○近藤幹事 「試案」の「第1-1」「2(1)イ」の弁護人による電磁的方法による閲覧・謄写について、念のため事務当局に質問をさせてください。   「試案」によりますと、電磁的方法による閲覧・謄写の対象は、「訴訟に関する書類又は証拠物」とされていますが、これは裁判所において紙媒体である書類や有体物である証拠物として管理されているものを電磁的記録化した上で、電磁的方法による閲覧等の対象とするということを想定したものではなく、元々電磁的記録として既に管理されている訴訟に関する書類等を電磁的方法により閲覧等することを可能にする規定であると理解をしていますが、そのような理解でよろしいでしょうか。 ○鷦鷯幹事 事務当局からお答えいたします。御指摘のとおりの理解で間違いありません。 ○向井委員 同じく「第1-1」の「2(1)イ」についてです。裁判長の許可を必要としている点に関して意見を申し上げます。   この点については、部会第11回会議において、事務当局から、当該事件の性質や当該電磁的記録の内容等を踏まえ、弁護人にこれを複写させた場合における情報流出のリスクや関係者の名誉、プライバシー等に与える影響の程度と、当該電磁的記録の複写物を得ることによる弁護人の防御活動上の利便等を勘案して、許可をするかどうかを判断するという枠組みが示されたところですが、提出された証拠のうちどれが重大なプライバシー等に係る証拠であるのか熟知しているのは証拠を提出する当事者であり、証拠の中に含まれている情報を裁判所が逐一確認して複写やオンライン閲覧・謄写になじまない情報が含まれていないかを後見的にチェックすることは事実上不可能であるように思われます。   証拠開示の場面において検察官が電磁的記録の複写やオンライン閲覧・謄写を認めなかった証拠については、裁判所においても同様の対応をとることが基本的には適切と考えられることからすると、検察官がそのように判断した理由を含め、裁判所に適切に情報提供される必要があるように思われます。そのような情報提供の仕組みを要綱の中で規律することを求めるものではありませんが、適切な運用を実現するためにも、そのような情報共有の在り方も含め、今後更に検討していく必要があると考えております。 ○酒巻部会長 御意見を、ありがとうございます。事務当局から何か応答ありますか。 ○鷦鷯幹事 御指摘の規律については、裁判所が保管する訴訟に関する書類等は裁判所の責任において保管されるものであることから、これを複写等させる場合の弊害の有無・程度といったことを裁判所において判断することができるものとするため、裁判長の許可に係らしめるものとしていますが、御指摘のように、訴訟記録の中には検察官が刑事訴訟法第299条第1項による開示の際に弁護人に謄写をさせていないものも含まれることなどからしますと、裁判長による許否の判断に当たって検察官から必要な情報が提供されることは重要であると考えています。 ○久保委員 「第1-1」から「第1-4」までに関して申し上げます。   まず、「2(1)」の「ア(ア)」について、現行法でも電磁的記録である証拠、例えば防犯カメラや取調べ録音・録画記録媒体などについては、電磁的記録の複写、電磁的記録を映写しているものをビデオカメラで撮るなどの謄写の方法が認められていると思います。問題は、電磁的記録である証拠の謄写の方法が複写に限られておらず、印刷や電磁的記録を映写しているものをビデオカメラで撮るなどであっても謄写させたことになること、すなわち弁護人には複写の権利が認められないということになっていることにあります。複写には裁判長の許可が必要とされますので、印刷はできても複写は許可されないという可能性があります。   これに関連して、「第1-4」の証拠開示についても同様の問題があります。公判前整理手続に付された事件以外では、そもそも謄写の権利がないという前提の問題があります。公判前整理手続に付された事件及び裁判所の訴訟記録は謄写の権利が認められているのに、その謄写の方法が複写に限られないということが問題だと考えます。電磁的記録には印刷では失われてしまう情報がありますので、複写でも印刷でもよいとするのは問題であり、複写の権利を明記するべきだと改めて申し上げたいと思います。仮に明記しないとしても、複写ができることが原則とされなければならないと考えます。   次に、2ページの「3(1)エ」について、検察官及び弁護士である弁護人はオンライン申立てが義務付けられていますが、検察官がする「令状の請求並びに略式命令の請求及びこれと同時にする公訴の提起その他裁判所の規則で定めるもの」はこの限りでない、すなわち紙でもできるとされております。召喚状や勾引状、勾留状など、令状関係は全て紙とデジタルを選択できるものとされていますが、このような規定は極めて不公平です。   令状請求や略式請求の場合には迅速さが必要、かえって非効率となるというような御説明がありましたが、弁護人選任届や準抗告の申立て、勾留取消し請求、保釈請求、上訴の申立てなども迅速さが必要であり、デジタルとすることがかえって非効率となるという場面は当然ございます。例えば、判決直後に仮監で弁護人選任届をもらいまして再保釈請求をするという場面を想定すれば、紙の方が便利であるということは明らかであります。それにもかかわらず弁護人にはデジタル、オンラインを義務付け、検察官には例外を認めるのだとすれば不公平、不合理だと思います。もちろん令状の請求は緊急の場面もあるでしょうが、不当な身体拘束からの解放を含めた弁護人からの援助を受ける権利は、それに全く劣らない緊急性、重要性があります。身体拘束をする方向、強制処分を科す方向には緊急性を認め、解放する方向はそれより劣るとするものであり、その根底の発想自体に被疑者・被告人の人権を軽視する大きな問題があると言わざるを得ません。   次に、6ページの「第1-2」について申し上げます。「2(3)イ」に、令状を遠隔地から呈示する方法が示されており、以前の会議で質問をさせていただいた点でもあります。この点に関連して、令状の写し、コピーを交付するべきではないかということも発言をさせていただきました。この趣旨としては不服申立てを実質化するためのものであり、令状の遠隔呈示については導入しつつ、それをするのであれば、写しやコピーを交付するということは、もはやできるのではないかという発言については取り入れず、不服申立てを実質化するための提案を排除するものということは、偏っていると言わざるを得ないと考えます。   次に、11ページの「第1-3」、電磁的記録提供命令について簡単に申し上げます。電磁的記録提供命令により電磁的記録を提供させた場合には、目録を作るとされていますが、この場合の目録の記載事項が、例えば一定のメールアドレスのアカウントを記載するといった程度の特定であるとすれば、準抗告であるとか、還付に相当する原状回復を求めるといったことが実質的に困難となりかねません。この目録を作るに際しては、データの名称などもできる限り記載するということが必要になるかと考えます。   電磁的記録提供命令が創設されることによる罰則によるプライバシー開示の強制の導入ですとか、ビデオリンク証人尋問の拡大による証人審問権の例外の拡大など、国民の権利利益に関わる重大な問題について、被疑者・被告人となり得る立場の国民の意見を十分に聴くことなく、このような形で成立をさせるとすれば、それは拙速だと改めて申し上げたいと思います。   電磁的記録提供命令の対象の特定が甘いと、地引き網的な令状になり、罰則で電磁的記録の提供が強制されるため、第三者である被処分者への影響も大きいというのが最大の懸念です。パスコードの開示を強制するような運用をされると、憲法第38条違反の懸念があることや、米国のCLOUD Actと同様の海外サーバに所在するデータの開示命令が出されると、国際問題になりかねないということも重要な問題であるということは、申し上げたとおりであり、繰り返すことはいたしませんが、少なくとも当部会においては、罰則の対象から被疑者・被告人を削除し、改めて別の機会に議論するべきだということを申し上げたいと思います。   最後に、15ページの「第1-4」、オンラインの証拠開示に関連して、証拠の一覧表について簡単に申し上げます。証拠の一覧表は、電磁的記録をもって作成したものを提供し、又はこれを印刷した書面を交付とされており、印刷した紙でもよいとされておりますが、これも都合がよい建て付けと言わざるを得ません。一覧表は項目を示すものであり、作成自体パソコンで行うものですので、電磁的記録で提供する以外の選択肢は基本的にはないはずです。それを書面の交付を同等の位置付けとすることは、検察官の便宜を図ろうとするものであり、不公平だと考えます。   「第1」につきましては、以上です。 ○鷦鷯幹事 まず、最初に御指摘をいただいた「試案」の「第1-1」の「2(1)ア」に関して、電磁的記録を複写や、その内容を表示し又は再生したものを電磁的記録として記録する方法による謄写に裁判長の許可を要するものとしている趣旨を改めて御説明すると、電磁的記録である訴訟に関する書類等を複写し、あるいはその内容を表示、再生したものを電磁的記録として記録する方法により謄写をする場合には、そうした方法により得られるものが電磁的記録であるがゆえに、その形態特有の、紙媒体が謄写されるなどする場合とは異なる情報流出のリスクがあり、また、複製も容易であり、一旦流出すれば無限定に拡散され、半永久的に残存するなどして、電磁的記録に係る関係者の名誉やプライバシー等に回復困難な損害が生じかねないため、「2(1)」の「ア(イ)」において、そうした方法による謄写を行う場合については、そのようなリスクや弊害が懸念されることから、裁判長が許可しないことができることとするものであり、複写を原則とする規律にはしていません。   次に、「試案」の「第1-1」、「3(1)エ」のただし書の趣旨は、先ほど資料の説明の際にも御説明させていただいたように、「3(1)エ」本文によってオンライン等の方法によることを義務付けられる申立て等、すなわち検察官及び弁護士である弁護人が裁判所若しくは裁判長又は裁判官に対してする申述の中には、刑事手続の実情に照らして、一律の義務付けの対象とすることでかえって非効率となる場合が生じ、手続の円滑化・迅速化の実現を阻害する結果となりかねないものがあり得ると考えられることから、これまでの御議論・御指摘を踏まえて、個別に義務付けの対象から除くこととするものです。   先ほど久保委員から御指摘のあった弁護人による申立て等には、規則に定められている事柄もありましたが、「試案」において、特に令状請求や略式命令請求を例外としたのは、対象者の逃亡や証拠の隠滅等を防止するために特に緊急性が求められるものであったり、略式命令請求に係る三者即日処理方式のような紙媒体の書類の回付を前提として迅速に処理するために確立された複合的な手続の運用が存在するものについて、先ほど申し上げた趣旨から、例外として一律の義務付けの対象から除外するものであり、それと同列に取り扱うべきかどうかについて疑義があるものについては例外として掲げていません。   次に、新たに「試案」に加えた「第1-2」の「2(3)イ」については、差押状の提示の方法として、相手方の電子計算機の映像面に表示させて示すという方法を設けるのであれば、令状の写しの交付もあってしかるべきではないかという御指摘をいただきました。しかしながら、「2(3)イ」は、令状の呈示の方法としてこのような方法が可能であることを明確化する趣旨のものであり、電磁的記録による令状についてその令状の写しの交付を義務付けるか否かの点は、別の問題です。令状の写しを処分を受ける者の手元に置くことによって令状の真正性を確認できるようになる関係にはないなど、これまでにもお答えしたとおりの理由から、御指摘のような規律を設ける必要はないと考えています。   「第1-3」の電磁的記録提供命令については、「3」の目録の交付に関して御指摘をいただきました。これは、電磁的記録の提供を受けた捜査機関等においてどのような電磁的記録を受領したかについての目録を作成して被処分者に交付することで、「4」の原状回復の措置に係る場面や、「7」の不服申立てに係る場面などにおいて、被処分者と捜査機関との間で無用の紛争が生じることを防止し、それらの手続が円滑に行われることに資することを目的とするものです。目録には、こうした趣旨を踏まえ、提供させた電磁的記録を特定して記載することとなると思われ、具体的な記載は、個々の事案に応じて検討されることになると思われますが、例えば電磁的記録のタイトルとか作成者、作成日時などによって特定するということが考えられます。   最後に、「第1-4」の「2」の証拠の一覧表の提供についていただいた御指摘に関しては、一覧表に記載すべき事項を電磁的記録により提供することについては、証拠の開示を受ける側、それから開示をする側の双方において開示の手続を行う事務を効率化し、開示の手続を迅速化するという利点がありますが、証拠の一覧表を紙媒体のまま交付する場合とは異なる情報流出のリスクがあり、電子データは複製が容易であることから、一旦流出した場合にはインターネットなどを通じて際限なく拡散され、回収困難になるおそれがあるなど、電磁的記録である証拠の開示の場合と同様の弊害のおそれがあります。   証拠の一覧表は刑事訴訟法第316条の14第4項において、「人の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」がある事項が記載され得ることが前提とされており、同項に基づいて、そうした事項を記載しないこととするまでの必要はないという場合でありましても、そうした事項が記載された一覧表の電子データが流出すれば、関係者の名誉、プライバシーが害されることとなる場合は想定されます。そのため、証拠の一覧表に記載すべき事項を電磁的記録により提供することの適否については、その記載内容や、それが流出した場合に捜査・公判の遂行に与える影響等の大きさを考慮して、個別に判断する必要があると考えられます。   そして、そのような判断を最も適切にすることができるのは、それらの事情を考慮すべき点を正確に把握している検察官でありますので、証拠の一覧表に記載すべき事項を電磁的記録により提供するかどうかについては、検察官が判断を行うものとすべきであり、御指摘のように電磁的記録の提供をもってすることを検察官に義務付けるのは適切ではないと考えているところであり、そのような趣旨から、電磁的記録によって提供するか紙媒体によって提供するかは、選択できるものとしています。 ○向井委員 既に話題に出ているところですけれども、「第1-1」の「3(1)」の電子情報処理組織を使用する方法等の申立て等の運用について、意見を申し上げます。   「試案」では「3(1)ア」において申立ての方法として、電子情報処理組織を使用する方法のほか記録媒体を裁判所等に提出する方法が規定され、また、「3(1)エ」において検察官及び弁護士である弁護人は、原則としてそれらの方法により申立てをしなければならないとされる一方、令状の請求並びに略式命令の請求及びこれと同時にする公訴の提起等については電子申立ての義務付けの対象から除外されております。   申立ての方法として、記録媒体を裁判所等に提出する方法を規定する必要性については理解いたしますものの、電子情報処理組織を使用する方法での申立てが可能である場合に、あえて持ち運びや送付が必要となる記録媒体を提出する方法によって申立てを行う合理性は通常、見いだし難いように思われます。また、令状の請求や略式命令の請求等につきましても同様に、電子情報処理組織を使用する方法での申立てが可能な場合であるにもかかわらず、あえて紙媒体を提出する方法によって申立てを行う合理性は通常、見いだし難いように思われます。   そのように考えますと、デジタル化後の実際の運用としては、基本的には電子情報処理組織を使用する方法での申立てが行われることが望ましく、特段の理由なく記録媒体や紙を用いた申立てが行われないような運用が望まれます。 ○酒巻部会長 運用についての御意見ですね。事務当局から何かありますか。 ○鷦鷯幹事 一言だけ付け加えさせていただきますと、「試案」の「第1-1」の「3(1)エ」ただし書の趣旨は、先ほど申し上げたとおりですが、ここに掲げられたものについては、「3(1)エ」本文による一律の義務付けの対象から除外することによって、オンライン等の方法によらない余地を認めるというものにとどまりまして、それ以上の趣旨を含むものではなく、例えば、令状の請求について個々の場面でオンライン等の方法が容易であり、望ましい場合に、その方法によることを制約する趣旨も、書面等によることを推奨する趣旨も含むものではありませんので、念のため付言いたします。 ○向井委員 続けて、また次の話題なのですけれども、「第1-1」の「6(3)」、「証拠書類等に記載された事項等のファイルへの記録」について、事務当局に確認させていただきたいことについて、少し発言させていただきます。   証拠書類等に記載された事項等のファイルへの記録について、この規律によりますと、証拠書類のみならず、「証拠物に記載され、又は記録されている事項をファイルに記録」することが原則として義務付けられることになっております。しかし、例えばビニール袋に入った違法薬物、いわゆるパケ入り覚醒剤であるとか、偽造文書といった典型的な証拠物は、本来的にその存在又は状態が証拠としての価値を持つものであり、それらをファイルに記録して保存、再現することに意味はなく、不適当であるように思われます。また、現在の実務では、裁判所において提出された証拠物を全て領置しているわけではなく、例えば先ほどの違法薬物などにつきましては、その形状やビニール袋に記載された文字等が写真撮影された写真撮影報告書の証拠調べ請求が併せてされておりまして、証拠物そのものについては展示して証拠調べした後、領置の必要がないと認める場合には領置せず、直ちに提出者に返還しているということが多いです。   この規律の下で、提出された証拠物をすべからく電磁的記録化しなければならないとされた場合、現在の実務の運用とそぐわない結果、すなわち本来裁判所で保管する必要もないような証拠物について、既に取り調べた写真撮影報告書に加えて、更にその証拠物を写真撮影するなどして電磁的記録化したものをファイルに重複して記録するような結果となるように思われます。ファイルに記録しなければならない証拠物の範囲につきましては、実務としてそのような無用の作業を強いられることのないような解釈がされるべきと思われます。   この規律では、「ファイルに記録することにつき困難な事情があるときはこの限りではない」とされておりまして、全ての証拠物の電磁的記録化が義務付けられることにはならないとは考えておりますものの、ファイルに記録する必要がないものについてまで電磁的記録化が義務付けられることは不適当であり、裁判所書記官が証拠の電磁的記録化の義務を負う場面でもありますので、電磁的記録化の対象が明確になるような規律が望ましいと考えております。   そこで、証拠物に記載され又は記録されている事項をファイルに記録しなければならない場合として、どのような場合が想定されるのか、また、どのような証拠物であればファイルに記録する義務を負わないと考えられるのかについて、事務当局に確認したいと思っております。 ○鷦鷯幹事 「試案」の「6(3)」は、訴訟記録となるものをできる限り電子データとしてファイルに記録することによって、その管理の効率性を最大化することを目的とするものです。すなわち、提出された証拠書類や証拠物に記載され、あるいは記録されている事項であって訴訟記録の一部とすべきものは、これをファイルに記録することで、訴訟記録をできる限り電磁的記録として管理するようにするためのものです。   このうち、「証拠物・・・に記録されている事項をファイルに記録」には、例えば、録音データが記録された証拠物たる記録媒体について、当該録音データをファイルに記録する場合などが該当すると考えられますし、また、「証拠物に記載され・・・ている事項をファイルに記録」には、例えば、証拠物たる書面の文字等が記載されている部分をスキャンしてファイルに記録する場合などが該当すると考えられます。その一方で、証拠物に記載されている事項であってファイルに記録すべきものであったとしても、その形状等によりスキャンになじまないものについては、ファイルに記録することを強いることによって無理な事務負担を課すこととならないように、ただし書においては、「当該事項をファイルに記録することについて困難な事情がある」ものについてはファイルに記録しなくてもよいものとしています。 ○向井委員 今の御説明で言及があった証拠物たる書面につきましても、現在の実務上、捜査機関においてその証拠物に記載された文書の内容自体を証拠としたいという場合には、その文書部分を複写したり写真撮影したりした報告書が作成されていることが多く、そのようなものが証拠請求されて取り調べられていれば、証拠物そのものについては、手触りだとか厚さといった電磁的記録化できない情報のみに意味があるということになりますので、証拠物たる書面につきましても一律に電磁的記録化する必要はないと考えております。   続いて、証拠の提出の在り方について申し上げます。部会第11回会議でも述べたところですが、刑事訴訟法第310条の証拠の提出の場面についても、申立て等の場面と同様に、検察官や弁護士である弁護人については、電子情報処理組織を使用して当該証拠に係る電磁的記録を提出することを義務付ける規律や、紙での提出を一定の場合に限定する規律が検討されるべきであると考えております。   この点、部会第11回会議において、事務当局から、公訴事実に関してどのような証拠の取調べを請求するかは検察官、被告人、弁護人が自ら選択すべきものであり、要証事実との関係で電磁的記録の取調べ請求を義務付けられるものとすることは、その立証活動を不当に制約するおそれがあり適切ではないという説明がございました。   しかし、証明を要する事実との関係で、当該書類に記載された情報の内容が意味を持つ場合は、裁判所において取り調べられるべきはその情報の内容であり、当該書類そのものを取り調べる必要性はなく、当該情報が記録された電磁的記録を取り調べれば十分であると考えられます。そういたしますと、証拠物の存在や状態そのものを立証したいという場合を除きまして、当事者から電磁的記録を請求又は提出いただくことを原則とする旨の規律を設けたとしても、特定の事実をいかなる証拠で立証するかを当事者に委ねた趣旨と相反するものではなく、当事者の立証活動を不当に制約するものではないと考えております。また、このような規律はデジタル化により刑事手続を合理化、効率化するという今般の改正の方向性や、検察官及び弁護人による申立ての方法につき電子申立てを原則として義務付ける規律が設けられることとも整合的と考えます。   さらに、事務当局からは、公判手続の更新や上訴審の審理などのために証拠を裁判所の保管の下に置くこととした刑事訴訟法第310条の趣旨などからすると、電磁的記録化は中立的な立場で手続を主宰する裁判所の責任において行うべきであるという説明もございました。   しかし、同条は、公判廷で取り調べた証拠書類又は証拠物を当事者の手中に残しておくと散逸毀損のおそれがあるので、これを保全するため事件の終結するまで裁判所がこれを保管する原則を定めたものと解されるところ、同条の趣旨から、裁判所において提出された証拠書類の電磁的記録化の義務を負うことが当然に導かれるものではありません。むしろ主張立証すべき立場にある当事者が、訴訟記録となる証拠を裁判所で保管することを前提に提出する責任を負い、裁判所としては提出された証拠を保管し、判断資料とするのが原則であり、そのことはデジタル化後も変わらないものと思われます。実質的に考えても、提出された証拠書類を裁判所において電磁的記録化して当事者の確認を求めるなどするよりは、第一次的に証拠を収集管理している当事者におきまして、裁判所に対して当該証拠書類に記載された情報を確実に了知できる形で電磁的記録化した上で、当該電磁的記録を請求、提出いただく方法が確実と考えております。 ○吉田(雅)幹事 今の向井委員の御発言には二つの要素が入っているように思われます。一つは、当事者がどのような証拠の取調べを請求し、裁判所において取り調べるかという、証拠調べの対象の問題、もう一つは、証拠調べが終わった後に裁判所に何を提出するか、どういう形で提出するかという問題だと思います。   前者の点、つまり、どのような証拠の取調べを求めるかという点は、先ほど向井委員のお話の中にもありましたが、立証の在り方に関連するものでありますので、デジタルのものが存在する限りそちらで立証すべきだということになると、それは正に当事者の立証活動を制約することにならざるを得ないのではないかと思われます。他方で、今後デジタル化が進んでいって、例えば供述調書の作成が電磁的記録でなされることが基本形になってくれば、それは元々そのように作成されているわけですので、取調べを請求するに当たっても電磁的記録の取調べ請求がなされるようになると思われ、今後、時間が経過することに伴って、電磁的記録で取調べ請求がなされる、そして電磁的記録で取り調べるということが基本的なスタイルになってくるのではないかと思われます。   一方、電磁的記録ではなく有体物としての書類や証拠物が取り調べられた場合に、それを電磁的記録で提出するかということになりますと、これは現行の刑事訴訟法第310条との関係が問題になってくるのだろうと思います。同条は、基本的には取り調べたものそのものを訴訟の記録として残すという発想の下に、原本に当たるものを提出することになっていて、ただし書がございますけれども、これも当事者の方で原本ではなくて謄本を提出してよいかということを裁判所にまず求めて、その許可を得て初めて提出するということになっており、当事者が取り調べたものそのものではないものを提出する義務を負うという構造にはなっていないわけでありますので、それとの整合性を考えますと、書類あるいは証拠物を有形物、物として実際に調べたという場合には、それを提出するのが基本的な規律の在り方ではないかということで、「試案」はそのように記載しているものです。 ○向井委員 今の御説明に対してですが、紙の証拠については通常、そこに記載された情報の内容が証拠としての価値を有すると考えられますので、その情報が電磁的記録に正確に記録されているのであれば、その形態が電磁的記録であろうと紙であろうと証拠としての価値は異ならないと考えられるため、そのような電磁的記録を証拠として請求、提出することに問題があるとは思われません。 ○近藤幹事 向井委員から、デジタル化後の証拠提出の在り方について御発言がありましたけれども、私も同じ意見を持っております。技術的な限界を踏まえつつ現実的な範囲で、という留保があることは承知しておりますが、可能な限りデジタル化を推進して刑事手続の合理化や効率化を図るという今般の法改正における原則的な方向性、これについては揺るがすべきではないと考えております。このたびお示しいただいた「試案」全体を拝見しましても、申立ての方法に関する規律については、法律の専門家として刑事手続に関与する検察官、弁護士である弁護人については電子申立てを原則として義務付ける規律となっています。証拠提出の場面と申立ての場面とで原則的な方向性を逆とするまでの説得的な理由があるようには思われません。今回示していただいた規律を前提といたしましても、以上申し上げたことを踏まえますと、デジタル化後の証拠提出に関する規律を刑事訴訟規則に設けるに当たりましては、今後制定されるでありましょうデジタル化に関する民事訴訟規則の内容なども踏まえつつ検討する必要があると考えております。 ○吉田(雅)幹事 証拠の提出の在り方に関する規律の方向性と、申立て等に関する規律の方向性が逆になっているという御趣旨の御発言があったかと思いますけれども、申立て等については、これから行われることになる訴訟行為をどのように行うかという問題であり、公訴提起あるいは通知といった訴訟行為そのものをどうやるかといえば、これはデジタルでやるのが合理的であろうという発想の下に、そちらを原則化しています。   他方で、取り調べた証拠をどのように出すかというのは、そのような訴訟行為の在り方とは違って、既に収集されていて取り調べられた証拠をどのようにして提出するかの問題ですので、そこを同列に論じることは難しいと思います。   デジタル化を推進すべきだという基本的方向性については、我々もそのようにすべきだと考えておりますけれども、そのことが、直ちに、取り調べた証拠を電磁的記録で提出しなければならないことを意味するものではないと思います。提出された証拠を裁判所において電磁的記録化することもまた、デジタル化の推進の一部だろうと考えております。 ○酒巻部会長 「第1」に関して、ほかに御意見はありますか。それでは、これで「試案」の「第1」についての議論は終えることとします。   次に、「第2-1 刑事施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の創設」から、「第2-3 証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充」までについて議論を行います。御質問、御意見のある方は挙手などした上、どの点についてのものかを明らかにして御発言をお願いします。 ○久保委員 では、「第2」に関して2点申し上げたいと思います。   1点目は、「試案」の19ページの「2(1)ウ」についてです。控訴審の判決期日は被告人が傷病又は障害のため同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき、それから同一構内への出頭に伴う移動に際し被告人の身体に害を加え又は被告人を奪取若しくは解放する行為がなされるおそれがあると認めるときでも出頭させるということになるということかと思います。それができるのであれば、控訴審の判決期日以外の公判期日について被告人にビデオリンク出頭を強制する合理性はありません。特に、後者の同一構内への出頭に伴う移動に際し被告人の身体に害を加え又は被告人を奪取し若しくは解放する行為がなされるおそれがあると認めるときは、判決期日であろうとそのほかの期日であろうと、そのおそれの程度に差があるとは思われませんし、むしろ、もとより現実的ではないものの、強いて言うならば判決期日の方がリスクが高まるのではないかとさえ思われます。そうすると、結局は同一構内への出頭に伴う移動に際し被告人の身体に害を加え又は被告人を奪取し若しくは解放する行為がなされるおそれなどというものは、実際には具体的なおそれがないにもかかわらず、ビデオリンクを強制したい場合の方便として使われかねないという懸念を考えております。   2点目に、21ページのビデオリンクの関係になりますが、簡単に申し上げますが、この「証人(国内にいる者に限る)」という点につきましては、これまでの検討会、そして部会での議論の経過を踏まえ、少なくともこの限定につきましては削除するべきだと考えます。 ○酒巻部会長 事務当局から何か応答はありますか。 ○鷦鷯幹事 1点目の「試案」の「第2-2」の「2(1)ア」について、控訴審については、「ウ」にあるとおり判決宣告期日への保釈中の被告人の出頭は除くことになるわけですけれども、それ以外についても、控訴審については「2(1)ア」の規律を適用すべきではないという御趣旨でしょうか。 ○久保委員 これまでにも、被告人の意思に反してビデオリンク方式での公判期日への出頭が強制されるべきでないということを申し上げておりまして、それについては第一審、そして控訴審、いずれも同様だと考えております。それに関連して今回、刑事訴訟法の改正に関連して、控訴審の判決期日についてはそのような方式で出頭させることはできないという形にされており、それができるのであれば、結局のところ第一審であれ控訴審であれ、強制するということについては合理性がないのではないかという、これまでの意見に敷衍して申し上げたものです。 ○鷦鷯幹事 御指摘のとおり、「試案」の「第2-2」の「2(1)ア」の規律は、控訴審にも準用する趣旨であり、控訴審では通常第一審と異なり、被告人の出廷が開廷要件とされていませんが、そのことも踏まえつつ、仮に被告人が控訴審に自ら出頭し、あるいは裁判所により出頭を求められている場合におけるビデオリンク方式による出頭の要件については、第一審の場合と同様の規律、すなわち、「2(1)ア」の規律とするのが適当ではないかという考えから、このような規律としているものです。飽くまで、先ほど御指摘のあった「2(1)ア」の「(ア)」、「(イ)」の要件を満たすのみならず、その柱書にありますところの、やむを得ない事由があり被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがなく、かつ相当であるという要件も満たしたときに初めて可能とすることは同様です。   その上で、先ほどの資料の説明でも申し上げたとおり、「ウ」は、今年成立した刑事訴訟法等の一部改正法による改正後の規定によりますと、保釈中の被告人について控訴裁判所において判決が宣告される期日には、その被告人に公判期日への出頭を命じなければならないこととされており、これは、その出頭を命じて、実刑判決の宣告があった場合に間断なく保釈が失効した被告人を収容することを可能とするという趣旨ですので、そうした趣旨に鑑みると、控訴審一般については先ほど申し上げたとおり、「2(1)ア」のビデオリンク方式による出頭の規律が同様に妥当するとしても、保釈中の被告人に判決を宣告する期日についてはこの規律を及ぼすべきではないことを明らかにするものです。   2点目の「試案」の「第2-3」において証人等は「国内にいる者に限る」とする趣旨については、先ほど資料説明において申し述べさせていただいたとおりです。 ○酒巻部会長 「第2」について、ほかにありますか。 ○向井委員 「第2-2」の「2(2)」の被害者参加人及びその委託を受けた弁護士のビデオリンク方式による公判期日への出席の要件について質問があります。今般の「試案」では相当性判断の考慮要素として、「取りまとめに向けたたたき台」で挙げられていた、「被害者参加人が予定している訴訟行為の内容」が削除されております。被害者参加人の行う訴訟行為の申出が検察官に対して行われること、被害者参加人の行い得る訴訟行為には尋問や質問も含まれていて、その結果が証拠の一部となることは訴訟当事者による場合と変わらないということからいたしますと、被害者参加人が予定している訴訟行為の内容といった事情も考慮されるべきと思われますが、その認識に相違ないかどうか確認させていただきたいと思います。 ○鷦鷯幹事 御指摘のとおり、「取りまとめに向けたたたき台」においては、「被害者参加人が予定している訴訟行為」も相当性の判断をする際の考慮要素として記載していたところですが、これについては、「試案」の「2(2)」の文言のうちの「審理の状況」に含まれ得ると考えられたことから、より簡潔で端的な表現とするための技術的な観点から修正をしたものであり、「取りまとめに向けたたたき台」から内容に実質的な変更を加える趣旨ではありません。委員の御指摘のとおりの理解でよろしいかと思われます。   相当性の判断について、どのような在り方が考えられるかということについて改めて申し上げますと、この「試案」の「2(2)ア」については、被害者参加人やその委託を受けた弁護士がビデオリンク方式により出席することを許すというものであり、その相当性の判断は、被害者参加人等にそうした方法による出席を許すことによって公判手続の適正な遂行に影響を及ぼすことにならないかといった観点からなされることになると考えられます。   より具体的に申し上げますと、当該期日に行われる手続の内容ですとか、それから、ビデオリンク方式の出席を申し出た者の数、被害者参加人等が在席する場所がどのような場所であるかなどを考慮して、これを許可することによって、例えば、裁判所の訴訟指揮に基づく円滑、迅速な進行に支障を生ずることがないか、検察官と被害者参加人等とのコミュニケーションに支障が生ずることはないか、公判廷と被害者参加人等の所在場所をビデオリンク等方式で接続することによって、その場所で審理の状況が録音・録画されたり、第三者が被害者参加人等に干渉するおそれがないかなどの観点から、相当であるかどうかを判断することになるのではないかと考えています。 ○向井委員 続いて、「第2-3」の「1(1)」の証人の所在場所に関する規律についての質問です。この規律案には、これまでの部会で議論されてきた証人の在席場所に関する考慮要素が明文上規定されていませんが、このような規律とした理由、趣旨について確認させて下さい。   これまでの部会で指摘してきました諸要素、すなわち訴訟指揮権、法廷警察権の十全な行使が確保されること、証人が何らの影響も受けず自己の記憶のみに基づいて証言を行える状況であること、証言内容に関するプライバシーが確保されることといった事情は、証人の在席場所を具体的に検討するに当たって考慮されるという理解でよろしいでしょうか。 ○鷦鷯幹事 まず、「取りまとめに向けたたたき台」と書きぶりを変えている点について、御指摘のとおり、たたき台では、構外ビデオリンク方式による証人尋問を行う際、証人を在席させる場所について、「1(3)」という形で別に記載しておりましたが、この「試案」では、法制技術的な観点から整理をして、「1(1)」に統合しました。これは、規律の内容を実質的に変更しようとするものではありません。   また、たたき台では、証人の所在場所を定める際の考慮要素として、「訴訟を指揮するために必要となる措置の内容その他」という記載もしていましたが、こうした事情を考慮して場所を定めるべきことは当然のことですので、「試案」にはこれを記載していません。もっともこれを記載していないのは、決してこれらを考慮することを否定する趣旨ではありませんし、先ほど向井委員から御指摘がありました点を考慮することを否定する趣旨でもありません。 ○酒巻部会長 ほかに、「第2」について、何か御意見等はありますか。   それでは、「試案」の「第2」についての議論はひとまず終えることにします。   次に、「第3-1 電磁的記録をもって作成される文書の信頼を害する行為を処罰するための罰則の創設」から、「第3-4 通信傍受の対象犯罪の追加」までについて議論を行います。御質問、御意見等のある方は挙手をした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして御発言をお願いします。ないようですね。   それでは、「第3」について御意見がないということなので、これで「試案」の「第3」についての議論はひとまず終えることとし、最後に、先ほど申したとおり、諮問事項全体について、この「試案」に記載されていないものも含めて、事務当局に対する御質問や御意見等をお伺いします。御質問、御意見等のある方は挙手などした上で御発言をお願いします。 ○池田委員 私からは、「試案」の趣旨を踏まえまして、この趣旨が同じように当てはまる他の法律の規定に係る検討の必要性について、意見を申し上げたいと思います。   まず、「試案」の「第1-1」と「第1-2」は、書面や書類を電磁的記録をもって作成することや、各種の令状を電磁的記録により発付・執行することに関するものですが、これらの趣旨は、通信傍受法の傍受令状の発付・執行等に係る規定にも同様に妥当すると考えられますので、それらの規定についても同様の改正を検討すべきであると思います。   具体的には、通信傍受法第3条等に規定する傍受令状について電磁的方法による発付等ができるものとすることや、傍受の実施の終了後、その実施状況を記載して裁判官に提出することとされる書面を電磁的記録をもって作成し、提出することができるものとすること、また、傍受記録に記録されている通信の当事者に対し書面によりすることとされている通知を電磁的記録によりすることができるものとすることなどについて法整備を行うことが考えられます。   さらに、「試案」の「第2」は対面の手続をビデオリンク方式により行うことができるようにすることに関するものですが、先ほど申し上げた「試案」の「第1-1」及び「第1-2」や、この「第2」の趣旨は、組織的犯罪処罰法の没収保全や追徴保全の手続に関する規定、あるいはそれらに関係する外国からの共助の要請に関する手続に係る規定等にも同様に妥当すると考えられますので、それらの規定についても、設けられている手続の趣旨を踏まえつつ、同様の改正を検討すべきであると思われます。   これも具体的に申し上げますと、まず、「第1」との関係では没収保全命令、附帯保全命令あるいは追徴保全命令を電磁的記録により発することができるものとし、また、没収保全命令の執行指揮を電磁的記録によりすることができるものとすることや、没収保全、追徴保全の請求や没収保全命令、追徴保全命令の執行に関して検察官がすることができる処分に電磁的記録提供命令を加えることが考えられます。   また、「第2」との関係では、外国の刑事事件に係る没収、追徴の裁判の執行や、その保全のための共助の要請に関し、審査請求事件への手続への参加を許された者についてビデオリンク方式により審問期日に出頭することができるものとするなどの法整備を行うことが考えられます。   加えて、「試案」の「第1-1」の趣旨は、裁判員法の定めている訴訟に関する書類等についての規定にも同様に妥当すると考えられます。したがいまして、補充裁判員による訴訟に関する書類等の閲覧について、これが電磁的記録である場合に関する規定や、呼び出した裁判員候補者の氏名を記載して検察官、弁護人に送付する名簿、あるいは裁判員候補者の不選任決定に対する異議の申立書を電磁的記録をもって作成し、送付することについての規定、さらには、裁判員法第65条第1項により審理の際の訴訟関係人の尋問及び供述等を録音・録画した記録を記録媒体に記録するのではなく、ファイルに記録するものとする規定などの法整備を行うことも考えられようかと思います。 ○酒巻部会長 他の法律に関わることについて、まず事務当局から何かありますか。 ○吉田(雅)幹事 今の池田委員の御指摘は、「所要の規定の整備」に該当するものを具体化していただいたものと理解いたしました。条文化の際には御指摘を踏まえてきちんと対応したいと考えております。 ○酒巻部会長 関連の規定の整備等について、ほかに御意見があれば、お願いします。 ○小木曽委員 池田委員の御発言と同じ趣旨ですけれども、私からは犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律、いわゆる付随措置法の諸規定、それから少年法につきましても、「試案」の「第1-1」から「第1-3」、それから「第2」の趣旨が妥当するものについては、それらの規定について必要な改正の検討がされるべきであると思われるということを申し上げたいと思います。   例えば、付随措置法につきましては、被害者等による公判記録の閲覧・謄写、当事者による和解記録、損害賠償命令事件記録の閲覧・謄写の定めがあります。ですので、これらの記録が電磁的記録である場合に関する規定が必要だと思いますし、刑事和解につきましては、成立した合意を公判調書に記載することを求める申立てをすることになっていますが、この公判調書が電磁的記録をもって作成される場合に関する規定、さらには、損害賠償命令事件については民事訴訟法が準用されることになっておりますが、民事訴訟法のIT化との関係で必要となる、例えばビデオリンクによる手続といったものについて、それぞれ所要の法整備が検討されるべきであろうと思います。   少年法につきましては、もちろんその特性を考慮しつつということになるとは思いますけれども、被害者等による少年保護事件記録の閲覧・謄写、弁護士である付添人による異議申立て、抗告、検察官の抗告受理の申立て等の各種申立て、それから、呼出状、同行状、観護令状の発付、家庭裁判所のする検証、押収、捜索などの定めがありますので、事件記録であれば、それが電磁的記録である場合に関する規定、申立てについては、それを電子情報処理組織を使用する方法等によるものとする規定、令状の電磁的方法による発付に関する規定、家庭裁判所の強制処分に電磁的記録提供命令を加える規定なども所要の法整備が検討されるべきであると思います。 ○近藤幹事 少年法について、小木曽委員の御意見に賛成であります。刑事手続における書面のデータ化、発受のオンライン化、傍聴制度を含む捜査・公判手続の非対面・遠隔化に関するこれまでの部会での議論は、少年法や少年審判手続においても同様に当てはまるものと考えております。例えば、刑事手続における映像と音声の送受信による手続を用いて手続を進行させることが必要であるとして、新たな制度が検討されている場面につきましては、少年審判手続においても同様の必要性が認められると考えられます。小木曽委員から御指摘がありましたとおり、少年審判手続の特質、これは踏まえる必要があると考えてございますが、基本的には刑事手続と同様の規律を少年法や少年審判規則において設けることが検討されるべきであると考えられます。 ○酒巻部会長 今の点に関して、ほかに御意見はありますか。 ○久保委員 少年法について申し上げます。本部会の当初から複数回にわたって、少年法について議論することの必要性は申し上げてまいりましたが、これまで十分に議論の対象とはなっていませんでした。少年事件におけるIT化を検討する場合には、一般の刑事事件とは異なる特有な要素として、手続の対象者としての少年の特性である未成熟さ、そして少年事件の手続的な特徴を十分に考慮する必要があります。手続のIT化、特にビデオリンク方式による弁解録取や勾留質問などがもたらす影響については、少年が適切な対応をとることが可能か、場面の切替えを理解できるかなど、少年の特性を踏まえた検討が必要です。   少年事件の謄写につきまして、オンライン謄写ができるようにするべきということはこれまでにも申し上げましたが、少年審判の手続は迅速性が求められる一方で、一つの法律記録を多数の者が同時に使用することなどで時間を要していることが少なくなく、審判期日までに法律記録の謄写が完了しないという事態も発生していると聞いています。社会記録につきましては、特にプライバシー性の高い情報が含まれますが、他方で期日直前に閲覧の機会を確保することが難しく、少なくともオンラインによる閲覧をできるようにする必要性は極めて高いといえます。   オンライン接見につきましては、まずは直接的な面会が重要であるということは成人と同様ではあるものの、手続の迅速性の観点及び少年鑑別所が拘置所よりも更に施設数が少なく地理的にアクセスが困難な地域が少なくないことなどを考えれば、付添人によるオンライン接見を可能とする必要性は高いと考えます。   少年につき、仮に法制審議会での具体的な議論を経ることなく改正をするのであれば、改正に当たっては、少年事件に注力する弁護士を含む有識者からの意見を聴き、適切な形での改正がなされるべきです。   また、関連するものとして民事訴訟法に先ほど言及されていましたので、若干申し上げますが、刑事事件の判決書が電子データになるのであれば、民事訴訟と同様に、仮名処理を含むプライバシーへの十分な配慮を前提に、オープンデータ化した上で量刑傾向の把握などに利用できるようにすることが望ましいと考えます。民事につきましては、既にオープンデータ化することを前提に、課題を検討するために民事判決情報データベース化検討会が開催され、第11回会議まで終了されていますので、刑事につきましても今後、同様の検討がなされるべきと考えます。 ○酒巻部会長 今の点についてほかに御意見等はありますか。   なければ、ほかの観点について、どなたか御意見等はありますか。 ○久保委員 「第1」、「第2」、「第3」を通じて、これまでの部会で発言した点は、繰り返しを避けさせていただきましたが、申し上げてきたことについて意見を変えるものではございません。そして、日弁連が特に重大な問題だと考えておりますのは、データの授受を含むオンライン接見の問題と電磁的記録提供命令の罰則の問題です。電磁的記録提供命令につきましては先ほども申し上げましたので、それを踏まえてオンライン接見について申し上げたいと思います。   オンライン接見については、国会においても、本年11月9日の参議院法務委員会において、伊藤孝江議員が質問をされていたのを拝見しました。これに対して政府参考人である松下刑事局長は、法制審議会の推移を見守っていると回答されていましたが、その法制審議会では意見を述べても議題に反映されません。むしろ国会の方が、その必要性に理解をしていただいているように見受けられました。国会議員は国民の代表であり、法制審議会はそうではないにもかかわらず、あたかも国民の代表であるかのように議題を取捨選択することは許されるべきではありません。地方の議会でもオンライン接見の推進を求める意見書が採択されていると聞いております。現時点でも、予算のことを踏まえてもなお規定を設けることは可能だと考えますし、以前も申し上げたとおり、規定の案を示すこともできますが、仮に現時点では予算を理由に設けないのであれば、オンライン接見について、今後の試行を踏まえた上で、罪証隠滅などの弊害を防止しつつも、将来的に明記することに向けて議論を続けていくことを確認するべきです。   本部会はオンライン接見の必要性自体を否定しているものではなく、それが「試案」に反映されないという議論の経過への疑問という点について、改めて申し上げたいと思います。重要なことは透明性や手続の公正さです。刑事手続は人権を大きく侵害する可能性がある場面であり、取り分け手続の公正さが最も重要となる場面です。その手続を決める方法に透明性がない中で法改正がなされて、それが適切に現場で運用されるということが信頼されるはずがありません。   全体に関連して、先日ある裁判官から、刑事手続のIT化を機にどのように、より直接主義、公判中心主義を進められると思うかと質問されました。私は、この「試案」では直接主義、公判中心主義から遠ざかるのではないかと懸念しています。この法律を改正して現実に使うのは実務家です。IT化により刑事手続がより充実したものとなり、直接主義、公判中心主義がより進むのではないかと期待している多くの実務家が残念に思うのではないかと強く懸念しますし、改正がなされた場合には直接主義、公判中心主義を進める方向で利用されることを望むものです。 ○酒巻部会長 御意見ありがとうございました。 ○吉田(雅)幹事 今の御指摘のうち、今回の「試案」やこれまでの議論に基づく法整備が直接主義・公判中心主義から遠ざかるものであるという御指摘の趣旨がよく分かりませんでした。それは措くとしても、今回お示ししている「試案」は事務当局が勝手に作ったものではなく、これまでの議論の状況を踏まえて、部会長の御判断も仰いだ上で作成しているものです。皆様それぞれのバックグラウンドがあって、様々な御意見がありますので、それらの御意見が全てそのまま法整備として実現されるわけではないということは御理解いただいていると思いますが、様々な立場からの御議論を経て、おおむねこの方向であれば、皆様が当部会で認識・理解が共有されているところを実現できるのではないかということで作成しているものであるということを、念のため申し上げます。 ○安田委員 このタイミングで発言させていただくのがよいかどうか分かりませんが、久保委員の御発言の後でもあるので、言いにくいのですけれども、「第1-3」の関係で1点申し上げておきたいことがございます。   「試案」の13ページの「8」の罰則の法定刑に関してでございますが、「1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」とされており、これは、刑事訴訟法に既にある証人出頭拒否罪等の法定刑を参考にすべきであるなどといったこれまでの当部会における御議論を踏まえたものであって、そこだけ見ますとそれ自体として妥当性を欠くものとは思われませんが、「試案」という形で「第1」から「第3」までを通覧してみますと、「第3-3」の「3」の罰則の法定刑と並べて見たとき、特に罰金額が30万以下であるというのでは、これが法人に対して科される額でもあることを考えますと、選択できる幅が相当小さいという印象がないわけではございません。   確かに「第1-3」の罰則と「第3-3」の罰則とでは保護法益や制度趣旨が異なりますので、単純に両者をそろえるべきだということにはならないようにも思われます。しかし、提案されている罰金額の上限額が同時に法人に対して科し得る罰金刑の上限額でもあるという前提の下で、両罰規定で法人に対して科し得る罰金の上限としてどのようなものが相当か、法人処罰として実効性を確保するというふうな観点からどういうものが相当かということを改めて考えてみますと、先ほど参照していました刑事訴訟法のこれまでの罰則には法人を対象とするものはなかったわけですので、もう少し幅を広げておくということも考えられるのではないかと思われる次第です。その際の検討の手掛かりとしましては、飽くまで例えばではありますけれども、行政法分野における法人に対する調査を担保するための罰則の罰金額の水準を参考にする余地もあるのではないかとも考えられるように思われます。   いずれにしましても、拘禁刑の水準は維持しつつ、他方で罰金刑の選択の幅を広げることは今一度考えてみてもよいのではないかという印象を持ったという次第でございまして、少し追加させていただきました。 ○酒巻部会長 今の罰金額に関することについて、何か御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、元に戻って諮問事項全体について、ほかに御意見等はありますか。 ○𠮷澤委員 オンライン傍聴について、改めて意見を申し上げておきます。これまで何度も申し上げている点ですけれども、理論的には、第6回会議で小木曽委員も御指摘されましたように、憲法第82条第1項で定められている裁判の公開について、具体的な公開方法というのは現行法上、特に定めがありませんので、裁判の公開方法について、現行法はこれを音声・映像の送受信によって行うことを禁止しているものではないと思います。また、やはり刑事手続においては他の手続と異なり、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律において、裁判長に被害者等の傍聴への配慮義務を定めた法律が現に制定されているということについても留意するべきであると思っています。   これまでにも述べてきたところですが、このように特に禁じる明文はなく、公開方法について特に取決めがないものですから、今後、様々な事情によってオンラインによる傍聴がどうしても必要な場合、それを認めなくては被害者等の傍聴への配慮義務を果たしているとはいえないのではないかというケースが出てくる可能性も十分にあると思います。こういった場合には是非、積極的に柔軟にオンラインという方法による傍聴という形で配慮義務を実行するということも考えていただきたいと思っております。 ○酒巻部会長 ほかに、諮問事項全体について、この「試案」に記載されていないものを含めて、事務当局に対する御質問あるいは御意見があれば伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。   よろしいですか。それでは、これで一通り「試案」について検討してまいりましたので、「試案」についての本日の審議はこの程度にさせていただきます。   これまで様々な観点から御意見、御議論いただき、誠にありがとうございます。   次回の審議の進め方につきまして、私から提案させていただきます。本日の議論の状況を踏まえますと、議論は十分に熟し、当部会として結論を出す段階に入っていると考えています。そこで、事務当局には本日の議論も踏まえて、「試案」について修正すべき点がないかを点検しつつ、法制審議会に提出する「要綱(骨子)案」を作成してもらい、次回はそれに基づいて、最終的には採決をすることも念頭に置きつつ、詰めの議論を行いたいと思いますが、このような進行方法でよろしいでしょうか。              (異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、御異論がないので、そのように進めさせていただきます。   それでは、次の日程について事務当局から御説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回の第15回会議は令和5年12月13日水曜日の午前10時からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては別途、御案内を申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の議事についても、特に公開に適さない内容にわたるものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきます。また、今日の配布資料、「試案」についても公開することとしますが、そのような扱いでよろしいでしょうか。              (異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会いたします。 -了-